《27》魔王とは
ヴィオレットは悩んでいた。
痛くも、辛くも無く、それでいて罰となり得る事。
元々、罰を与える気もないのに、罰を与えなければならないのだ。出来るだけ苦痛の無い罰にしたい。しかし、そんな罰を、簡単に思い浮かぶはずもなく、どうしようかと考えているうちに、ふと疑問が浮かんできた。何故誰も指摘しないのか分からないほど当たり前で、ヴィオレットにとっては、当然な疑問。
「一つ聞いても良いですか?」
「何でしょう?」
返事をしたのは、ミルビーだ。
魔王陛下とデルタは、深妙な面持ちでヴィオレットから与えられるであろう、罰を待っている。
「そもそも、私が四日間眠ってしまっただけで、何故、魔族の王である魔王陛下が罰を受けるのでしょうか?」
ヴィオレットは覚えていないし、今現在、苦痛を感じている訳でも無い。もしかしたら、寝ている間に苦しんだのかもしれないが、魔族の頂点に君臨する魔王陛下が、うっかり結婚してしまっただけの相手に、多少危害を加えたところで、罰を受ける必要があるとは、とても思えない。
しかし、ミルビーはそう思わないらしく、不思議そうに首をかしげている。
「何故・・・ですか?悪いことをすれば、何かしら罰を受けるべきだと思うのですが?」
「そういう事ではなく、何故、魔族の王である魔王陛下が、えっと・・・・この程度の事で、色々とされたり、罰を受けなければならないのかと・・・」
城に来てから度々感じる、話が噛み合っていない感覚に、どう説明して良いのか困っていると、ミルビーに強く肩を掴まれ、真剣な顔を向けられる。
「ヴィオレット様、この程ではございません。幼気なヴィオレット様に、四日間も寝込むほどの魔素を無理矢理吸収させた挙句、出来もしない事をして、ヴィオレット様の心を傷つけたのですから、罰を受けさせるべきなのです。」
「あの・・・そういう事では無く・・王という立場の方が・・」
親身になって言ってくれているのは嬉しいが、ヴィオレットの言いたい事は、そういう事では無い。どう言えば分かってもらえるかと、困っていると、押し黙っていた魔王陛下が、話に割って入ってきた。
「多分ヴィオレットは、魔族の王と言われる者の事を、勘違いしているぞ。」
どう勘違いしているというのだろう?
魔王城に来る前と来てからでは、ヴィオレットの中で、魔王陛下のイメージは随分変わってきているが。それは、勘違いとは違う気がするし、そもそもヴィオレットが勝手に作り上げていたイメージなのだから、魔王陛下が知るはずが無い。
「勘違いですか?」
「そうだ。多分ヴィオレットは、魔王とは魔族の頂点に君臨する魔族の王であり、魔族全てを統べる者だと思っているだろう?」
どの物語に出てくる王も表向きは、国であったり、種族であったり、世界であったり、とにかく頂点に君臨していた。勿論、操られたり蹴落とされたりする王達もいたが、表向き王は、多くの者達の頂点に君臨する者だ。
「はい。」
「人族や獣族であればそれで間違いないのだが、魔族の王というのは、一応 王と付いてはいるが、職業名であって、役職名では無いのだ。」
「え?」
「えっとだな・・・獣族の王や人族の王には、王に従う部下や貴族、民や奴隷などがいて、王に服従しているだろう? しかし魔族の王には、そんな者達は居ない。パン屋や庭師、メイドなんかと同じ、単なる職業の名前でしかない。」
何を言われているのか、よく分からなかった。
魔族の王がパン屋と同じ?
魔族の王が庭師と?メイドと?同じ??
「ですが・・・皆・・。」
「俺に従っている様に見えたか?」
そう言われ、思い返してみれば・・・
デルタは、魔王陛下と一緒に居る所を、見た事が無いので分からない。
ミルビーは、従ってる様に見えていたが・・・・現在、正座している魔王陛下を平然と見下ろしている。
ヴィオレットが暮らしていた屋敷から来た者達は・・・・・言葉こそ丁寧に・・しようとしていたが、“従う” という言葉には、程遠い態度だった。
「それは・・・・。」
戸惑うヴィオレットに、魔王陛下は苦笑いを浮かべる。
「魔族の王は、魔族が団結しなければならない事態に陥った時、指揮をする者の事だ。しかし、魔族は従えと言って従うわけではない。その為、普段の仕事は、いざという時皆を従わせられるよう、魔族達に恩を売り、それを記録し、次代の魔王へと残す事だ。だから、簡単に言ってしまえば・・・魔族の王は、普段はただの何でも屋で、いざという時の為に恩を売るとう、何というか・・・・みみっちい職業の者の事を言うのだ。」
「・・・・。」
なんと言って良いのか分からなかった。
それは、魔王陛下の仕事が、ヴィオレットの思っていた事と、かけ離れていたからではない。
魔王陛下が、とても寂しそうに見えたからだ。
「まあ、なんだ・・・ともかく、俺は、ただの魔素が異常なほど多いだけの、何でも屋だ。だから、ヴィオレットは遠慮する必要は無い。」
魔王陛下の言葉を聞き、何故皆があんなに堂々と、魔王陛下に対して発言をしていたのか納得できた。しかし、納得はできても、ヴィオレットは態度を変える気にはなれなかった。
「それでも・・・私にとっては、魔王陛下は、魔王陛下です。・・罰なんて・・・・」
たとえ魔王陛下が、ヴィオレットの思っている様な者では無かったとしても、ヴィオレットの命を救ってくれた恩人には違いない。どうしていいのか分からず、俯いてしまったヴィオレットに、ミルビーの小さな笑い声が届いた。
「フフフ、そんなに罰が嫌だと言われるのでしたら、ガルシュダッド様とデルタにお願いをすると思ってはいかがでしょう?」
「お願いですか?」
「もちろん簡単な事ではいけません。少し難しいお願いを考えてくださいね。」
罰と言われれば、抵抗があるが、お願いと言われれば、少しは気が楽になる。
それに、ヴィオレットにはお願いしてみたい事があった。
それがとても難しい事は分かっている。両親や屋敷の者達には、『危険だから無理だ』と何度も申し訳なさそうな顔で断られている。
しかし、魔王陛下ならもしかしたら・・・・
ヴィオレットは大きく息を吸い込み、気持ちを整えると、ゆっくりと願いを口にした。
「それなら・・・お散歩がしてみたいです。」




