初めての誕生日と、最高の贈り物
第10話は、山城先輩の誕生日。そして、彼女が「家族の愛」を本当の意味で知る物語です。孤独だった彼女の世界が、和樹とその母親によって色鮮やかに塗り替えられていきます。誰にも祝われることのなかった誕生日が、一生忘れられない特別な一日に変わる瞬間をお楽しみください。
意識がはっきりとしてきた山城は、自分が和樹の母親の膝に寝かされていることに気づき、顔を真っ赤にした。和樹が淹れたての茶を運んでくる。
「……私、どれくらい寝てたの?」
「3時間くらいかな」
「そんなに……っ」
恥ずかしがる彼女の頭を、和樹の母が優しく撫でた。
「もっと寝ててもよかったのよ? 山城ちゃん、ここに居たいだけ居なさい。ね?」
山城が不安そうに和樹を見ると、彼は力強く頷いた。「母さんには全部話した。心配いらないよ」
母は山城の頬を柔らかくさすりながら、静かに告げた。
「これからは、私を本当の母親だと思っていいのよ」
そう言って山城を優しく抱き寄せ、その頭を胸に抱いた。温かな鼓動と、自分を慈しむ腕。山城はその温もりに、今まで溜め込んでいた感情を爆発させるように声を上げて泣いた。心の澱がすべて流れ落ちるまで、母は彼女を離さなかった。
泣き止んだ山城は、晴れやかな笑顔で言った。「……お母さん、ありがとうございます」
「ちょっと、俺も頑張ったのに俺には無しかよ」
和樹の冗談に、母は笑って返した。「当たり前でしょ。彼女は私の『娘』なんだから。もし山城ちゃんを傷つけたら、私が承知しないわよ、和樹」
「へいへい。一番世話を焼いてるのは俺なんだけどな」
その後、母に連れられてショッピングへ出かけた山城は、両手いっぱいの紙袋を抱えて帰ってきた。夕食後、山城が風呂へ向かうと、和樹は一人キッチンで皿を洗いながら、カレンダーを見つめた。
(明日は日曜日。……彼女の誕生日だ)
風呂から上がった山城は、上気した肌に水滴を光らせ、少し照れくさそうにソファに座った。その姿に和樹は一瞬見惚れてしまったが、すぐに表情を引き締め、彼女の隣に座った。
「……これからは、俺がずっとあんたを守るからな」
「……うん、信じてる」
翌朝。母は「大事な用事があるの」と言い残し、朝食も摂らずに慌ただしく出ていった。二人きりになった部屋で、和樹は内緒で準備していた手作りのケーキをテーブルに置いた。チョコペンで下手くそながらも『Happy Birthday』と書かれている。
「和樹……これ……」
「誕生日おめでとう、山城」
「……そんな、いいのに。私、自分の誕生日なんて祝ったことないから」
「これからは毎年祝うんだよ。決定事項だ」
照れくさそうに笑う山城と共にケーキに入刀し、和樹は彼女の口にケーキを運んだ。
「美味しい……」
彼女は幸せそうに咀嚼し、和樹を見つめてそっと唇を重ねた。
「……お返しに、何が欲しい?」
「まだプレゼントも渡してないのに、お返しなんていいよ」
「ううん、一緒に祝ってくれた。それが何よりのプレゼントだから」
彼女は和樹の首筋に顔を寄せ、甘えるように小さく跡をつけた。「……これでおあいこ」
和樹は苦笑いしながら彼女の頭を撫でた。「好きにしていいよ」
午後のショッピングモール。
前髪を整え、素顔を少しだけ覗かせた和樹を見て、山城は「……すごく、カッコいい」と頬を染めた。
「あんたこそ、世界一綺麗だぞ」
街ゆく人々は、端正な和樹の姿に見惚れ、一方で山城の鋭い美しさに「怖い」と囁き合う。だが、和樹は彼女の手を強く握りしめ、前だけを見据えた。
「……無視しろ。俺には、あんたがどう見えるか分かってるから」
モールを巡り、山城が気に入ったものをすべて和樹が買い求めた。レジでスマートに会計を済ませる和樹の背中を見ながら、山城は改めて彼の不思議な魅力と、隠された力強さに心を奪われていた。
誰にも望まれなかったはずの誕生日が、和樹という存在によって「祝福されるべき日」へと変わりました。周囲の偏見を跳ね除け、二人だけの世界で幸せを噛み締める和樹と山城。
次回、誕生日の終わり。夜の静寂の中で、山城は和樹にある「重大な決意」を語ります。二人の生活は、ここから新たな局面を迎えることになります。




