《11》両親との再会
「あの・・・本当に変じゃありませんか?」
「とても、お似合いですよ。」
ヴィオレットの背は、魔王陛下から魔素を貰う前より頭一つ分ほど大きくなり、人間年齢の6歳ほどの姿になっていた。おかげで、最初に鏡の前に立った時には、思わず何度も動きを変え、鏡に写っているのが本当に自分であると納得できるまで、たっぷり10分もかかってしまった。
そうして、現在。
大きな鏡の前には、ピカピカに肌を磨かれ、白く滑らかな髪をハーフアップに結われ、ピンク色の可愛らしいドレスを着たヴィオレットが、困った顔で立っていた。
自分の家に居た時も、可愛らしいドレスを着せられていたが、どれもだいたい同じデザインで、多少色が違う程度だった。しかし、今着せられていのは、見た事の無い滑らかで品のある光沢の生地に、スカート部分のレースが動く度にヒラヒラと舞う、美しいく可愛らしいドレスだ。
「これ・・・高そうですね・・。」
思わず漏れてしまった言葉に、ミルビーが思わず吹き出した。
「ぷっ・・・・気にする必要はありませんよ、ガルシュダッド様が、ヴィオレット様に着せたいと思って買われたのですから。それより、そろそろ皆様待ちわびているはずですよ。」
そう言って、ミルビーはヴィオレットを部屋の外へと連れ出した。
部屋の外に出て、ヴィオレットは愕然とした。
魔王城に入る時、魔王城の荒れ具合は、散々見たはずだった。
しかし、魔王城の中に入ってしまえば、そんな雰囲気は全く無くなっていたし。客間から魔王陛下の寝室までの移動は、ミルビーに運ばれ、肌に食い込む服の痛さに気を取られていたので、気付けなかった。
魔王城は、外だけでは無く、中も荒れている事に・・・
廊下には、赤い絨毯が敷かれてはいるが、城の者達がよく歩く中心部分は、擦れて赤黒く変色し、あまり歩かない端には、見逃せないほどの埃が溜まっている。壁は薄汚れ、廊下には花の活けられた花瓶も、絵も無く殺風景で、廊下の明かりも最小限で薄暗い。
他の家を知らないために、自分の家が基準となるが、どう見ても魔王城は荒れている。
そんな城内の様子に、ヴィオレットの顔は青ざめてしまった。
ヴィオレットに用意されたドレスは、どれも高級な品ばかりだ。魔素を貰うだけでも、かなりの負担になるはずなのに、服まで買ってもらい、財政面でも負担をかけてしまった。
言葉を無くして立ち止まるヴィオレットに、ミルビーはキョトンとした後、ヴィオレットの視線を確認し、苦笑いを浮かべた。
「大丈夫ですよ、貧乏な訳ではなく、人手が足りないだけですから。」
人手が足りないとはどうゆう事だろうか。
ここは、魔王城だ。
城勤をする者達には、様々な理由があるが、働きたい者は多く、選ばれた者しか働く事が出来ないと、本で読んだ事がある。
しかし、よく考えれば、魔王城に来てからヴィオレットが会ったのは、魔王陛下の他には、獣人のデルタと、ミルビーだけだ。
「ガルシュダッド様は、歴代の魔王陛下の中でも特に魔素が強く、というか、強すぎて、漏れ出した魔素で、魔素の力が弱い魔族では、魔素酔いを起こしてしまうのです。魔素の力が強い魔族を呼び寄せれば良いのですが・・・魔族ですから、来いと言って来る者はなかなかおらず、常に人手不足なのです。」
「それほどまでに・・・」
「はい・・・人手が足りず、城内はお見苦しいばかりで申し訳ありません。」
「いえ、大変なんですね・・・・。」」
「そうなんです・・今、城勤をしている者は、ラルグラン様を入れても4名しかおりませんから・・・。」
予想以上の少なさに唖然とする。
「4名ですか?」
「はい。しかも、ラルグラン様は執務担当ですから、実質私を含めた残り3名で城内を維持している状態なのです。」
苦笑いを浮かべるミルビーに、ヴィオレットは良い事を思い付いた。
「でしたら、私にお仕事を教えていただけませんか!」
まだまだ幼い身体では、出来る事は少ないだろうが、それでも、少しでも手伝う事ができたなら、多少は助けになるはずだと思ったのだ。しかし、ミルビーは、嬉しそうに微笑んでくれたのにもかかわらず、ゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、ご心配には及びません。数日もすれば、この城も以前の様な美しさを取り戻しますから。」
「え?でも、魔素酔いで人で不足なんですよね。」
「それも後数日の事です。この城は、もうすぐ元の美しさを取り戻しますから。」
そう言うと、ミルビーは返事を待たずに、歩き出してしまった。
もしかして、幼すぎる身体のヴィオレットでは、邪魔になると考え、遠回しに断られたのだろうか?
沈んだ気持で、ミルビーの後を付いて歩いていると、思い出した様にミルビーが急に振り返った。
「それに、ヴィオレット様には、もっと重要な仕事がありますから。」
そう言って、ミルビーは何故か嬉しそうに笑うと、直ぐにまた歩き出してしまう。
重要な仕事が何なのか、後を追いながら、何度かたずねたが、ミルビーは笑顔を返すばかりで、教えてはくれなかった。
長く薄暗い廊下を暫く歩き、ミルビーは一つの部屋の前で足を止めると、そっと振り返る。その扉には見覚えがあった。ヴィオレットが最初に魔王陛下と会った応接間だ。
「よろしいですか?」
そう言われ、自分の身なりをグルリと確認してから、小さく頷くと、ミルビーは軽く扉を3回叩いた。
直ぐに、少しくぐもった魔王陛下の声が返ってくる。
「入れ。」
その言葉と共に、扉はゆっくりとと開かれ、徐々に部屋の中が見えてくる。
部屋の中には、緊張した面持ちでソファーに浅く腰掛けているいる両親と、両親の向かい側にゆったり座る魔王陛下の姿があった。
しかし、誰も動かない。
もしかしたら、急成長した事で、両親は娘だと気付いていないのかもしれない。
「・・お父様・・お母様・・。」
緊張のしすぎで、掠れた声しか出なかったが、それでもヴィオレットの声は、確かに二人に届いたはずだ。しかし、二人は固まったまま動かない。
どうすれば良いのかな分からず、ミルビーの方を向けば、ミルビーは困った顔をしている。
「自分達の娘に何か言ってやったらどうだ?」
見かねた魔王陛下が、ヴィオレットの両親にそう告げると、二人はようやくゆっくりと立ち上がり、恐る恐るヴィオレットに近づいた。
全身を小刻みに震わせ、涙が静かに頬を伝い、床へと落ちていく。それは、両親だけでは無い、ヴィオレットも同じだ。
後数歩の所まで近づくと、もどかしくなって、ヴィオレットは両親に駆け寄り、父の胸へと飛び込んだ。
まだまだ、幼い身体は軽々と受け止めてもらえたが、それでも今までよりも幾分か、父がよろけていた気がするのは、気のせいでは無いだろう。
暖かな父の香りと、後ろから包み込む母の温もり。
声を殺して泣く両親に、自分がこれほどまでに心配をかけてしまっていた事に、心が苦しくなる。
それと同時に、助けてくれた魔王陛下に深く、深く感謝した。




