《31》変身と王
「ヴィオレットに、コレをやろう。」
ヴィオレットの身長に合わせるように、腰を落としている獣王様。その手には、真っ白で三角の形をした、猫の耳のカチューシャが乗っていました。
獣王様は、それを手ずからヴィオレットの頭に取り付けます。
「コレは・・?」
「大丈夫だ、心配無いコレもあるぞ!」
何が大丈夫なのでしょうか?
戸惑うヴィオレットに、次に獣王様が取り出したのは、真っ白でフサフサの毛で覆われた、猫の尻尾でした。
獣王様は、それを手ずからヴィオレットの尾骶骨辺りに取り付けました。
「コレは・・」
「大丈夫だ、更にコレを持てば完璧だからな。」
だから、何が大丈夫なのでしょうか?
更に戸惑うヴィオレットに、獣王様が手渡したのは、緑色のフサフサとした、ヴィオレットの身長ほどもある、巨大なエノコログサ・・・通称猫じゃらしでした。
獣王様は、それを手ずからヴィオレットに握らせました。
そうして、ヴィオレットは何処からどう見ても、白い子猫の獣族となりました。
ゴン
「獣王よ、何をやっている!!俺の妻を可愛くしてどうする気だ!!」
「グフゥ・・」
呻き声を上げ、頭を抱える獣王様ことゾイアドス様。
拳を握りしめ、顔を赤らめ、ゾイアドス様を見下ろす魔王陛下ことガルシュダッド様・・・・
先程のデルタの『ど変態・・』発言の後。ヴィオレットは、そっとガルシュダッド様の腕から下ろされ、それと同時にガルシュダッド様とデルタの声徐々に小さくなり、結界を張られたのだと気付いた時には、ガルシュダッド様とデルタの声は全く聞こえ無くなっていた。
態々結界を張るという事は、何か聞かれたく無い重要な話なのだろうと思い、黙って見守っていたのだが、そこへゾイアドス様がそっと近づいて来て、先程の状況になっていたのだ。
「勝手な事を・・・」
ガルシュダッド様の声は、怒っているわけではなく、少しむくれている程度ではあるが、獣界において最も立場が上であるはずのゾイアドス様に、堂々と拳骨を落としておいて、むくれるとは・・・大丈夫なのだろか。
「失礼だな、獣界を散歩するなら、獣族の姿の方が良いと思って気を使ったのだろう。」
「嘘を言うな。顔がにやけている。」
加えて、“嘘を言うな”・・・・
いくら魔界の王であるガルシュダッド様でも、他国の王にそんなに横柄な態度をとって言い訳が無い。そして、ここでガルシュダッド様を止められるのは、この部屋の中で唯一ガルシュダッド様と同じ種であるヴィオレットだけだろう。
ヴィオレットは拳を強く握りこみ、大きく深呼吸をした。
魔王陛下と呼ばれるのは、好きではないらしいが、名前を呼ぶのは、まだ恥ずかしい、それならば名前で呼ばなけれ良い。
「旦那様、獣王様に失礼です。」
出来るだけ冷静に、出来るだけ力強く、ガルシュダッド様から目を反らさず言った。
はずだったが・・・ガルシュダッドは顔を赤らめ、口元を抑えると、小声でボソリと何かを漏らしていた。
先ほどの言葉のどこに、顔を赤らめる様な所があったのか全く分からず、助けを求める様にゾイアドス様を見れば、ゾイアドス様は、いまだに頬を赤らめたままのガルシュダッド様に、呆れた様な視線を投げつけ、ヴィオレットの方を向くと、大きな手でヴィオレットの頭を撫でた。
「ヴィオレットよ、安心するが良い。魔王の拳骨と言葉は、魔王なりの手加減なのだ。」
獣界の王に拳をふるい、暴言を吐く、それの何処が手加減だと言うのだろう。それよりも、そもそも、他国の王に対して、手加減しようとしまいと、暴力に暴言などいいわけが無いと思うのだが・・・
「魔王は、魔素の使い方が下手だからな、魔法で小突かれただけで、大惨事になりかねん。拳で感情表現しているだけ、かなり手加減しているのだよ。最初に獣界へ来た時など、魔王は産まれたばかりだったからなぁ・・・感情表現を魔素でしていてな、少しイラついただけで部屋の空気が重くなり、倒れる者が続出したのだ。そこでだな、我が直々に拳の使い方を教えたのだ。拳ならば、周りの者達に被害が出ないからな。」
得意げに言っているが、魔界でも度々目にしていた、ガルシュダット様の拳骨は、どうやら目の前のゾイアドス様の所為らしい・・・
「そもそも、魔法を使われれば、一瞬で我らを消し飛んでしまう我らは、気軽に接してもらっているだけ、有難いのだよ。」
そう言って、豪快に笑うゾイアドス様に、本当にこれで良いのだろうかと不安に思っていると。
ゾイアドスの背後からデルタが現れ・・・
スパッン
「一応、獣王なのですから、もう少し威厳を持って下さい。」
ゾイアドス様の頭を、デルタの右手が通り抜けて行った。
どうやら、良くは無かったらしいが、ゾイアドス様の頭をはたくデルタは、良いのだろうか?
「ヴィオレット様、獣族は力の強い者に従います。ですから、獣王は国で最も強い者がなるのです。そして、ガルシュダッド様は獣王よりも強い。ですから、つい自分よりも上に置こうとしてしまうのですが、これでも一応獣王です。自国の王が、侮られて喜ぶ者などいませんから。外では一応敬意を払って下さい。外でだけ・・・・あぁ、儀式の日・・・儀式の最中だけで良いので。」
どんどん短くなっていく期間に、ゾイアドス様はうつむき、しょんぼりしてしまった。
「短い・・・我は獣王なのに・・。」
「それならば、それらしく堂々と振舞って下さい。今の姿は、近所のおじさんです。」
「きっ近所のおじさん・・・・。」
更にションボリするゾイアドス様に、デルタはたたみかける。
「他国の王に、拳骨されて怒りもしないなど、近所のおじさんでもしませんよ。」
「しかし・・・相手は、魔王だぞ。威厳など意味が無いだろう? 」
「意味があるとか、無いとかの問題ではありません。国を背負う王として・・・。」
怒る獣王の息子デルタ、ションボリする獣王ゾイアドス、オロオロとする魔王ガルシュダッド・・・・
「あの・・・デルタ悪かった。俺が、獣王に拳骨をくらわせたのが悪かった。」
どうやら、ガルシュダッド様は、自分のせいで始まってしまった親子喧嘩??に責任を感じているらしい。
しかし、そんなガルシュダッド様を、デルタは鋭く睨みつけた。
「そもそもガルシュダッド様も、王としてどうなのですか?もう少し威厳を持ち、力を示せば、他の魔族達ももう少しガルシュダッド様に従うはずです。」
「え?・・・俺もか?」
「そうです。魔王であるガルシュダッド様が、きちんと威厳を示してくださっていれば、あの様な日々を過ごす事は無かったのです。」
デルタは、間違い無くヴィオレットが寝ていた間に受けた、拗ねるを思い出していた。
しかし、そんな事を知らないヴィオレットは、ただゾイアドス様とガルシュダッド様を責めるデルタに唖然としていた。




