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魔王の白は、魔族の常識を知らない  作者: のんびり歩く
魔界編

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《25》慌てると、ろくな事にならない〈ガルシュダッド〉



「で、私の大事な尻尾が焦げたというのに、ガルシュダッド様はいったい、何を遊んでいるのです?」


「遊んでいるわけではない。ほら、俺の足元だけ魔素が薄いだろう?」


そう言いながら、自分の足元を覗いていると、何故だか魔素が更に薄くなっていく。

しかし、自分の足を動かし、魔素の濃い所へ足を向けても、その場所は相変わらず魔素が濃いままだ。

自分の足が、魔素を吸っている訳では無いとすると・・・


「もしかして、ヴィオレット様が魔素を吸収しているのでしょうか?」


「ふむ・・。」


ヴィオレットを膝に乗せたまま、足元を覗き見れば、必然的にヴィオレットの身体が床に近づく、それにより、魔素が薄くなったかもしれない。

しかし、それを確認する為には、寝ているヴィオレットを魔素に、触れさせなければならない。デルタの尻尾が焦げるほどの魔素だ、本当は、こんなヴィオレットが傷付く可能性のある事はしたく無い。

しかしこの時、ガルシュダッドもデルタも、濃厚過ぎる魔素の塊に、気が動転していて、何故だか部屋中の魔素を一掃する事を優先してしまっていた。


ゆっくりと慎重に、ヴィオレットの足を近づけると、近づいた場所の魔素が、確実に薄くなっていた。

勿論、ヴィオレットの足に異常が無いか、慎重に調べたが、赤くなる事も無く白いまま、なんの異常も見られない。


「コレは・・・。」


「魔素を吸収していますね。」


ヴィオレットを腕の中に戻すと、魔素は集まる事無く、ヴィオレットの足が近づいた場所だけが、濃厚な魔素が消えたままになっていた。


「これは、ヴィオレット様を床に置くだけでは、吸収してくれなさそうですね。」


「寝ているヴィオレットを床に置こうとするな。」


「ですが、吸収してもらわなければ困ります。」


「まあ、そうだな・・。」


ヴィオレットが触れなければ、吸収されないのであれば、ヴィオレットを動かすしか無いだろう。ヴィオレットが起きていれば、部屋を歩き回ってもらえば良いだけなのだが、眠っている現状ではそれは無理だ。

ガルシュダッドは、ヴィオレットの両脇に手を入れ、足が魔素に付く様にする。


「操り人形・・。」


ボソリとデルタの声が聞こえた気がしたが、それよりも今は、一刻も早く部屋に漂う濃厚な魔素を、ヴィオレットに吸収してもらわなければならない。誰かがうっかり扉を開ければ、濃厚過ぎる魔素のせいで怪我をしてしまう可能性がある。


ガルシュダッドは、ヴィオレットをぶら下げたまま、部屋の中を歩きまわり、デルタは、ヴィオレットをぶら下げたガルシュダッドに、魔素が残っている場所を教える。


「ガルシュダッド様、ほら、そこです。その棚の横、少し残っています。」


「ああ、本当だ。しかし少し狭いなぁ。仕方がない、ヴィオレットの足を使おう。」


「ガルシュダッド様、その棚の上も。」


「そうだな、あっ ここにもまだあったぞ!!ふむ、細かな所は手の方が楽だな。」


「そこの床、まだ魔素が濃いですよ。」


「それならば、ヨイショ。」


棚の隙間は足を・・・・棚の上は手を・・・・細かな所は指を使い、部屋の中に残った魔素を綺麗にしていく。


それは・・・まるで・・・


「雑巾ですね。」


ガルシュダッドも途中から、そんな気がしていたのだが、部屋の魔素を一掃する事を優先してしまい、気にしない様にしていた。

しかし、もしもこの事を知られたら・・・


殆どの魔素が片付いた後、デルタとガルシュダッドは、冷静になっていた。


「デルタ、この事は、俺とお前だけの秘密にしておこう。」


「そうですね、そうしましょう。」


デルタは、新しくやって来た魔族達がガルシュダッドに対して、“拗ねる” という名の、地味な嫌がらせをしているのを、見ずっと見ていた。側で見ている分には、かなり面白くはあったのだろうが、自分が標的になるとなると、話は別なのだろう。


そしてガルシュダッドは、ヴィオレットを物の様に使ってしまった事を、ヴィオレット自身には知られたく無かった。

はじめて出してしまった濃厚過ぎる魔素に、パニックを起こしており、とにかく急いで魔素を片付けなければと、思っての行動ではあったのだが、だからと言って、ヴィオレットを物の様に扱って良いわけではないし、それを知った時のヴィオレットの反応が怖かった。

怒られるのは良い、当然の事だ。

しかし、もし泣かれたら・・・もし嫌われたら・・・もし出て行かれたら・・・考えるだけでもゾッとする。


ガルシュダッドとデルタは、互いに強く頷き合った・・・


「フフフ・・。面白そうな話をしていますね。」


部屋の中に軽やかな声が響き、ガルシュダッドとデルタは、カタカタと機械音がしそうなほど、ゆっくりと、そしてぎこちなく声のする方へと顔を向けた。

そこに居たのは・・・・


「ミッ・・・ミルビー??」


部屋の出入口である扉の前で、ミルビーが楽しそうに笑っていた。


「ガルシュダッド様が放出した魔素を、寝ているヴィオレット様を使って掃除ですか?」


「「ヒイイィィッ」」


笑っている・・・・笑っているのだが、明らかに怒られる事をしたのに、笑顔を向けられると、怒られるよりも恐ろしい。


「何故、悲鳴など上げるのです?」


「いや・・・あの・・・。」


「あれほど濃厚な魔素を、放置するわけにもいきませんし、仕方がない事だったと思っていますが?」


どうやら、仕方がない事だったと理解してくれている様で安堵すると同時に、部屋に入って来たのがミルビーで良かったと思う。

もしも・・・もしも、彼らだったのなら・・・考えるのも恐ろしい。


「分かってくれた様で良かっ・・・・。」


「思ってはいますが、良い事だとも思っていませんよ。」


そう言いながらミルビーは、いまだに両脇を支えられ、操り人形状態のヴィオレットを、ガルシュダッドから奪い取り、自分の腕の中へと収めた。


「あっ・・・。」


持ち方というか、抱き方を間違えてはいたが、ヴィオレットの側に居る事は心地良い。それなのに、ヴィオレットを奪われてしまい、つい悲しげな声が漏れてしまった。


「『あっ』ではありません。こんなに急激に魔素を吸収させてしまって・・・また四日間くらいは起きられませんよ。」


「え?」


「当たり前でしょう。本来であれば、未成魔族は空気中から魔素を取り込む事ができないというのに、無理矢理濃厚な魔素を取り込まされたのですから。」


「無理矢理?」


「ヴィオレット様を四日間もお部屋の中に隔離していたのは、単に眠っていたからではありません。魔素の枯渇が長く続いたせいで、起きている間は大丈夫なのですが、無意識の状態ですと、触れたモノから無差別に魔素を取り込んでしまうからです。ですから私は、常に手袋をしているでしょう。」


呆れた顔をするミルビーに、ガルシュダッドもデルタ項垂れる。

濃厚な魔素を処理する事ばかりに気を取られ、ヴィオレットの状態を気にしていなかった。


「「すみません。」」


「私に謝ってどうするのです。まったく、これだから王という職業の者達は・・・貴方達は、もう少し他の者への配慮や気遣いを学ぶべきですね。少し見れば、ヴィオレット様の顔色が悪い事に気付けたはずです。」


よく見れば、ヴィオレットの白い肌が、更に白く変わり、眠っている顔は、少し苦しそうに見えた。


「「はい・・・」」


落ち込むガルシュダッドとデルタに、ミルビーは大きな溜息を投げつけながら、ヴィオレットを抱え歩き出す。


「私は、ヴィオレット様を部屋へ連れて行きますから、お二人で皆に、今日のパーティーが中止だと伝えてくださいね。」


「「え?」」


「理由を馬鹿正直に、彼らに伝えろとは言いませんが、ヴィオレット様が眠りに付いてしまい、しばらくは目覚めない事を、伝えて来て下さい。」


「しかしそれは・・・・。」


「皆、ヴィオレット様が望まれた結婚だったと聞き、渋々ですが祝おうとしてくれていたのですよ。それなのに、中止にしたのは、貴方達です。それを伝えるくらいはするべきでしょう。」


「「はい・・・。」」


ガルシュダッドとデルタが、力無く返事をすると、ミルビーは、小さな声で『まったく。』と言いながら、ヴィオレットを大事そうに抱えて部屋を出て行ってしまった。


部屋の扉がパタリと音を立てて閉まる。


「魔族の王は、大変ですね・・・。」


「王という立場、以前の問題だと思うが?」


「獣族の王では、こうはなりませんよ。」


「まあ、それはそうだな。獣族の王は、職業名では無く、獣族の頂点という意味だかなぁ。・・・良いなぁ。」


「獣族の王も、それはそれで大変なのですが・・・・」


「俺は、獣族の王になりたい・・・」


ガルシュダッドとデルタは、顔を見合わせて、大きな溜息を吐き出すと、重い足取りでノロノロと部屋を出て行った。


ヴィオレットが眠りについてしまった事を、皆に知らせるために・・・



そして、その日の夕食・・・・

余計な事は何も言っていないのに関わらず、何故だか、その日の夕食が真っ赤なスープで、一口口に含んだだけで全身の毛穴が開き、目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。

そして、スープを完食するまで、ガルシュダッドもデルタも席を立つ事を許されなかった。


「ある地方では、激辛の香辛料を使って、動物避けをするようですよ。フフフフ・・・。」

「黒い動物に、金色の動物・・・・フフフフ。」


食べている最中、そんな囁き声が、ガルシュダッドとデルタの耳に届いていた。




誤字脱字報告、ありがとうございます。

ものすっごく助かっています!

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