指輪の誓いと、乙女の体重事情
第15話。昨夜の喧騒が去り、和樹のアパートには穏やかな空気が流れます。沙羅が見た山城の意外な姿、そして和樹との何気ない日常の買い物。冷徹な「女王」としての仮面が完全に剥がれ、一人の少女として、そして和樹の「パートナー」として成長していく彼女の姿を描きます。
和樹の膝の上で微睡む山城を、沙羅はじっと見つめていた。
「……どうした、沙羅」
和樹の問いに、沙羅は不思議そうに首をかしげる。
「いや、学校ではあんなに怖くて、感情なんて一切なさそうな人なのに……。今の先輩、まるで2歳児みたいに甘えん坊なんだもん」
沙羅はそっと山城の頬をぷにぷにとつねってみたが、山城は眠ったまま、心地よさそうに和樹の方へ顔を埋めるだけだった。
その時、沙羅のスマホが鳴った。母親からの帰宅を促す連絡だ。
「和樹、私たちはもう行くね。先輩をよろしく!」
和泉と沙羅が嵐のように去っていき、部屋には再び静寂が訪れた。
それから2時間後。目を覚ました山城が、ぼんやりとした声で尋ねた。
「……私、どれくらい寝てた?」
「2時間くらいかな。体調はどうだ?」
「うん、良くなったわ」
「そっか。じゃあ、少し外の空気を吸いに行こうぜ」
山城は自分の格好を見て、困ったように眉を下げた。
「でも、私……部屋着のままだし……」
「いいだろ、別に。……なあ、俺の可愛い奥さん?」
和樹が耳元で甘く囁くと、山城は一気に顔を赤くし、頬を膨らませた。
「……っ、もう! 起きたばっかりなんだから、そんな意地悪、耐えられないわ……」
結局、和樹に押し切られる形で二人は近所のスーパーへ向かった。和樹が必要なものを次々とカゴに入れる横で、山城は主婦さながらの鋭い目つきで、鮮度や割引率を厳しくチェックしていく。
「和樹、こっちの方が安くて質がいいわ。こっちにしなさい」
「はいはい、仰せのままに」
そんなやり取りすら、今の二人には最高の幸せだった。
帰宅後、山城は大切にしまっていたバッグからあのペアリングを取り出し、指にはめた。そして、そのまま和樹の胸に飛び込む。
「……和樹」
「なんだ?」
「……ダーリン」
上目遣いで、恥ずかしそうに、けれどはっきりと呼ばれた愛称に、今度は和樹の方が顔を赤くした。彼は勢いよく彼女を抱き上げる。
「何よ、急に!」
「……お返し。でも、もう少し太らないとな。軽すぎて心配になる」
「……っ!」
足が地面に着いた瞬間、山城は「乙女に体重の話をするなんて!」と、和樹の胸をポカポカと(けれど全力で)叩き続けた。それからというもの、彼女はその日の夜まで一言も口を利いてくれなかった。
翌日、学校。
和樹は昼休みに、和泉と沙羅に事の顛末を相談した。
「……っていうことがあって、ずっと無視されてるんだ」
和泉は「自業自得だろ」と笑いながら付け加えた。
「でも分かるぜ。沙羅もあんなに食べるのに、ちっとも体重が増えないんだよ。羨ましいよな」
その瞬間。
「……和泉、今なんて言った?」
背後に立っていた沙羅が、般若のような形相で和泉の背中に強烈な一撃を見舞った。
ドゴォッ!
教室中に響き渡る衝撃音。普段の「可愛い看板娘」とは程遠い沙羅の怒りっぷりに、クラスの男子たちは震え上がった。
「女の子に体重の話は禁句だって、学校で習わなかったのかしら?」
冷や汗を流す和泉を尻目に、和樹は「……どこも一緒だな」と、遠くでこちらを睨んでいる山城の方を見て、小さく溜息をついた。
山城先輩だけでなく、沙羅までもが「乙女の逆鱗」に触れてしまった今回。どんなに親密になっても、触れてはいけない禁忌があることを和樹たちは身をもって学んだようです。ですが、そんな痴話喧嘩さえも、彼女たちが自分の心に素直になれている証拠かもしれません。
次回、山城先輩との仲直り大作戦。そして、彼女の指に輝く指輪が、学園で大きな騒動を巻き起こすことに……? お楽しみに!




