《40》ワイバーンの正体
「ううウゥゥゥゥゥゥゥ。」
「ガルシュダッド様・・これはいったい・・」
突然呻き出したワイバーンに、慌てるヴィオレット。対照的に、ガルシュダッドは冷静だ。
「大丈夫だ、心配無い。」
「ですが・・・。」
「あれは、元の姿に戻ろうとしているだけだ。」
「元の姿?ですか?」
ワイバーンは、ワイバーンのはずだ。元の姿とは、どういう意味なのだろう。戸惑うヴィオレットにガルシュダッドは、困った表情を浮かべる。
「実はだな・・・ワイバーン・・・いや、人族がドラゴン種と呼ぶ者達には、二つの姿があるのだ。巨大なドラゴンの姿と、獣族として、人族や魔族に近い姿。」
獣族として・・・それではまるで、ドラゴン種が獣族の一種である様に聞こえる。
「彼等は、人族の作り出したドラゴンと言う種に魅せられていてな、自分達の身体をドラゴンの姿に変え、生活しているのだ。」
「それでは、ドラゴン種は・・・。」
「基本的に獣族の事だな。探せばもしかしたら、本物のドラゴン種が居るかもしれんが、人族の言っているドラゴン種は、獣族達の事だ。」
「そんな・・・。でも、獣族は魔法が使えないんですよね?変身するなんて出来ないのでは?」
「いや、それは間違っている。獣族も人族も魔法を使う事が出来る。」
「え? でも、それでは・・・」
この世界には、明確な種族分けがあったはずだ。
魔族は魔法
獣族は力
人族は知恵と工夫
それは、固有の能力とされていたはずだ。
だから、魔族以外は魔法が使えない。魔法を使う者は魔族のはずだ。
「人族は、魔族、獣族、人族がそれぞれ、全く違う者達だと思っている様だが、それは違う。たとえば魔族は、魔法が無ければ非力で、知識はあっても新たに何かを生み出す事が出来ない。とされているが、力など獣族ほどでは無いが、鍛える事は出来るし、新たに何かを生み出す事が出来ないのであれば、魔族に個性というもが無いという事になってしまう。つまり、得意な事と不得意な事はあるが、全く出来ない訳では無いと言う事だ。だから、人族も使おうと思えば魔法を使う事は出来る。ごく微量であれば、自身で魔素を作り出す事も出来き、空気中から魔素を抽出する事もできる。しかし、人族は、魔素を体内にためておく事が出来ない為、使えてもとても弱い。そして、獣族は、自身で魔素を作り出す事は出来ないが、空気中から魔素を抽出する事は出来きる、体内に溜めておく事も。しかし、体内で魔素を作る事が出来ないせいなのか、自分自身の身体以外に魔法の影響を与える事が殆ど出来ない。そこで、獣族は自分自身の身体を、獣や架空の生き物達の姿に変え、力を得る事を選んだ。」
「では・・・ワイバーンさんは・・・。」
「獣族だ・・・だから言っただろう、ガッカリすると。」
ガルシュダットの言っていた意味がようやく分かった。
ヴィオレットが勝手にワイバーンはこういう者だと思って、期待していただけで、ガッカリと言うのは身勝手なのは分かっている。それでも、確かに・・・少し・・・ちょっと・・・ガッカリしたのは確かだ。
「でも、大きさが違い過ぎませんか?」
「だから、今呻いているのだろう。」
「え?」
「元の大きさは、俺達と大して変わらんのに、あんなに身体を巨大化させているのだから、多少の苦痛は当然だ。」
多少・・・には、とても見えない・・・
苦しそうな呻き声と共に、ゴキゴキバキバキとういう音まで聞こえ、腕や足がありえない方向へ曲がっている。
「ぎぐうううぅぅぅぉぉ。」
どう見ても、苦しんでのたうち回っている様にしか見えないワイバーン。
「本当に・・・大丈夫なんですか?」
「多分大丈夫だ。」
「たっ多分??」
「俺もドラゴン種のになった者が、獣族に戻る所を見るのは初めてだからな。」
「え?」
「普段であれば、わざわざ他の者の前で姿を変える必要は無いからな。それに、多少苦痛を伴うせいか、コロコロと姿を変える者は少ないからな。」
確かに苦痛を伴う事を、好んでする者は少ないだろう。ならば、ヴィオレットの耳くらいで、わざわざ獣族の姿に戻ってもらうなど申し訳ない。しかし、今更止めるわけにもいかず、ワイバーンを見守る事しかできない。
最終的にミシミシという音の後、プシューという音と共にワイバーンの姿は、真っ赤な布の下へと消えてしまった。
「ガルシュダッド様、ワイバーンさんが・・・・」
泣きそうになっているヴィオレットに、ガルシュダッドは優し笑みを浮かべている。
「心配する必要は無い、きっと大丈夫だ。」
「きっ・・きっと?」
はっきりと大丈夫と言ってくれないガルシュダッドに、ヴィオレットが不安を感じていると、真っ赤な布がゆっくりと動き出し、中から先ほど聞いていたワイバーンの声と同じ・・・しかし、小さな声が聞こえてきた。
「ふう、久しぶりにこの姿に戻ったぞ。」
ヴィオレットの目の前で赤い布を纏った女性がゆっくりと、立ち上が・・・・
「イテテ、腰が、腰がぁ。」
立ち上がれなかった・・・
その女性は、腰に手を当て、片膝を立ててなんとか立ち上がろうとするが、どうも上手くいかない。
少しぽっちゃりとした体型に、クリッとした大きな瞳・・・
ヴィオレットは、ワイバーンの力強い姿と、神秘的なイメージから、若々しく美しい女性が現れると思っていた。
「魔王よ、杖をくれんか?杖を。」
ガルシュダッドが、何も無い空間から少し長めの木の棒を取り出し、ワイバーンだった者に渡す。
「これじゃこれ、どっこいしょ。」
そうして、今度こそゆっくりと立ち上がった、ワイバーンだった者・・・
その姿をみて、ヴィオレットはガルシュダッドの言葉を思い出していた。『ガッカリする前に、ガッカリさせておきたかった。』
ガルシュダットの言っていた本当の意味で、ようやく分かった。
ヴィオレットが勝手にワイバーンはこういう者だと思って、期待していただけで、ガッカリと言うのは身勝手なのは分かっている。それでも、確かに・・・ちょっと・・・いや、かなりガッカリした。
深い皺のある肌。 地面に引っ張られる様に曲がった腰。杖をついているのに、何故か転んでしまうのでは、と不安になってしまう立ち姿。
「久しぶりにこの姿になったが、ワシ、まだまだ若々しいのう。」
深い皺を更に深くしてほころぶワイバーン。
それとは対象的に、ガルシュダッドは眉間に皺を寄せ、ヴィオレットは戸惑っていた。
「あの・・・獣族も魔族の様に見た目と年齢が、必ずしも比例しているわけでは無い・・・とか?」
「残念ながら獣族は、見た目と年齢が比例している。」
小声で話す、ガルシュダッドとヴィオレット。その姿を見ていたワイバーンは、何故か上機嫌だ。
「何じゃ、ワシの美しい姿に感動しておるのじゃろう?分かるぞ!。」
「思った以上の老婆が、ワイバーンをやっている事には感動している。」
目を細め、呆れた声を出すガルシュダッド。対して、ワイバーン あらため老婆は、杖で身体を支え、唾を飛ばしながら叫んだ。
「老婆じゃと!!ワシは、こう見えてまだ523歳じゃぞ!!」
「充分過ぎるほどの老婆だろう!」
草原に、ガルシュダッドの言葉がこだましていた。




