《23》土下座
あぁ・・・予約投稿に失敗しました・・・
次回から、12時に戻ります。
その後、ナティシャは、ヴィオレットに簡単な食事を渡すと、『夕食は、ヴィオレット様の好きな物ばかりを用意いたしますので、少なめにしておきますね。それでは、今夜のパーティーの支度がありますので。』と言って、あっさりお部屋を出て行き、代わりに、いつのまにか姿を消していたミルビーが、部屋に戻って来ていた。
ナティシャの言葉で初めて気づいたが、ヴィオレットが目覚めたのは、どうやらお昼過ぎだったらしい。魔王陛下は、朝食も昼食も済ませているらしく、仕事があると言って、部屋の端に置かれたデスクに向かい、何やらペンを走らせていた。
ヴィオレットは、そんな魔王陛下の姿を見ながら簡単な食事を済ませ、部屋に置かれたソファーの上でウトウトしていた。
少ない食事で多少の空腹感は残っているが、それでも食事をした事で身体が温まり、眠りがヴィオレットを誘う。
「夜になったら起こしますので、ゆっくり・・」
というミルビーの声が聞こえ、次の瞬間には暖かな温もりに包まれていた。毛布とは違う、直接的な温もり。
しかし、それが何か確認する気力も無く
「ふふふ、仲がよろしいですね。」
という、ミルビー言葉と共に、意識は暖かな闇の中へと包まれていく。
ヴィオレットは結局、ナティシャと魔王陛下の騒動のおかげで、自分の常識が魔族としては間違っている事や、これから長い時を生きる事への不安をすっかり忘れ、ぐっすりと眠る事が出来た。
そして、ヴィオレットが次に目覚めたのは、その日の夜・・・ではなく、更に四日後であった。
「えっと・・・これは・・。」
目覚めて直ぐに、着替えを済ませたヴィオレットは、目の前の状況に戸惑っていた。
驚くヴィオレットに、ミルビーは柔かな笑みを浮かべ
「ヴィオレット様にも分かりやすい様に、人族風の謝罪をしているのだと思いますよ。たしか、スライディング土下座と言われる、難易度の高い謝罪方法ですね。」
と、言っている。
そして、その横では、先程部屋の入り口に立っていたはず魔王陛下が、カエルの様に床に貼り付き、頭を下げている。絨毯の上でも、あんなに滑らかに膝で滑る事が出来るなんて、すごいなぁと、内心どーでも良い関心をしてしまったが、そんな事よりも。
「はぁ・・・」
そもそも、土下座される程の謝罪を受ける理由が思いつかない。
「ヴィオレットが四日も眠ってしまったのは、俺のせいだ。」
また四日間も眠ってしまった事は、目覚めて直ぐにミルビーから聞かされていたが、ヴィオレットには実感が無い。それに、ヴィオレットが最後に覚えているのは、暖かなソファーで、暖かな毛布に包まれて眠った事だ。特に魔王陛下に何かされた記憶が無い。
「えっと・・・。」
この状況をどうすれば良いのか分からず、戸惑っていると、ミルビーがニッコリと笑う。
「ヴィオレット様、一応あちらもご覧ください。」
そう言って、魔王陛下が入って来た扉の方を指差した。一応・・・とは、いったい何なのだろうかと、視線をミルビーが指差す先に向ければ、そこには、金色のフサフサが・・・・土下座していた。
「申し訳ございませんでした。」
大きな声が、部屋の中に響いていたが、ミルビーは気にする様子は無い。
「あちらは、この部屋に入れませんので、遠くからになっております。」
金色のフサフサは、デルタで間違い無いだろう。
しかし、魔王陛下だけでは無く、デルタまでとは、いったい何があったのだろう?前回目覚めた時には、デルタに会った記憶すら無いというのに・・・
戸惑うヴィオレットに、ミルビーが事の顛末を話し始めた。
「ガルシュダッド様が、うっかり出してしまった濃厚な魔素を、ガルシュダッド様とデルタが、無理矢理ヴィオレット様に吸収させて片付けたのです。まあ、かなり濃厚な魔素だったので、他の者では触れる事すら出来ず、うっかり触れれば怪我しかねない状態でしたので、正直に言えば、ヴィオレット様が魔素を吸収して下さって、とても助かったのですが。何を思ったのか、こちらのお二方は、ヴィオレット様を起こして了解を取ることもせず、寝ているヴィオレット様に、勝手に吸収させてしまい。その結果が今回の、四日間の眠りの原因となります。」
ミルビーの話を聞いても、ヴィオレットの口から出た言葉は
「・・・はぁ・・・・。」
と、気の抜けたモノだった。
自分が寝ている内に、何かあったとしても、寝ているのだから分からない。
それに、今はよく眠れて、気分はスッキリしているし・・・
そもそも、魔王陛下にとって、ヴィオレットは “湯たんぽ” なのだ、成魔族になるまで、魔王陛下の恩情で魔素を分けて貰うだけ・・・
目覚めのスッキリした気持ちが、急激に萎んでいく。
「ヴィオレット様、怒らないのですか?」
不思議そうにヴィオレットの顔を覗き込むミルビーに、ヴィオレットは出来るだけ笑顔を作る。
「寝てた時の事ですし、大量の魔素を貰ったせいか、少し成長できた気もします。このままだと、あっと言う間に成魔族になって、魔王陛下の “湯たんぽ” も卒業出来・・・・。」
「違う!!ヴィオレット、違うのだ!!それは褒め言葉のつもりで!!」
魔王陛下がバッと音がしそうなほど勢いよく顔をあげ、部屋の中に響き渡るほどの大声をだした。一瞬その大声に驚いてしまうが、魔王陛下の大声は前にも聞いている。直ぐに落ち着きを取り戻したヴィオレットは、少し悲しげに顔をゆがめた。
「お気遣いありがとうございます。ですが、私の立場はちゃんと把握しております。」
魔王陛下はすっかり忘れていたが、魔王陛下はまだ、ヴィオレットに対して “湯たんぽ” と言ってしまった事の弁明を、一つもしていなかった。
「いや、ヴィオレットは色々と勘違いをしている!させたのは、俺だが・・・・。」
そう言った後、魔王陛下は深刻な面持ちで、数度深呼吸を繰り返し、ゆっくりと話し始めた。
「ヴィオレットは・・ヴィオレットは・・・俺の太陽だ!」
太陽・・・熱くて、眩しくて・・遠い星・・
「側に居るのが嫌ということですか?太陽の様に、離れているのが丁度いいのですね・・・」
「違う!そうではない!!ヴィオレットは・・俺のストーブだ!!」
ストーブ・・・燃料を必要とし、まわりを温める・・・
「申し訳ありません、燃費の悪いストーブで・・・」
「違う違う、そうでは無い!!ヴィオレットは、俺の毛布だ!!」
毛布・・・身体を包み、温める・・・
「こんな小さな毛布では、何も温められませんね・・・」
「ちがーう!!そうではない、そうでは無いのだ!!」
必死の形相で叫ぶ魔王陛下に、戸惑うヴィオレット。
そこへ、呆れた様なミルビーの声が割って入った。
「ガルシュダッド様は、本当に・・・ハァ・・・変に格好を付けようとするから拗れるのです。格好を付けるにも、それなりに経験と実績が無いと、只の残念な者でしかないのですよ。」
「残念・・俺は・・残念なのか?」
「プッハッ」
落ち込む魔王陛下とは対処的に、部屋の入り口から、笑いを吹き出す声が聞こえてきた。よく見れば、デルタの肩がプルプルと震えている。
「格好を付けたつもりが、ヴィオレット様に変な勘違いをさせ、落ち込ませる。残念以外の何者でもないでしょう?違いますか??」
「ハイ・・ソノトオリデス・・・」
どんよりとした雰囲気をまとう魔王陛下を見ながら、ヴィオレットは、日々魔王陛下の印象が変わってくる事に戸惑っていた。その原因の大半が、魔王陛下の側に居る者達と、この度魔王城へと引越して来た者達。
ヴィオレットの知る王と呼ばれる存在は、権威と権力を持ち、多くの者達を従え、多くの者達を良くも悪くも導く者。
しかし、目の前の魔王陛下・・・・そして、他の者達の魔王陛下に対する態度・・・
皆一応、魔王陛下を呼ぶ時に、“様” を付けているが、形だけのような・・・
もしかしたら、魔王陛下という存在も、ヴィオレットの知る常識とは違うのかもしれないと、思いはじめていた。
24話と25話は、ヴィオレットが四日間眠る原因を作る、ガルシュダッドのお話になります。




