《24》変態に変態と言われる変態〈ガルシュダッド〉
話が前後していますが、《23》のヴィオレットが、四日間の眠りについた原因のお話です。
ガルシュダッドが、眠るヴィオレットを膝の上に乗せ、ソファーの上でウトウトしていると、視界の端にふわりした金色が光った。
「変態。」
顔を上げて、金色の方を向けば、金色は満面の笑みを浮かべ、輝くフサフサの尻尾を左右にゆっくりと揺らしながら、こちらを見ている。
「ド変態。」
清々しい程の笑みを浮かべる・・・金色の獣人・・デルタ
元はミルビーが部屋に居たのだが、新しく入った者達に仕事を教える為、デルタと交代したのだ。
「誰が変態だ。」
「寝ている女性を膝の上に乗せるなど、変態以外の何だと言うのです?」
悪びれる様子も無く、むしろ何を言っているんだと、言わんばかりの顔をしているデルタに、ガルシュダッドは大きな溜息を吐き出した。
「お前にだけは言われたくない。」
昼食には少し遅い時間、食事を済ませたヴィオレットは、そのまま部屋に置かれたソファーの上で、スヤスヤと心地よい寝息を立てて寝てしまった。そんなヴィオレットをガルシュダッドは、そっと、勝手に抱き抱えていた。
本来であれば、互いの肌に触れる事で、ヴィオレットは魔素を吸収し、ガルシュダッドは魔素を放出する。
触れる範囲では無く、肌が触れる事が重要なので、本当ならば手を繋いでいれば良いのだが。それをすると、両手が塞がってしまうし、寝ているヴィオレットの手を握ったままでは、何処にも行けなくなってしまう。
という、建前の元。勝手に膝の上に乗せている。
これは、互いの為・・・そう、互いの為なのだ!!
「この場で私以外、誰が言えるのです?」
部屋の中には、ヴィオレットとガルシュダッドに、デルタしかいない。ヴィオレットは寝ているし、ガルシュダッドが自分で自分の事を、変態とは言わないだろうから、確かに言えるのはデルタだけで間違いない。
しかし・・・
「言う必要が無いだろう?」
「いえ、きちんと自覚をもっていただこうかと思いまして。」
「だから、お前にだけは言われたく無い!!」
睨むガルシュダッドに、デルタは首を傾げる
「何故です?変態に変態と言う。何が問題があるのです?」
「お前が変態だから、変態に変態と言われたくないと、言っているのだろう。」
「はい、私は変態ですよ? 私は自覚しています。ですから、ガルシュダッド様にも自覚してもらおうかと。」
てっきり、『私は、変態ではありません。』と、否定されると思っていたのだが、あっさり肯定され一瞬戸惑う。しかし、それと同時に本人に自覚があった様でほっとした。
デルタは、元々獣界で暮らしていたのだが、ガルシュダッドに頼み事をしに、魔王城へやって来た時『私の番を見つけました。』と言い。獣界へと連れ帰ろうとする他の獣族達に『何を言っているのです。やっと番いを見つけたのですよ。番いが一番に決まっているでしょう?』と言い放ち。
『いや、俺としても、貴方に居座られると困る』と、拒否するガルシュダッドに『は?貴方の意見など聞いてませんよ。私は番の側に居るだけです。』と言い放った。
そして、番いのために、あっさりと自国を捨ててしまった、変態というか・・・その一言で収められない、執着と粘着・・・・執粘の変態である。
現在、魔王城で働いている理由も、番いの両親が、『働かない者に娘はやれん』と言ったからに他ならない。
まあ、番いの両親の本心は、少しだけでも良いから物理的にも、精神的にも離れて欲しかっただけだとは思うが・・・
「俺は、お前とは違うだろう。ヴィオレットと俺は、結婚している。」
「契約結婚ですけどね。」
分かっている。
ヴィオレットとの結婚は、結婚の儀を中断し、婚約状態にしようとして失敗した結果だ。
そもそも最初に行おうとした婚約でさえ、ヴィオレットが成魔族になるまで、魔素を分け与える対価としての、期限付きの契約だった。
それなのに、結婚の儀でヴィオレットが『トリュシュレッド』と言ってくれた時。ガルシュダッドは歓喜していた。もしかして、心の底では契約としてでは無く、望んでくれているかもしれない思ってしまった。側に居る事を・・・側に居続ける事を。
少し考えれば、出会って1日も経ってない相手に、そんな事を思うはずが無いと分かるはずなのに・・・。
婚約という契約で、相手を縛ろうとする相手に、心の底から『トリュシュレッド』と言う言葉を贈るはずがないのに・・・
ヴィオレットが目覚め、結婚の儀で『トリュシュレッド』と言ったのは、単なる偶然だと分かった時。
酷く落胆したが、それと同時に、婚約とは違い、ヴィオレットが成魔族になろうと、今後100年間は自分の妻であり、完全に繋がりが切れる事が無いという事に安堵した。
100年間は、ヴィオレットとの縁がきれない・・・そういう契約・・・
「分かっている・・・。」
落ち込むガルシュダッドに、デルタは大きな溜息を吐き出した。
「落ち込むなら、もう少し努力をなさって下さい。」
「努力?」
「そうです。褒め言葉に “湯たんぽ” なんて言葉を使うようでは、ガルシュダッド様は捨てられます。」
「お前、聞いていたのか?」
「私は獣族ですからね。魔族や人族の住居であれば、隣の部屋に居ても話は聞けます。それよりいいのですか?捨てられても?」
「すっ!!捨てられる?」
「そうです、捨てられます。丸めてポイです。」
「ポイ・・・・しかし、俺の魔素が無ければ、ヴィオレットは・・・」
「ではガルシュダッド様は、ヴィオレット様が成魔族になった後は、週に5日出会うだけで良いと?『魔王陛下、こんにちは。それでは私は用がありますので、さようなら。』と言われ、去っていくヴィオレット様の背に大きな溜息を漏らすだけで良いと?」
心がチクリと痛む・・・
「それは・・・・。」
「それだけではありません。もしかすると、『魔王陛下、こちらは私が今お付き合いしている方なのです。魔王陛下との結婚が解消されましたら、この方と結婚する予定ですので、その時はお願いいたしますね。』と、満面の笑みを向けられたいと?」
ヴィオレットの隣に、他の男が立つ??
身体の中から、黒くドロリとしたモノが溢れ出してくる。
ヴィオレットが他の男と結婚?
黒くドロリとしたモノは、ゆっくりと、濃度を増して溢れてくる。
俺が、ヴィオレットと他の男との結婚の儀をする?
溢れた黒くドロリとしたモノが、ガルシュダッドの心を、覆っていく・・・
テバナスモノカ コレハ オレノモノダ
そう強く思った瞬間、近くから・・・・・
「殺す気かああああぁぁぁ!!」
という声と共に拳が飛んできた。
痛くは無いが、頬に拳が当たった感触がして、声がする方に顔を向ければ、デルタが青い顔でプルプルと震えていた。
「何やってるんですか!!足元見てください。足元!!」
「ん? アレ??」
床には、黒くドロリとしたものが広がっていた。
「アレ?じゃないですよ!!どんだけ濃厚な魔素放出してるんですか!!」
“黒くドロリとしたもの” は、想像というか、比喩というか、自分の中のイメージだと思っていたのだが、どうやら現実だったらしい。
「あースマン。」
軽い感じで謝ったら、何故だかもう一度拳が頬へと飛んできた。
しかし、ガルシュダッドは、濃厚な魔素により守られている。そしてデルタは、濃厚な魔素により、魔素酔いを起こしている為に、痛みは無い。
「早く、コレ何とかしてください!!」
産まれてから一度も、魔素が不足する事など無く、むしろ余っていた状態だったのだ。そんな事を言われた所で、一度放出してしまった魔素を、体内に戻す方法など分からない。
「無理だ。」
「無理じゃ困るんですよ! 私がここから動けないでしょう!!」
デルタが居るのは、椅子の上。不安定な場所という訳では無いが、長時間居るには窮屈な場所だろう。
どうしたもかと、考えながら、床に広がる魔素を眺めて居ると、何故だか自分の周りだけ、魔素が薄い事に気付いた。
もしかしたら、触れるだけで吸収出来るのでは?と思い、足を左右に動かしてみる。
「何やってるんですか!遊んでないで、自分で出したゴミは、自分で片付けて下さい。」
「俺の魔素をゴミ・・・・」
「触れただけで、火傷する様な魔素はゴミです!!ほら、私の尻尾を見てください!!先が焦げているでしょう。番いに嫌われたらどうしてくれるのです!!。」
叫ぶデルタに、ガルシュダッドは溜息を漏らす。
「そもそも、お前の場合、番いに嫌われる以前の問題だろう・・・」
小さく呟いたガルシュダッドの言葉は、睨むデルタにより無視された。




