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タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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「殿下」

「なんだ?」

「何故そのように焦燥の念を抱いておられるのです?」


 そうだ。彼の性格上、別に誰に嫌われようとどうでも良いと捉えていた筈だ。ましてわたしは伯爵家の令嬢とはいえただの子供で、政治的な関わりとしての影響はないと考えられる。だというのに、()()()のわたしにどうしてここまで執拗に迫るのか。



(タイムリープを重ねるごとに彼はわたしに執着するようになるけれども、さすがに今回は性急過ぎるわ)



 今までの経験上、エドワードがわたしが変に行動を起こさなければ、最初から此処まで執着した試しはないというのに、どうして今回はわたしを城に留め、あまつさえ『婚約者候補』に仕立て上げたのか。

 彼の真意を探ろうとじっとエドワードの瞳を覗き込むと、不意に顔を背けられる。



「…………夢でキミの姿を見たことが何度かある」



 長い長い沈黙の末にポツリと彼は語った。

 気まずそうに頬を掻き、気恥ずかしさを誤魔化す為かやけに仏頂面になった彼は珍しく彼が見せた『年相応』の子供の姿であった。



「夢、にございますか」

「ああ、つまらない与太話だと嗤うか?」

「いいえ。不思議なことかもしれませんが、殿下がウソを付いているように思いませぬ」



 つまらない与太話といえば、わたしのタイムリープの話の方がよっぽど人に信じて貰えない与太話だろう。

 わたしが同意したことで彼はほっとしたかのような表情で話しを続ける。



「そうか」

「ええ。それで夢の中のわたしはどのようなことをしていたのでしょうか?」

「僕が一方的に眺めているだけで、キミと会話を出来たことはない。夢の中のリリーはコロコロと年代が変わり、そしていつも寂しそうな表情を浮かべていた」

「寂しそう、ですか?」

「ああ。夢の中ではなんの制約があるからか動くことも出来ずに、遠巻きで僕はキミを眺めることしかで出来なかった。しかしキミがそのような表情を浮かべる度に何故か僕の胸がズキリと痛み、その涙を拭ってあげたくなったーーだからこそお茶会でキミの姿を見て驚いたんだ」



 次第に熱が入る彼の弁とは裏腹に彼の真っ直ぐな眼差しに今度はわたしがたじろぐ番だった。



(なんで今なの?)


 せっかく今世では平凡な幸せを手に入れようと決意した矢先にそのようなことを言うのは止めてほしい。



(だって、どうせ殿下はミアを好きになるじゃない)


 今までだって殿下の想いを期待するような場面はいくつかはあった。けれど、結局彼はそれを全て踏み潰し、わたしに想いを寄せることはとうとうなかったじゃない!

 

 グッと握り込んだ拳に爪が深く刺さる。

 しかし痛みがなければ、今のわたしは平静を装うことが出来ない。




「リリー。キミの意思も聞かずに勝手に婚約者候補に仕立て上げたことは謝ろう。けれど、このように強引な手を使わないとキミは僕を見る気なんてなかったのだろう?」

「いいえ、殿下。わたしはそのようなことは……」

「なれど僕が話し掛けた最初の時からキミは僕を避けようとしていたじゃないか……! 僕に非があるのならば教えて欲しい。一体僕の何が駄目だったのだ!」

「殿下に非などありませぬ」

「……では何故避ける? 何故僕とは友達にもなれない?」



 荒ぶる彼に何も答えられない不誠実な自分が嫌で仕方がない。

 真っ直ぐに感情をぶつける彼の姿が眩しく、そして彼を信じてあげられない自分の弱さが醜かった。



(だってわたしは殿下に『真実』を話したこともあったのに……)


 幾度も続くタイムリープに嫌気が差して『真実』を伝えた時があった。

 しかし彼はそれを信じるどころか、わたしの頭がおかしくなったと幽閉したのだ。

 二度と日の目を見ることが出来ない暗くて寒い牢獄に囚われて、衣食住全てを彼に支配される日々。

 手足は鎖に繋がれ、食事は彼が持ってくるのをじっと待つしか出来ない惨めな一生。彼の好む服を着せられ、好き勝手に身体を蹂躙される悍ましさ。屈辱と羞恥で打ち震える人生なんてもう二度と御免だ。




「……非があるとしたらわたしの弱さにございましょう」

「…………」

「殿下は眉目秀麗で勉学も大変優秀だとお聞きしております。そんな殿下の横に並び立てる自信が恐れながらわたしにはございません」

「……自信ならこれから付ければ良いじゃないか」



 ポツリと不貞腐れたように呟く彼の姿に内心苦笑しながら、やんわりと首を横に振る。



「茶会で声を掛けて頂いた時、確かに嬉しゅうございました。しかし後ろに控える御令嬢の方々の厳しい視線を恐れる程度の器の小さい人間に将来殿下を支えられましょうか?」

「僕は別に支えを欲してなんかいない。支えなんかなくともちゃんと自分の足で立って見せる」

「ええ。殿下はそのように強いでしょう。だからこそわたしは引け目を感じるのです」

「……お前は結局僕を褒めながらもそれを口上にして逃げたいだけではないのか?」



 真実を突きつけられ、自分自身に苦笑を洩らす。

 暴かれた自分の弱さにわたしは瞠目し、そしてそのまま彼の審判を待つことにした。



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