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魔王の白は、魔族の常識を知らない  作者: のんびり歩く
獣界編

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《39》耳は大切



「まったく、ヴィオレットを怯えさせるな。」


震えるヴィオレットの身体を優しく抱きしめ、ワイバーンを睨みつけるガルシュダッド。

睨みつけられたワイバーンは下を向き、申し訳なさそうに小さな声を漏らした。


「大声を出した事は、悪かった。しかし、元を正せば昨晩、突然あんな場所に現れたのが悪いのじゃろう。それとも魔族は、初対面の挨拶を、あんな場所でするのが普通なのか? ?」


声こそ小さくなったものの、苛立ってはいるらしく、大きな尾がバシバシと地面に叩きつけている。


「普通・・・では無いな。しかしだな、ヴィオレットがワイバーンの実態を知って、ガッカリする前に、ガッカリさせておきたかったのだ。」


「どうゆう事じゃ!!ワシの姿を見たら、必ずガッカリするみたいな言い方は!!」


尾を更に激しくバシバシと地面に叩き付けはじめるワイバーン。かろうじて大声は出してはいないが、声色は明らかに怒りに満ちている。


「ワイバーンの姿では無い、中身だ!!」


ガルシュダッドは、ワイバーンの勘違いを全力で訂正した。

訂正しない方が良かった気もするが・・・


「もっと悪いじゃろう!!」


「仕方がない、事実だ。」


「言い方というものがあるじゃろう!!それでは、ワシの中身がガッカリみたいに聞こえるじゃろうが!!」


「だからそう言っている。」


「魔王が言っておるのは、見た目の話じゃろう?今の会話では、まるでワシの精神面や能力面で、ガッカリと言っておるように聞こえるじゃろう。」


「そうのか?」


キョトンとしてるガルシュダッドに、ワイバーンは苛立ち、尾を更にバシバシと地面に打ち付ける。


「あーもう、面倒な魔王じゃ。まったく、何故ワシの所に来たのじゃ! ワイバーンなど他にもおるじゃろう。」


「ヴィオレットが、一番ガッカリしそうなワイバーンを探していたからだ。」


「それで・・・あんな所に居たワシを選んだと・・・納得出来るか!!!ガッカリの為に、あんな場所に現れるなど、どういう神経をしておるんじゃ。ワシの都合は御構い無しか、ワシはレディーじゃぞ!!」


「レディー・・・レディー・・・レディー・・。」


ガルシュダッドは、『レディー』という言葉を受け入れられなかった。


「レディー・・・ゴー?」


「スタートの合図じゃ無いわ!!女性じゃと言っておるんじゃ!!」


「じょ・・女装?」


「無理矢理違う言葉にするな!!女性じゃ女性!!レディーじゃ!!雌じゃ!!女じゃ!!」


ワイバーンの尾が更に、更に強く激しく地面を叩きつけ、おかげで草が生えていたはずの地面は、砂埃と共に舞い上がり、土がむき出しになっている。


「女・・・??」


「そうじゃ、ワシのどこが男に見えるというのじゃ!この美しい翼と、スラリとした尾、そしてなんと言っても、この滑らかな肌!何処をどう見ても美しい娘じゃろう。」


ガルシュダッドの目に映るのは、硬い鱗に、大きな身体と、鋭い爪、喋る度に見え隠れする鋭い牙。


「いや、全く分からん。」


「そこは、分からんでも男と間違えたのじゃ、『すみませんでした。』くらい言えんのか!!」


「すみませんでした。」


「気持ちがこもっておらんわ!!」


睨み合い、言い合いをするガルシュダッドとワイバーン。

その間に挟まれたヴィオレットの身体からは、いつの間にか震えが止まり、小さな笑いが溢れていた。

それは、いくら声を荒げ、怒っていようとも、ガルシュダッドとワイバーンの間に、負の感情は感じられなかったからだ。


「仲が良いんですね。」


言い合いをするガルシュダッドとワイバーンに、ヴィオレットは小さな声を漏らした。

別に返事を求めていた訳ではなく、ただ単に思った事を口にしただけだ。だから大声に掻き消されて、返事は無いと思っていたのだが・・・


二人はまるで時間が止まったかの様に動きを止め、ギシギシと音が鳴りそうなほどゆっくりとぎこちなくヴィオレットへと視線を向け


「「どこがじゃ」だ」


同時に叫んだ。

空気が震えるのを肌で感じ、まるで巨大な壁にでもぶつかったかの様な衝撃と共に・・・ヴィオレットの耳が、使い物にならなくなった。


「?」


何が起きたのか、分からない。ただ、耳がジンジンとひどく痛む。

ガルシュダッドが心配そうにヴィオレットの顔を覗き込み、何か言っているが、何も聞き取れない。

いや、ガルシュダッドの声だけでは無い。周辺の音も、何一つ聞こえてこない。


「?」


ヴィオレットに向かい、ガルシュダッドがもう一度口を動かしているが、やはり何も聞こえない。


「何も聞こえません。」


そう言った自分の声すら、聞こえない。しかし、ガルシュダッドには聞こえたのか、先程までの険しさが消え、ゆっくりとヴィオレットを地面に下ろした。

別に、ずっと抱き上げられていたい訳では無いが、突然下されると不安になる。


「どうして・・・?」


まるで暗闇の中にとり残されたかの様に、不安になるヴィオレットを安心させる様に、大きな手でヴィオレットの頭を優しく撫でながら、そっと地面に膝をつき、両手をそっとヴィオレットの耳に当てた。

暖かな温もりと、低く脈動する音がヴィオレットの耳を包み込み、心が落ちついていく着く。

そう思ったのもつかの間で、直ぐにガルシュダッドの手は離れていった。


「これで聞こえるか?」


今度は、ハッキリとガルシュダッドの声が聞こえてきた。


「すごい、これが治癒魔法・・・ですか?」


一瞬で聞こえなかった耳が治ったのだ、普通はそう思うだろう。


「いや、俺の魔素を注いだだけだ。俺は、細かな魔法は苦手だからな、治癒魔法を使うと、耳が増えたり、巨大になるなんて事になりかねん。魔素を与えるだけで治って良かった。」


と、言いながら大きな手で優しく頭を撫でてくれた。


「ありがとうございます。」


ヴィオレットは、心からお礼を言った。勿論、魔素を分けてくれた事と、それ以上に治癒魔法を使わないでいてくれた事に対してのお礼だ。


お礼を言われたガルシュダッドは、ヴィオレットに嬉しそうに優しい笑みを向け、小さく頷くと、その視線を鋭く、厳しく変え、ワイバーンに向けた。


「その大きな体型で叫ぶな。ヴィオレットの耳が壊れるだろう。」


「体型!!その言い方では、デブだと言っている様に聞こえるじゃろう。」


ワイバーンはムッとしながらも、溜息を吐き出す。


「まあいい、この身体では話ずらいのも事実じゃし、魔王に治癒魔法を使わせては、その娘が気の毒だ。魔王よ、何か大きな布は無いかの?」


返事の代わりに、ガルシュダッドは何処からともなく、大きめの真っ赤な布を取り出し、それをワイバーンに向かって投げた。

赤い布がフワリと風に舞い、ワイバーンの頭に乗ると、ワイバーンは大きな溜息を吐き出しす。


「久しぶりじゃから、少し時間がかかるぞ。」


そう言い終わると同時に、ギシギシミシミシという不穏な音と共に、ワイバーンが苦しそうに呻きはじめた。

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