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魔王の白は、魔族の常識を知らない  作者: のんびり歩く
獣界編

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《29》獣王の息子

 


ヴィオレットは、困惑していた。


数分前まで、魔王城に居たはずなのに、突然獣界に連れてこられ、ただでさえ困惑していたのに、目の前に獣王様が居る事に更に困惑し、話の内容から、どうやらデルタが獣王様の関係者である事に更に困惑し、デルタの“変態”発言に、いったい何に困惑しているのか、分からなくなっていた。

そんなヴィオレットを残し、話は進んでいく。


「私は変態なので、獣王にはなれません。父上、申し訳ありませんが、父上の夢は諦めて下さい。」


キッパリと言い切るデルタに、獣王様はがっくりと肩を落とした。


「デルタ・・・それでは、お前について行った者達の報告は、本当なのだな。」


「はい。」


「番いを見つけたのだな。」


「はい。」


「番いと共に獣界で暮らす気は無いのか?」


「ありません。番いの両親が許さないでしょう。番いと離れなくてすむのなら、私は身勝手と言われようと、獣界を捨てます。」


「しかし相手は魔族だろう?魔族や人族には、獣族の “番” という感覚は分からんだろう。もし番いに拒絶された場合はどうする気だ?」


「その時は、潔く身を引き、影ながら見守るつもりです。」


「潔く身を引くと言いながらも、影から見守る・・・それは、完全に機会をうかがっておるだろう。全く潔く無いな。流石変態!!」


「私の番いは、可愛いくて美しいのです。変な者に騙されないように、私がかこ・・・・見守る必要があるのです。」


「今完全に、囲うって言おうとしただろう。そもそも可愛いくて美しいとは、どこを見て言っておるのだ。」


「全てです!!!」


真顔で言い切るデルタに、獣王様は大きな溜息を吐き出す。


「はああぁぁぁ・・・・ここまで拗らせておるとは・・・まあ、仕方ないのお・・・」


諦めた様に、寂しく呟く獣王様。

そして、覚悟を示すかの様に真っ直ぐと、獣王様を見据えるデルタ。

獣王様の後ろに控えている者達も2人の様子に息を呑み、何か言いたげに口を引き結んでいた。

とても真剣で、重たい雰囲気が部屋の中に漂っているのだが・・・


話の内容は・・・デルタが変態になったという事だ。

ヴィオレットには、今の状況が全く理解出来ず、助けを求める様に、そっと魔王陛下に話かけた。


「あの・・。」


ヴィオレットの小声に合わせる様に、魔王陛下がそっと顔を近づけ、小声で返事をくれる。


「どうした?」


息のかかるほど近い距離で、囁く様に言われ、身体に自然と力がこもり、頬が少し赤みを帯びるのを感じたが、今は訊きたい事の方が先だ。


「デルタさんは、獣王様のご子息だったのですか?」


「ああ、話していなかったな。デルタは獣王の息子で、3ヶ月ほど前、俺を獣界へと招く為に魔界に来たのだ。その時に番いを見つけ、そのまま魔界に居座ってしまった。」


デルタに番いが居るという話は聞いていたが、ヴィオレットは一度も番いを見た事が無い。3ヶ月も前に出会っていたのなら、ヴィオレットの屋敷から移り住んでいる者達では無いだろうし、ミルビーとデルタの間に、愛や恋といった感じは無かった。その他で言うと、もう一人 “ダクト” と言う名の、見た目が人間年齢の60歳程の男性が居たが、彼とも別に仲が良いといった感じには見えなかった。


「あの、デルタさんの番いって、誰なんですか?」


「それは・・・」


魔王陛下が言いかけた時、部屋の中に獣王の声が再び響いた。


「分かった。お前を次期獣王とする事を諦めよう。無理にした所で、“獣王が逃げた” なんて事にもなりかねんからな・・・仕方がないな・・・・。」


獣王様は、少し寂しそうに笑いながら、デルタの腕を掴むと、無理矢理腕の中に閉じ込め、ギュウギュウと抱きしめた。ヴィオレットから見れば、デルタの身体はそんなに小さいとは思わなかったのだが、巨大な獣王様に、抱きしめられている姿は、小さな子供の様に見え・・・・微笑ましく・・・


「ち・・父上ぇ・・・・暑苦しいわ!!」


デルタの声と同時に巨大な物体が宙を舞い、次の瞬間ドズンという音が響き、部屋の中が揺れる。

気付けば床には、ひっくり返った獣王様が転がっていた。


「グハハハやはり惜しい気もするが、仕方がないのお。直ぐにとは言わんから、いずれ番いを連れて帰って来い。」


獣王様は、ゆっくりと身体を起こしながらそう言うと、軽く服をはたき、魔王陛下に向かって申し訳無さそうな顔をする。


「話が脱線して悪かったな。」


「俺は別に構わんが、もう良いのか?」


「ああ、後の話はまた後でする事にしよう。これ以上身内のゴタゴタに付き合わせるのも悪いからな。」


そう言って、獣王様は姿勢を正すと、真っ直ぐに魔王陛下を見据え、頭を下げた。


「魔族の王、魔王よ。こんな息子だが、次期獣王になる予定だった男だ、多少は役に立つと思う。気にかけてくれとは言わんが、使えそうなら使ってやってくれ。」


獣王様の真剣な表情に、父として息子を心配している親心を感じる。親という者は、子供がいくつになろうとも心配なのだろう。

魔王陛下は、そんな獣王様に向かい小さく笑う。


「ああ、分かっている。」


その言葉に、獣王様はホッとした様に息を吐き出し、今度はヴィオレットを見据えた。


「魔王の妻よ、随分と挨拶が遅れてしまったが、我がデルタ父であり、獣族の王、獣王ゾイアドスだ。」


話の感じから魔王陛下とは面識があり、デルタとは親子である為、態々自己紹介をしなかったのを、ヴィオレットの為に態々してくれている。ヴィオレットが挨拶を返さないわけにはいかないだろう。

今度こそ、ヴィオレットは魔王陛下の腕から逃れようと、もがこうとするが、その前に魔王陛下がそっとヴィオレットを床へと下ろした。

先程まで、全く下ろしてくれなかったのに、どういうつもりなのかと思いながらも、ヴィオレットは自分のスカートを軽く摘み、少し腰を落として、獣王様に挨拶をする。


「獣王様、私の方こそ、挨拶が遅れて申し訳ございません。この度、魔王陛下の妻となりましたヴィオレットと申します。」


魔王陛下が、ヴィオレットの事を “妻” だと紹介したのだ。契約上の妻だとはとても言えず。本当の妻の様に挨拶をしてしまったが、良かったのだろうかと、内心不安になっていると、急に獣王様の顔がヴィオレットの前に現れた。

身長差のありすぎるヴィオレットの為に、しゃがんでくれたのだ。


「本当に、小さく、白い・・・。」


呟く様な獣王様の声に、魔王陛下が答える。


「ヴィオレットは、こう見えて産まれて20年の時を生きている。産まれてからの年数で言えば、デルタよりも長いぞ。」


「え?」


驚くヴィオレットに、獣王が笑いを含んだ声を返した。


「デルタはまだ産まれて5年だからなぁ。しかし、20年か・・獣族ならば、とうに成獣族となっている歳だな。」


「5年?5歳で魔界まで来ていたのですか??」


驚いて、デルタの方を見れば、苦笑いを浮かべていた。

確かに、獣王様やその後ろに控えている者達は、デルタと比べるべくも無く大きい。その事を考えれば、デルタが成獣族となっていないと言われても納得がいくが、5歳とは・・・デルタを見て、幼いと言って良いの分からないが、産まれてからの年で言えば、まだまだ子供なのではないだろうか?


「獣族が成獣族と認められるのが10歳前後なのだが、デルタは我を投げ飛ばすほどの力を持っておる。だからの、産まれて1年で次期獣王となる事が、ほぼ決まり、昨年、成獣族を前にデルタに王位を譲り、我が補佐に回る事で話がまとまってな。今回、魔王を獣界へと呼ぶという功績をもって獣王を引き継ぐ予定だったのだ・・・デルタが獣王になろうと、まだまだ側に居られると思ったのだがなぁ・・・」


寂しそうに言う獣王様に、何と声をかけて良いのか分からず、それでも何か伝えたくて、ヴィオレットは戸惑いながらも、獣王陛下が少しでも安心できる様にと、言葉を紡ぐ。


「あの・・デルタさんは、魔王城でとても頑張っていますよ。私も最近魔王城に引っ越したばかりなのですが、お城の事も色々知ってますし、おススメの本とかも紹介してくれて・・・えっと、話相手にもなってくれますし・・・。」


デルタとヴィオレットはまだ知り合って数日で、デルタの事を知っているとは言い難かったが、まだ成獣族となっていないデルタを、手放さなければならない獣王様が少しでも安心できるように、デルタが頑張っている事を伝えようと、言葉を選んでいると、大きな手がヴィオレットの頭を優しく撫でた。


父とは全く違う見た目と、父とは全く違う大きな手。

しかし、暖かな温もりと、優しく、安心させる様な撫で方は、父によくにている気がした。


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