《15》魔王城の変化
「そんな事よりも、何故お前達は、ヴィオレットに何も教えていない?」
魔王陛下の寝室にて、魔王陛下が椅子に座り両腕を組んで、床に座る二人を見下ろしている。
その声は、地の底から響く様な、怒りの声・・・
しかし、床に座る二人は、反省しているわけでも、怯えている訳でも無く、下から魔王陛下を睨みつけていた。
「「ッチ」」
小さな舌打ちが、部屋の中に響く。
魔王陛下がゲンコツを構えた・・・
「あの・・・何も教えていないとは、どういう意味ですか?」
ベットの上で、三人のやりとりを唖然として見ていたが、いい加減このままでは、本題に行き着かない気がして声をかると、魔王陛下は、大きな溜息を吐き出し、床に座る二人の首根っこを掴んだ。
「ヴィオレットには、色々と話す事がありそうだが、その前に着替えた方が良いだろう。ミルビー手伝ってやれ。」
「はい。」
いつから居たのか、部屋の隅からミルビーの声が聞こえて来たかと思うと、気付けばベットの隣に立っていた。
「それでは、俺はその間に、コレ達と少し話をしておこう。」
そう言いながら、魔王陛下は、二人をズルズル引きずり部屋を出て行ってしまった。
残されたヴィオレットは、しばらく今の自分の置かれている状況に唖然としてた。
魔素を分けてもらい、少しだが成長をして、偽装婚約をし、何故か目覚めたら半裸の魔王陛下・・・その後、見知らぬ青年と少女が、何故だか魔王陛下に怒られているのを眺め・・
急に色々な事が起こりすぎていて、頭が追いつかない。
今まで生きてきた20年の日々は、お屋敷としては広いが、一生を暮らすには狭い屋敷の中。そして、見知った者達と毎日代わり映えのしない毎日を過ごしていた。それが、急に色々な事が起きて、起き過ぎて、どうして良いのか分からなくなったのだ。
唖然としている間に、ヴィオレットの着替えは、ミルビーの手によって手早く終わっていた。
細やかな刺繍の施された淡いドレスは見惚れるほど美しいのだが、その事にすら気付かなかった。それどころか、気付いた時には、ミルビーに手を引かれ廊下を歩いている所だった。
「あれ?ここ、お城の中ですよね?」
「はい。ヴィオレット様が眠ている4日のうちに、随分と様変わりしましたが、間違いなく魔王城ですよ。」
薄汚れた壁は綺麗に磨かれ、床に敷かれていた赤い絨毯は、ほぼ同じデザインであるものの、新しい物に変えられ、廊下の所々に置かれた花瓶には、美しく生けられた花々が飾られている。そこには、前回見た時の寂れた感じは全く無く、美しく整えられた廊下があった。
確かに、驚くべき変化ではあるが、それよりもヴィオレットには気になる事があった。
「4日?私、4日も寝ていたんですか?」
よく寝た感があったので、丸1日くらいは寝ただろうとは思っていたが、まさか4日も寝ていたとは思っていなかった。
「はい。ですが、未成魔族にしては、早い目覚めだと思いますよ。」
「そうなんですか?」
「未成魔族が結婚した、なんて話を聞いた事が無いので、なんとも言えませんが、成魔族でも1日、2日、眠りに落ちてしまう事がありますので、未成魔族の身で4日で目覚められたのは、早い方だと思いますよ。」
魔王陛下に魔力を分けてもらったから、早く目覚める事ができたという事だろうか?それなら、間違い無く魔王陛下のおかげだが・・・・結婚・・・やはり婚約では無く結婚なのだろうか?
ミルビーに聞いても良いが、それよりも、魔王陛下の元へと向かっているのだから、魔王陛下に直接、じっくりと話を聞いた方が良いだろう。
「ヴィオレット様がガルシュダッド様の側に居てくださるおかげで、城で働きたいという者達が増え、この城も、この様に美しく整えられる様になったのですよ。」
確か、魔王陛下の魔素をヴィオレットが吸収する事により、魔王陛下の魔素を抑えられると言う事だったが、ヴィオレットにしてみれば、自分を助けてもらう事で生まれた副産物でしか無く、もっと何か出来る事は無いかと、考えてしまう。
そうして、ミルビーに手を引かれるまま歩いていると、小さな呟き声が耳に届いた。
「お・・お嬢様?」
聞き逃してしまいそうな小さな呟き声。しかし、それに気付けたのは、ヴィオレットにとってその声が、聞き慣れた声だったからだ。
勢いよく声のする方を振り向けば、青い目と青い髪をした、見知った顔の者が、目を限界まで見開き、口をあんぐりと開け、籠いっぱいに詰められた野菜をゴトゴトと音を立てて落としながら立っていた。
「あれ?ナティシャ?」
一応、4日ほど寝ていたとは聞いが、ヴィオレットにしてみれば、母の代わりに、城門まで一緒に来てくれた者だ、見間違えるはずが無い。しかし、ナティシャは城門を前に怯えてしまい、そのまま引き返したはずだ。それなのに何故、ヴィオレットの目の前に居るのだろう。
その事を尋ねようとした瞬間、ナティシャは視線をヴィオレットに向けたまま、持っていた籠を壁に思いっきり放り投げた。
運良くその場所には何も置かれていなかった為、野菜と籠が激しく壁に叩きつけられる音が響き、中の野菜がグシャリと潰れるだけですんだのだが。
「ナッ・・・ナティシャ??どうしたの?」
あまり見た事の無い、ナティシャの激しい行動に唖然としながらも、声をかけたのだが、何故かナティシャは、サッと踵を返して全力で走り去ってしまう。
「え???」
ヴィオレットが驚き、小さな声を漏らした瞬間、ナティシャの消えた方向から
「お嬢様がああああぁぁぁぁ!!!!ヴィオレットお嬢様がああああああぁぁぁぁ!!!」
と、全力の叫び声が響き渡った。
ヴィオレットは、一瞬唖然としたものの、あまりの恥ずかしさに一気に熱か顔に集まるのを感じた。
「すいません・・・我が家のメイドが、すいません。」
ヴィオレットにしてみれば、自分の屋敷で働くメイドが、魔王城で全力で走り、全力で叫んでいる。
しかも、ヴィオレットの事で・・・・。
昔読んだ本の中で、使用人のしつけは主人の仕事であり、使用人の粗相はは主人の責任だと書いてあった。とうい事は、ナティシャが現在叫んでいるのは、ヴィオレットやヴィオレットの両親の責任ということだ。
赤面するヴィオレットとは対照的に、ミルビーは微笑ましそうな笑顔を浮かべる。
「きっと他の者達に、ヴィオレット様が目覚めた事を、早く伝えたかったのでしょう。」
「他の者達?」
「はい。現在、ヴィオレット様が暮らしておられた屋敷で働いていた者達は、全員魔王城へ移り住んでおります。勿論ヴィオレット様のご両親も。」
ヴィオレットが眠っていた時間は、眠っているにしては長い時間だが、一つの屋敷の者達が引っ越すと決め、全員が引っ越すには短過ぎる。
「全員ですか?」
「はい、ヴィオレット様が眠りについた翌日には、皆様自分の荷物を抱えて魔王城へ来てくださいましたよ。」
屋敷で働いていた者達全員が、ヴィオレットの事が心配で魔王城へと来てくれた訳では無いだろう。今までは、魔王陛下から漏れ出した魔素のせいで、魔王城で働く事ができなかっただけで、魔王城で働きたいと思っていた者も多いはずだ。
しかし、それでも良い。これからも皆と共に暮らせるという事が、ヴィオレットは、とても嬉しかった。
「後で、皆んなに会えますか?」
ミルビーの言葉を疑うわけでは無いが、早く皆の顔を見たい、そして全員いるのか確認がしたい。そして、皆の顔を見て、成長した姿を見せて、今まで助けてもらったお礼を言いたい。
両親はヴィオレットの血の繋がった家族だ。
屋敷で働いてくれていた者達は、血こそ繋がってはいなかったが、心の繋がった家族だと思っている。
「後で、と言うか・・・」
何故か、ミルビーが苦笑いを浮かべていた。
ヴィオレットは、その意味を直ぐに理解する事になる。




