《16》魔族の拗ねる?〈ガルシュダッド〉
書き溜めていたモノが、無くなってきたので、更新をゆっくりにしようと思います。それに伴い、更新時間を12時の予約投稿にします。
お話は、まだまだ続く予定ですので、たまに覗きに来ていただければ幸いです。
「で?何でお前達は 、ヴィオレットに何も教えていない?」
広々とした執務室の中、ガルシュダッドは椅子に座り、目の前に座る青年と少女を見下ろしていた。
彼等は、ヴィオレットの両親であるラルグランとイライザだ。
ヴィオレットとは対照的に、魔素が飽和状態となっていたガルシュダッドは、ヴィオレットに魔素を吸収してもらい、魔力のコントロールができる様になり、周囲に魔素を振り撒く事が無くなったのと同時に、他者に魔素を分け与える事が出来るようになった。
そして、ヴィオレットに魔素を与え続けた為に、ヴィオレットと同じく魔素が枯渇していたラルグランとイライザは、ガルシュダッドより魔力を貰い本来の姿を取り戻したのだ。
「婚約の言葉を教えていないのは、なんとなく分かる。あの幼く愛らしい姿、しかも他には居ない白だ。変に婚約の言葉を覚えて、そこら辺の変な男に騙されては困ると思ったのだろう。」
「そうなんです!!」
ラルグランが自分の気持ちを分かってもらえたと、目を輝かせて、声を上げているが、ガルシュダッドの目は冷たいままだ。
「だが、何故、古代語の事を知らん?魔族ならば当然知っているべきものだろう?」
途端に、ラルグランだけでは無く、イライザまでもがガルシュダッドから視線をそらした。
「おい!!」
声を荒げれば、二人はボソボソと話始める。
「だって・・・ヴィオレットは、人族の物語が好きで、魔族の古代語の勉強より、人族の話の方が喜んでくれるし・・・。」
「だって・・・ヴィオレットは、ずっと幼い姿のままで、屋敷から出る事も出来なかったんですもの、古代語なんて、もう少し大きくなってゆっくり覚えれば良いと思ったんですもの。」
ボソボソ言う、二人にガルシュダッドは大きなため息を吐き出しながら、片手を額に当て、天を仰いだ。
魔族にとって古代語は、重要なものだ。
自分本位で協調性が無く、自分のやりたい事を優先させる魔族にとって、口約束など約束に入らない。だからこそ、何かの約束をする場合には、古代語を用いて、約束と言う名の契約をするのだ。古代語で交わされた約束は、互いの同意無しに、容易に破る事は出来ない。
しかし、その古代語を知らないとなると・・・・
「やはり、結婚をしておいて良かったな・・・。」
「「良くないです!!」」
二人の声が重なり、部屋の中で煩いほどに響いた。
二人からしてみれば、突然娘を奪われたのだ。怒る気持ちが、分からないわけではない。しかし、事の発端は、二人がヴィオレットに婚約の言葉教えていなかった事で。古代語と呼ばれる言葉がある事、そして、古代語の意味や、古代語を使う事の意味を教えて無かった事だ。
「それでは、お前達は、これから魔素を貰う為に、常に俺の側になければならないヴィオレットが、魔族として無知な状態で、無事でいられると思うのか?誰かに騙されないとでも思うのか? 攫われないとでも思うのか?」
ガルシュダッドの言葉に、二人は唇を強く噛み締め、悔しそうにしている。
「だが、安心しろ。ヴィオレットが成魔族になるまでは、お前達の親子関係を認めよう。しかし、成魔族になった折には、分かっているな。」
二人は、不満そうな顔をしながらも。
「「わかりました・・。」」
と深々と頭を下げた。
魔界において親子関係は、成魔族にるまで事であり、子供が成魔族になった時点で、多少の情はあるものの、親子関係は解消される。その為、魔族の親達は、つい、我が子が成魔族にならない事を、夢見てしまうのだ。
「ところで、ヴィオレットの魔族としての知識は、どれくらいある?」
二人は、魔王から視線をそらした。
「「ありません・・・。」」
「はぁ?」
ガルシュダッドの額に青筋が浮かんでいる。
それを見たラルグランが、視線を逸らしたまま、説明を始めた。
「ですから、ありません。ヴィオレットには、ほぼ魔族としての知識は無いのです。ヴィオレットが産まれる少し前の事です。私は、時代や国や地域によって様変わりする人族の文化に興味を持ち、私の屋敷に人族の文化を取り入れたのです。屋敷で働いている者達も、私の趣味に賛同した者達で、いずれ人族の屋敷へ潜り込んでみたいと思っている者達でした。ですから、徹底的に人族の文化を研究し・・・・人族の貴族風な生活を・・・。」
魔族は、自分の興味がある事しかしない。裏を返せば、興味のある事であれば、団結できる。
「それで、働いていた者達も人族になりきっており、魔族の知識を得る機会が無かったと・・・。」
「はい・・。」
「そうか、ヴィオレットの事は分かった。しかし、一つ気になるのだが、働いていた者達の対価は何だ?人族の貴族文化を学ぶだけでは、対価として釣り合わんだろう?それに、お前達の魔素の大半はヴィオレットに与えていて、ほぼ枯渇状態だったはずだ。」
興味のある事であれば、団結はできるが、誰かの下で働くとなれば別だ。それがたとえ自分の興味のある事だとしても、誰かの下で働く以上、対価をもらう。そして、もっとも一般的な対価が魔素だ。
人族の文化を学ぶだけなら、他の魔族もやっている。態々魔素が枯渇している者達の下で働く必要など無いはずだ。
「ヴィオレットの世話が、彼等の対価です。」
「ヴィオレットの世話が・・・。」
対価として釣り合うだけの世話とは、いったいどんな世話なのだろう。
「へっ変な意味ではありませんよ。普通の世話です。一緒に話しをしたり、遊んだりする事が彼等の対価でした。」
「それだけか?」
「はい。不思議な事にそれだけで、不満を言う者もおらず、むしろ多少の助けになればと、魔力を分け与えてくれる者までおりました。」
「それでか・・・・。」
多分本人は気付いていないだろうが、ヴィオレットが婚約の儀を終え、気を失う様に眠りについてから、4日の時が経っていた。
その間、ラルグランとイライザを含め、ラルグランの屋敷で働いていた者達までもが、城へと移り住んできている。元々ヴィオレットの為にも、出来るだけ早く城で働く者達を集めようとは思っていたので、助かってはいたのだが、働く環境が変わったのにもかかわらず、誰も辞める事なく、そのまま城で働いている事に疑問を感じていたのだ。
「はい。私共は、親としてヴィオレットの側に居たいと思い、屋敷を畳んで、城へ移り住む事を話ましたら、皆が『あんな寂れた場所でヴィオレット様が暮らすなど、言語道断です!!』と言って、ついて来まして。まあ、魔王城も人手を必要としていますし、見知らぬ魔族が入るよりヴィオレットにとっては安全ですし、皆、人族の下働きの者達の様な生活をしておりましたので、一応従順ですからね。」
「一応・・・な。」
「はい・・・一応です。」
そこでラルグランとガルシュダッドは、見つめ合う。
静まり返る部屋の中で、ガルシュダッドの眉間に皺が寄っていった。
「俺に対して冷たいんだが?」
つぶやく様なガルシュダッドの言葉に、ラルグランは苦笑いを返す。
「ですから一応です。彼等は自分達の知らぬところで、突然ヴィオレットが結婚してしまい、拗ねているのです。」
「拗ねる・・・な。」
「はい・・・拗ねているんです。」
もう一度、ラルグランとガルシュダッドが見つめ合う。
静まり返った部屋の中で、ガルシュダッドの眉間に、更なる深い皺が刻まれた。
「俺の知る拗ねるは、睨み付けるとか、無視するとか、それくらいだと思っていたよ。」
その言葉に、ラルグランは勿論の事、隣に座っていたイライザまでもが顔を背けた。
「「・・・」」
「一昨日の食事は全て、塩辛かった・・・」
静まり返る部屋の中、ガルシュダッドの悲痛な呟きが、部屋の中を満たしていく。
「それを指摘したら、『人族のとある国では、お清めの塩と言われるモノがありまして、塩で厄災を逃れるとされているそうですよ。本来であれば、身体に振りかけるそうなのですが、ガルシュダッド様は・・・・ッフ。』と、言われた・・・。」
「あ・・・はい・・。」
「昨日の食事は、砂糖の塊かと思うほど、甘かった・・・・それを指摘したら『人族は、糖類を摂取し過ぎると、病気になるそうですよ。魔族は・・・・どうなりますかね?』と、言われた・・・。」
「うっ・・・。」
「今日の朝食は、酸っぱかった・・・本気で酸っぱかった・・・それを指摘しら『酸味には、雑菌を殺す作用があるそうですよ。』って、ニヤリって笑われた・・・。」
「ぐっ・・・・。」
「俺は・・・明日の食事が怖い・・・。」
ガルシュダッドの切実な呟きに、ラルグランとイライザは目をそらす事しか出来なかった。




