刻まれた痕と、安らぎの夜
第11話。誕生日の締めくくりは、賑やかな映画館と、二人きりの静かな夜です。周囲の心無い声に晒されながらも、和樹の揺るぎない愛が山城の心を包み込みます。そして、ついに訪れる「初めて共に眠る夜」。二人の絆がまた一段と深まる様子を描きます。
ショッピングを終えた二人が向かったのは、街の映画館だった。選んだのは、話題の最新ホラー映画。山城は少しだけ足がすくんでいたが、和樹が隣にいることで、意を決してスクリーンへと向かった。
上映が始まると、客席には奇妙な空気が流れた。観客たちは、スクリーンから飛び出す怪物よりも、隣に座る山城の冷徹で美しい横顔、そして彼女が放つただならぬオーラに怯えていたのだ。
しかし、いざ凄惨なシーンが流れると、山城は恐怖のあまり和樹の手を強く握りしめた。さらに恐怖が頂点に達した瞬間、彼女は無意識に和樹の手に噛みついてしまった。
和樹は痛みに耐えながらも、彼女を安心させるようにそのまま手を握り続けた。
映画が終わり、明るいロビーに出たところで山城が気づく。和樹の真っ白な手の甲に、はっきりと歯型が残っていた。
「……誰がこんなひどいことをしたの?」
「……あんただよ」
和樹の言葉に、山城はハッとして数分前のパニックを思い出し、顔を真っ赤にした。
「ご、ごめんなさい! 謝罪させて……っ」
「いいよ。あんたが俺を頼ってくれた証拠だろ」
和樹は笑って彼女の頭をポンポンと叩くと、そのまま予約していたレストランへと彼女を誘った。
レストランに入ると、人々の視線が突き刺さった。特に女子グループたちの目は、美男子である和樹に釘付けになる。
「ねえ、あのアドニスみたいな美少年、なんであんな『石像』みたいな怖い女と付き合ってるの?」
「センス悪すぎ。あんな無感情な女、何が楽しいのかしら」
ひそひそ話は山城の耳にも届き、彼女は小さく肩を震わせた。だが、和樹はメニューを眺めながら、わざと周囲に聞こえるような通る声で言った。
「今日は世界で一番可愛い女の子の誕生日なんだ。何でも好きなものを頼めよ」
その堂々とした態度に、外野の声はぴたりと止んだ。
アパートに帰宅した後、和樹は彼女のリクエストに応え、腕によりをかけてディナーを振る舞った。お腹も心も満たされた山城は、どこか夢見心地だった。
夜も更け、二人は初めて同じベッドで眠ることになった。
「……いいの? 本当に隣で」
「当たり前だろ。もう他人じゃないんだから」
和樹が横になり、山城をその腕の中に招き入れる。彼女は少し緊張しながらも、彼の胸に顔を寄せた。
「和樹……今日は、人生で一番幸せな誕生日だったわ」
「……来年は、もっと幸せにしてやるよ」
和樹の心臓の音を子守唄に、山城はゆっくりと目を閉じた。かつて「氷の女王」と呼ばれ、孤独に凍えていた少女は、今、愛する人の腕の中で確かな温もりに包まれていた。
最高の誕生日の終わり。ホラー映画でのハプニングや周囲の偏見もありましたが、それらすべてが二人の絆を強めるスパイスとなりました。初めて共に眠る夜、山城先輩が見た夢はきっと、これまでで一番温かいものだったはずです。
次回、幸せな二人の前に現れる新たな試練。和樹が隠していた「もう一つの顔」が少しずつ明らかになります。




