《37》ロリ・・・・
「それは、どういう意味何だ?」
そう聞かれた場合に考えられる事は二つ。
一つは、本当にロリコンと言う言葉の意味を知らない。
もう一つは、知っていてあえて聞いている。つまり・・・
『ん? まさか俺に言っているのか?ロリコンと?まさかな、聞き間違いだよなぁ?』
という、圧力である。
目の前のガルシュダッドは、笑っている。
その笑顔に裏があるかどうか、ヴィオレットには分からない。
ただ笑っている・・・
笑っている・・・
ヴィオレットは、ゆっくりと無言で身体を起こし、その場に正座をし、ゆっくりと頭をベットに押し付けた。
「ごめんなさい。」
どうやらヴィオレットは、ガルシュダッドの笑顔を無言の圧力と捉えた様だ。
数秒の間そうしていると、下げた頭に、ガルシュダッドの大きな手が乗る。何かしらの攻撃かと身体を強張らせたものの、その手はヴィオレットの髪の上を優しく滑っていった。
そうして数回、大きな手が髪の上を滑っていくのを感じて、どうやら怒っているわけでは無いと思ったヴィオレットは、ゆっくりと頭を上げる。
そこには、先程と同じ笑顔を浮かべるガルシュダッドいる・・・
「で、どういう意味だ?」
ヴィオレットはもう一度頭をペタンとベットに付けた。
「ごめんなさい。」
「で、どういう意味だ?」
ガルシュダッドの言葉に、責める様な雰囲気は無い。
「ごめんなさい。」
それでも謝るヴィオレットの声は、微かに鼻声になっていた。
「ヴィオレット、前にも言ったが、常に肌を触れ合わせておく必要がある。しかし、寝ている間中ずっと手を離さずにいるのは、ほぼ無理だ。無意識で寝返りをうつ事もあるしな。だがこうして側にいれば、何処かしらは触れていられるだろう?」
もっともらしい事を言ってはいるが、こうして寝起きにガルシュダッドを見るのはこれで2回目だ。ガルシュダッドの言う事が正しいのなら、毎日こうして一緒に寝起きしているはずだ。
ヴィオレットは勢い良く顔を上げると、少し潤んでいる目のままガルシュダッドを睨みつけた。
「ですが、今まで別々に寝たじゃないですか。」
先程とは一変して、責める様な口調で言うと、ガルシュダッドは何故か、眉間に皺を寄せて首を傾げた。
「何を言っている?一緒に寝ていただろう?」
「何を言っているんですか、私はずっと一人で寝ていました。」
「毎朝、俺が起きると『行ってらっしゃい』と言ってくれていただろう?」
そんな事を、ガルシュダッドに言った記憶は無い。
ガルシュダッドには言った記憶は無いが・・・・
「父には言いまし・・・た・・。」
思い出した様に、ポツリと言った瞬間、今度はガルシュダッドが勢いよく起き上がった。
「父?ラルグランだと思っていたのか。」
「え?」
「毎朝、『おはよう、お仕事がんばってね。行ってらっしゃい』と言って、ギュッとしてくれたのは、ラルグランと勘違いをしていたからだと言うのか!」
ガルシュダッドの悲痛な声が、部屋の中に響く。
ヴィオレットは考えていた。いや、思い出していた。
毎朝、早い時間に、寝ているベットが揺れる感覚で微かに目が覚める。ぼんやりとした意識の中で、優しい男性の声が『おはよう、ヴィオレット。』と言い、大きな手がヴィオレットの頭を撫で、暖かな温もりがゆっくりと離れていく。それを寂しく思いながらも、仕事なのだから仕方がないと、ぎゅっと抱きつき・・・・
抱きつき・・・・
だっ・・・
「父です。」
ヴィオレットは、相手が父だったと思う事にした。
「無理だろう。俺の寝室は、俺の許可無しでは入れない。ラルグランには、許可を出していないぞ。」
「父です。」
「それに、ラルグランが部屋に入ってくるなら、イライザも一緒に入ってくるだろう?」
「母は、きっと後ろに居たんです。ただ、私が眠そうだったので遠慮しただけです。」
「それならば、イライザがラルグランを押し退けているだろう。」
確かに、ヴィオレットの母であるイライザが、その場にいたのならラルグランを押し退け、真っ先にヴィオレットを抱きしめていただろう。
ならば・・・
「そうだ!きっとねぼてけて、父と母を勘違いしたんです。あれは、母でした。」
「いや、それは流石に無理があるだろう。」
「いえ、寝ぼけて勘違いしていました。毎朝起こしてくれたのは母でした。」
「胸はどうした!男の硬い胸と、女性の柔らかい胸では、感触が全く違うだろう?」
「胸・・・母のそんな所ばかりを見ていたのですか!」
「違う!一般的な話だろう。」
「一般的な男性は、女性の胸ばかりを見ているという事ですか?」
「何故そうなる!・・・いや、見ているが・・ジロジロ見ているわけではなく・・女性の魅力の一つとしてだな・・チラッと・・。」
「見ているんですね・・・。」
そう言いながら、全く膨らみの無い自分の胸元を見下ろすヴィオレット・・・
「ヴィオレットは成長途中だろう。心配する必要は無い。それに俺は胸があっても無くても・・・って、話が完全にすり替わってるだろう。」
「何の事ですか?」
「意地でも認めない気だな。ならば少し考えてみろ、常に肌を触れ合わせている必要があると言ったにも関わらず、最近は殆ど俺に会う事が無かっただろう?それなのに、他の者に触れても魔素を強制的に吸収せずに済んだのは何故だ?」
「それはきっと、ガルシュダッド様に会った時に一度に大量の魔素を吸収していたからです。」
「違う、毎夜こうして一緒に眠っていたからだ。」
「いえ、一緒に寝ていたのは父でした。」
「今さっき、イライザだったと言ったばかりだろう。」
「そうです、母でした。」
認めないヴィオレット。
認めさせようとするガルシュダッド。
互いに睨み合い・・・・
先に折れたのは、ガルシュダッドだった。
大きな溜息をゆっくりと吐き出し、ベットの端に置いていたシャツに手を伸ばし、スルスルと袖に腕通し、着ていく。
「まあ、良い。ヴィオレットが認めたくないのなら、ラルグラン・・・いや、イライザだったか?どちらでも良いが、とにかく俺では無かった事にして良い。どうせ、これから毎日俺に起されれば、嫌でも認めざるおえなくなるだろう。」
「これから・・・毎日・・・。」
「そうだ、これから毎日な。」
ヴィオレットの顔が引きつり、頭の中にもう一度、あの言葉が帰って来た。
「ロリ・・・・。」
「違うからな!魔素を分与える為だからな!」
ガルシュダッドの声が部屋の中に響いていた。




