《26》罰
《23》の続きになります。
分かりにくい話の流れになってしまい、ごめんなさい。
「えっと・・・だなぁ。」
視線をキョロキョロと彷徨わせ、落ち着かない魔王陛下。
その体勢は、いまだに床に膝を付いた状態ではあるが、土下座では無く、正座に変わっている。
それを呆れた顔で見下ろすミルビーと、その光景を部屋の外から楽しそうに見ているデルタ。
広い部屋なので、ハッキリとした表情は見えないが、デルタの後ろで金色の毛が楽しそうに、少し忙しなく動いていた。
「何かに例えず、ストレートに伝えれば良いのだな!」
意気込む様に両手に拳を作り、自分を振るい立たせる様にフウフウと大きな息をする魔王陛下。
そこまで意気込まなければ言えない言葉を、今から投げつけられると思うと、身体は硬直し、無意識に自分のドレスをシワになるほど強く握り締めていた。
「俺は・・・・ヴィオレットの事を大事にしたい。」
「え?」
思っていた言葉とは違い、暖かな言葉に、唖然としてしまった。
てっきり、引き受けるとは言ったが、毎回大量の魔素を吸い取られるのは辛いとか、ヴィオレットのせいで結婚になってしまって、本当は凄く嫌だとか、契約したから、魔素は与えるが、本当は愛している女性が居るとか・・・・
「俺の例えが悪かったのだが、つまり・・・ヴィオレットが傍に居ると、暖かくて心地良くて・・・何というか・・・心が満たされるのだ。」
言葉だけでは、それがどんな感覚なのか、ハッキリと分かる訳では無いが、ヴィオレットが魔王陛下の傍に居て感じる感覚と多分同じだと思う。
暖かくて心地良くて少し眠たくなる様な安心感。自分と同じ様に感じてくれていると思うと、嬉しいと思うと同時に、少してれくさく、自分の頬が赤く染まっているのが、見なくても分かる。そして、目の前の魔王陛下の頬もほんのりと色付いて見えた。
よく考えれば、湯たんぽも、太陽も、ストーブも、毛布も、全て暖かな物だ。魔王陛下は、良い意味で言ってくれていたというのに、ヴィオレットは無理矢理悪い意味で捉えていた。
その理由をヴィオレットは、自分でも分かっていた。
ヴィオレットには、自分に自信が無いのだ。幼すぎる体形に、膨大な魔素を必要とする身体。屋敷の者達や両親はとても大切にしてくれていたが、その優しさを、ヴィオレットはずっと申し訳ないと思っていた。物語の中の少年少女達は、成長し、両親やお世話になった人々に恩を返しているのに、自分にはそれが出来ない。それどころか、皆の負担になる事しかできない。
それは、多少成長したところで変わらない。そんな自分に自信が無くて、つい魔王陛下の言葉を悪い意味で捉えてしまっていた。
「あの・・私・・・」
誤解してしまった事を謝りたくて、口を開こうとした瞬間、ミルビーの呆れと、溜息交じりの声が邪魔をした。
「誤解も解けたようですし、ともかくヴィオレット様、今回の事は、ガルシュダッド様とデルタのせいである事は間違いありませんので、何か罰を与えた方が良いと思います。」
「罰ですか??」
「はい、罰です。今回の事は、全てガルシュダッド様とデルタが悪いのです。それには勿論、女心を傷つけ、変な誤解を招いた事もふくみます。ですから、ヴィオレット様は謝ってはいけません。」
「でも、誤解した事は、私が・・・。」
「いいえ、百歩譲って誤解させた事は、仕方がないにしろ、その後でちゃんと、どういう意味だったのか、きちんと伝えれば良かったのです。その説明を怠ったガルシュダッド様が悪いですし、デルタも悪いです。」
キッパリと言い切るミルビーに、魔王陛下は項垂れ、デルタは叫んだ。
「そこは、私は関係無いでしょう!!」
もっともな叫びだと思う。デルタは部屋の外の廊下で、いまだに正座をしているだけで、話しには加わっていなかったのだから。
「いくらガルシュダッド様が残念だからといって、笑って良い訳ではありません。」
「ですが!」
「デルタ、もし貴方が番いの前で失敗したら、笑っても良いですか?」
途端に、デルタの耳も尾もシュンと項垂れて
「すみません・・・。」
と小さな声が漏れていた。
そんなデルタの姿に、ミルビーはフンと鼻を鳴らし、ヴィオレットの方へと向き直る。
「では、ヴィオレット様、お二方に罰をお願いいたします。」
はっきりとした口調で言い切られ、ヴィオレットは戸惑ってしまう。何かされた記憶も無いし、聞いた限りでは、魔素を吸収させられただけだ、元々大量の魔素を必要としているのだから、丁度良かったと言えなくも無い気もするし、魔王陛下とデルタに罰を与えるほどの事とも思えなかった。
「ですが、私は別に怒っていませんし・・・」
「ヴィオレット様がきちんと罰を与えないと、ガルシュダッド様とデルタ様が更に酷い目に合います。」
「更に??酷い目??」
“更に” という事は、ヴィオレットが眠っている四日間の間に、何かあったという事だろうか?
「今の所、食事が日替わりで、辛い、渋い、生臭い、純粋に臭いなど、食事に関する事と、椅子に蜂蜜、糊、ペンキなど地味な嫌がらせですが・・・。」
椅子に関する事は、イタズラと言っても良いほど地味な嫌がらせにも思えるが、食事が、辛い、渋い、生臭い、純粋に臭い・・・・
それは、かなり辛かっただろうと、考えていると、魔王陛下から、ブツブツと小さな呟き声が漏れてきた。
「椅子は・・・椅子は良い・・・拭けば良いし、着替えれば良いし・・・ただ、食事はつらい・・・しかも、微妙に食べれるのだ・・・全く食べられない訳ではなく、微妙に食べられるのだ・・・・。」
「たっ大変だったのですね・・・。」
微妙に食べられる・・・それがどれほどの物なのか分からないが、魔王陛下の様子を見ればそれがかなり辛かったのだろう事は分かる。
「大変だった・・・。しかしだな。だからと言って、ヴィオレットに罰を軽くしてもらおうとは思っておらん。俺は、ヴィオレットに罰を与えられるだけの事をした・・・ヴィオレットの気が済むのであれば、どんな罰でも受けるつもりだ。」
そんな事を言われても、ヴィオレットは罰を与えたいとは思っていない。しかし、ミルビーの話だと、ヴィオレットが罰を与えなければ、魔王陛下とデルタが更に酷い目に合ってしまう。
どうして良いのか分からず、オロオロしていると
「難しく考える必要はありません。ヴィオレット様の思う罰で良いのです。」
と、ミルビーは言ってくれたが、ヴィオレットの思う罰とは・・・
「掃除をさせるとか・・・」
「ガルシュダッド様とデルタに掃除をさせると、逆に城が汚れてしまいます。出来れば他の罰を・・・。」
申し訳無さそうに言われ、他の罰を考えるが・・
「部屋に閉じ込めるとか・・・」
「それは、ガルシュダッド様にはご褒美ですし、デルタは・・きっと、全力で逃げます。」
全力で逃げるほど嫌なら、それは罰になるのでは?
と、思いながらも、魔王陛下にとってご褒美という言葉の方が気になった。
「ご褒美ですか?」
「はい、ガルシュダッド様は魔王陛下ですので、日々色々とお忙しいのです。それを全てやらなくて良いとなると、それはガルシュダッド様にとっては、かなり嬉しい事だと思いますよ。ちなみにデルタは、番いに会えないとなると、全力で逃亡しますので、多分部屋に閉じ込める事は無理だと思います。」
よく考えれば、魔族の王様なのだから、暇なはずがない。部屋に閉じ込められるのが、ご褒美となるほど毎日忙しいのに、こんな事で時間をとらせてしまって申し訳ないと思いつつも、何を罰にすれば良いのか、なかなか決められなかった。




