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魔王の白は、魔族の常識を知らない  作者: のんびり歩く
魔界編

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《18》大技



号泣し続ける者達を見ながら、こんなにも心配をかけてしまっていた事に、申し訳なさを感じると共に、心が温かくなってゆく。気付けはヴィオレットの頬には、温かな雫が伝い落ちていた。


「みんな、心配かけてごめんなさい。あと、今回の事、ちゃんと伝えられなくてごめんなさい。」


ミルビーから、皆が魔王城に来てくれたと聞いた時、ほとんどの者はヴィオレットが心配で来てくれたのではなく、魔王城で働きたくて来たのだろうと思っていた。しかし、目の前の者達の姿を見れば、それが間違いだったかもしれないと思う。

皆は、ヴィオレットが心配で、ヴィオレットの事を思って魔王城に来てくれたのではないかと。

そう思うと、魔王陛下には申し訳無いが、今回の事を聞かされ、ヴィオレットの姿が見えない状態では、皆が魔王陛下に攻撃的になったのも、無理無い事かもしれないと一瞬思ってしまった。


しかし、元は魔王陛下のへの対価であり、ヴィオレットを守る為でもあったのだから、皆が魔王陛下に対して攻撃的になる事は間違っている。

まあ、婚約が何故だか結婚となっていて、きちんとした状況は、まだ分からないが。

皆を落ち着かせ、魔王陛下への攻撃的な態度を改めさせるのは、ヴィオレットがやるべき事だ。


ヴィオレットは、魔王陛下の服をぎゅっと握りこむ。


「みんな心配してくれるのは、とても嬉しいけれど、今回の事は私が望んだ事なの。」


途端に、皆の涙がピタリと止まり、ポカンと口を開けたまま再度固まってしまう。

どうしようかと、魔王陛下の顔を見れば、何故かニヤニヤと笑いながら、皆の顔を見ていた。その顔が少し赤く見えるのは気のせいだろうか?


「ほっ・・・本当ですか?」


皆が固まっている中、オロオロとしながらも、たずねるナティシャに、ヴィオレットは、信じてもらえる様にと瞳に力を込めて、はっきりとした声で答えた。


「はい。」


途端に、皆が膝だけでは無く、今度は手まで床につけて号泣・・・・

では無く、ブツブツと何かを呟き始めた。皆の上に、ドス黒い霧の様なモノが見える気がする。

そして、耳をすませば・・・


「今日の夕食は何にしようかしら・・・・ふふふ。」

「ジワジワやるのよ・・・ジワジワ・・・。」

「物理ではダメよ・・・精神よ・・・精神・・・。」


ハッキリとした意味は分からないが、先程までの様子から、魔王陛下に何かする気である事は分かる。

魔王陛下の顔を見れば、その顔は引きつり、少し青くなっていた。


今、何とかしなくてはならない。

先程見た状況から、今の彼らが、魔王陛下相手だからといって怯むとは思えない。むしろ、魔王陛下が何か言ってしまうと、逆効果になる気がする。かといって、ヴィオレットが下手な事を言っていまっても、逆効果になりそうだ。


ここは、一発で場を収める事のできる、あの技を使うしかない。

常に魔力が枯渇しており、魔法がカケラも使えなかったヴィオレットが、幼い頃から培ってきた技。しかし、成長したこの身体で、果たしてこの技が通用するかは、分からない。そもそも、この技はとても危険な技だ、相手の気を鎮める代わりに、ヴィオレットに多大なダメージを与えてしまう。


しかし、やはりここは、あの大技を使うしか無いだろう・・・


魔王陛下に抱き上げられた状態で、両手を離すのは少し怖いが、この大技を使うには両手が必要不可欠だ。恐る恐る手を離し、それでも自分の身体が安定しているのを確認すると、自分の両手の平を合わせギュッと握りこみ、少し俯向き、自分の気持ちを高ぶらせていく。この技を使う事を思えば、気持ちなど簡単に高ぶり、顔に熱が集まっていくのを感じる、それと同時に瞳に涙が溜まり始め、こぼれ落ちる限界にきた瞬間、ヴィオレットは顔を上げた。


「みんな・・・。」


小さくか細い声を口から漏らし、皆の注目が集まるのを待つ・・・

この間、目から涙が溢れない様に調節するのが重要だ。

そうして、皆の注目がヴィオレットに注がれた瞬間、組んでいた手をあごの下辺りに持ってきて、顎を少し引いた。


「・・・祝福してくれないのですか?」


そして、この技の一番重要な部分は、目をウルウルとさせ、言葉を全て言い切る前にコテンと首を傾ける事だ。

この技の事を、ヴィオレットは “オネダリ” と呼ぶ・・・・

これは、かなりの精神的なダメージを受ける大技となっており、この技を出した後しばらくは、叫び出したい衝動と戦わなくてはいけない。

明確な理由を言葉にする事は出来ないのだが、あえて言葉にするのなら、それは “恥ずかしい” だろう。


「はぅぅぅ。」

「そっ・・・そんな事ありません!ヴィオレット様が望むなら、私達は全力で祝福しますぞ。」

「そうだ、お祝いをしましょう!パーティーです!!パーティー!」


成長した身体でもこの大技は効くらしく、途端に皆の上からドス黒い霧が飛散し、デレっとした笑に変わる。

魔王陛下を除いて。


「それでは、今夜は皆でパーティーをしよう。皆準備に取り掛かってくれ。」


魔王陛下が、そう言い放ち、踵を返して歩き出した。


「「「はぁ???」」」


皆から不満の声が上がったのは、言うまでも無い。

魔王陛下は、歩く足を止め、ヴィオレットごと振り返るとニヤリと笑い、見せびらかす様にヴィオレットを抱き込む。


「皆、ヴィオレットが自分の意思だったと言うのを聞いただろう? これから、二人で話をしたいのだ。何の問題も無いだろう??」


といって、もう一度踵を返して歩き始めた。後ろから不満そうな皆の声が聞こえてくるが、魔王陛下は気にする事なくズンズンと足を進めていく。

そっと見上げた魔王陛下の顔は、固く無表情で、先程までの豊かな表情は何処にも無い。

身を削って大技を出したのに、魔王陛下のは不機嫌なままなのだろうかと不安になっていると、魔王陛下は廊下の先にあった部屋の扉を開け、部屋の中に入り、ヴィオレットをソファーに下ろすと、部屋に鍵をかけた。


「あの・・・魔王陛下?」


鍵・・・・何故鍵をかけたのだろう・・・

恐る恐る声をかけると、何処から持って来たのか、大きめのクッションを渡される。


「叫んで良いぞ。」


「は?」


「俺は、向こうで仕事をしているから、思う存分叫んで身悶えすると良い。」


叫びたい!今全力で叫びたい。しかしそれは、誰にも知られず、一人っきりでだ。

身悶えしたい!身悶えしながら、クッションを殴りたい。しかしそれは、誰にも見られず、一人っきりでだ。

そして、一番の問題は、何故魔王陛下が何故その事に気付いているのか、という事だ。


「な・・・何故ですか?」


戸惑うヴィオレットに、魔王陛下は膝をつき視線を合わせると、優しく微笑んだ。


「俺は、ヴィオレットの夫だからな。」


これは、結婚すると相手の思考回路も把握できてしまう、という事だろうか。

しかし、ヴィオレットには魔王陛下の思考など全く分からない。むしろ分かったのなら、質問などしないで済んだはずだ。もしかした、特別な方法が必要なのだろうか?


「どうやったら、私もその技出来ますか?」


「は?」


「結婚すると、相手の思考が読めるんですよね?私は未熟なので、魔王陛下の考えが分からないのです。一方的では不公平です。私にも教えて下さい。」


ヴィオレットだけが思考を読まれているなど、恥ずかし過ぎる。これでは、ぼーっとする事でさえままならない。しかし、結婚するとそうなってしまうのなら仕方がない、受け入れるしかないだろう。だが、それならば魔王陛下の思考も読ませてほしい。自分が恥ずかしい思いをするのなら、魔王陛下にも同じ様に恥ずかしい思いをしてもらわなければ。


そう思ったのだが、何故か魔王陛下が可哀想な子を見る目で、こちらを見ている。


「ヴィオレット、安心しろ、結婚をしても相手の思考を読めるわけではない。ヴィオレットが顔を真っ赤に染めて、俺の服をシワができるほど強く掴んでいたからそう思っただけだ。しかし・・そうか・・・そうだったな・・・ヴィオレットは、婚約も結婚も何も知らないんだったな・・。」


その言葉と視線は、まるでヴィオレットの事を、何も知らない子供だと言っている様で、ヴィオレットを苛立たせ、ついでに先程の叫びたい衝動も加わり、ヴィオレットは勢いよく立ち上がると、クッションを両手で高々と持ち上げ、魔王陛下の頭の上へと振り落とした。


「貴方まで、私を子供扱いするのですか!」


ぼふっ


クッションは見事に、魔王陛下の顔面へと叩きつけられた。

当然避けられると思っていた。しかし、魔王陛下は避ける事無く、クッションの影から真っ直ぐにヴィオレットの顔を見つめている。

何故だか悲しそうに・・・





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