39 鑑定器
「陛下。私も魔女様に賛成です。あの器械であれば誰でも、それこそ開発した本人でも嘘偽りは話せないはずです」
「ふむ。なるほど。王宮で使用している鑑定器を持って参れ。筆頭魔女アリソン・フォークナー。この場でやってみせよ」
「はい、陛下」
◇◇◇ ◇◇◇
御前にテーブルと椅子が運ばれ、侍従が鑑定器をテーブルの上に置いた。
私は椅子に座らされ、鑑定器に繋がれた。
ここからはアリソンが仕切るらしい。
「キャスリーン・オルデンバーグ。私の言葉を繰り返しなさい。『私キャスリーン・オルデンバーグは聞かれたこと全てにおいて真実を語ることを誓います。この両手の魔力にかけて』」
「私キャスリーン・オルデンバーグは聞かれたこと全てにおいて真実を語ることを誓います。この両手にある魔力にかけて」
アリソンは私が反抗すると予想していたのか、素直に復唱したことに驚いている。
「よろしい。万が一嘘をついたり答えを躊躇った場合は、誓いを破ったと認識し、この鑑定器があなたの魔力を奪います」
「ええ。もちろん。承知しています」
アリソンがどういう質問をするつもりか知らないけれど、自由に答えようと思う。
鑑定器が嘘と判定しても知ったことではない。
別に手のひらに乗る程度の魔力なんかくれてやる。ほんの数パーセントに過ぎないのだから。
「コホン。では質問します。あなたは人命を危険にさらすような魔道具の開発を行いましたか?」
……え? その質問は微妙にずれていない?
ほら、国王も宰相も、「ん?」と怪訝な顔をしているんだけど。大丈夫?
自分の落ち度が露呈しないよう単刀直入な質問は避けることにしたの?
「いいえ。ただし、道具の使い方いかんでは危険な事象が起こりうるとは思います」
「少し躊躇いましたね? それと、返事は、『はい』か『いいえ』で答えるように」
あはは。それって、私が使用方法を説明する時に言ったセリフじゃない?
別に何を喋っても構わないんだけどね。その方がポリグラフっぽかっただけで。
「分かったわ」
「そこは『はい』でしょう!」
「はいはい」
これくらいのことでイライラするようじゃ、尋問には向いていないよ?
「つまり、あなたは自分が危険な道具を作っていると認識していたのですね?」
えぇぇ。
だから、人を害する目的で作っていた訳じゃなくて、事故が起きる可能性もない訳じゃないっていうだけで……。
「答えられないのですか! 反逆の意思があったということですね!」
おいおいおいおい。
「……あのね」
「『はい』か『いいえ』!」
「ああ、もう。やってられないわ」
「いい加減にしなさい! 真面目に答える義務があるのですよ! だいたい五年も逃走していた事実をどう説明するのですか! 証は! 『筆頭魔女の証』はどうなったのです?! 今もあなたが持っているの?」
アリソン、興奮し過ぎ。
「アリソン。落ち着きなさいよ」
「黙れ! 素直に答えなかったわね! お前から魔力を没収する!」
はいはい。
「お好きにどうぞ」
「……え?」
私は記憶を取り戻してからずっと魔力を貯めていた。
お腹の奥の方に圧縮してある魔力は、既に五年前よりも多い。
多分、精霊王様の里に長時間いたせいだと思う。
あそこにいた時、ぐんぐん溜まっていくのを感じたもの。
証はどう答えようか。
精霊王様から魔女への贈り物だから、アリソンに渡して、代々引き継いでもらおうかとも考えていたけれど。
証を持つ者に権力が約束されるようになりそうで、ちょっと嫌。
それに、お嬢さんが精霊石を作ったくらいだから、精霊王様はきっと幾つでも作れると思う。
将来、偉大な魔女が誕生したら、精霊王様がお祝いに新しい証を与えるかもしれない。
「証だけど、五年前に攻撃を受けて消滅してしまったの」
「……あぁぁそんな」
アリソンの体から力が抜けて、テーブルにぶつかるように寄りかかった。
そこまで絶望するようなことじゃないのに。
「ねえ、アリソン。証を所持していようといまいと、あなたが筆頭魔女であることに変わりはないのよ? ほら、先代からそういう決め方になったじゃないの。五年前、私はあなたに敗れた。だからあなたが筆頭魔女になった。正しい継承よ?」
「なんだそれは。そんな話は聞いておらぬが?」
「私も今、初めて聞きました」
国王と宰相が割り込んできた。
ちょっと、師匠。報告してなかったんですか?
「そもそも、証は百年以上もの間、金庫に入れっぱなしでしたし――」
「待て待て。では、証が筆頭魔女を選んでいたのではないのか?」
え? 国王がそんな噂を信じていたの?
「はい、陛下。筆頭魔女は、当代が引退する時に次代を指名する習わしでした。それを元筆頭魔女メリッサ様が変えられたのです。私はメリッサ様から引き継ぐ時、証を入れている金庫を教えてもらっただけです」
「なんと! そうだったのか。ならば、証はどのような力を発揮するのだ?」
「ただの宝飾品ですから、何も発しませんが?」
「ほっ、宝飾品?!」
「はい」
なぜか国王と宰相が顔を見合わせている。
二人は黙したまま視線で会話をしたようだ。
ややあって、宰相がおもむろに口を開いた。
「今日ここで出た証に関する新証言は他言無用とする。破ったものは極刑に処す」
「筆頭魔女とて例外ではないぞ? 我が国の国益を損なうことになるからな」
国益と証が結びついているの?
そこは政治に疎い私には理解できなさそう。
「それよりも、キャスリーン・オルデンバーグよ。魔力を奪われたというのになんともないのか?」
「はい。陛下。そもそも平民は魔力を持っておりません。人間にとって絶対に必要なものではありませんから」
「そういうものなのか? 罪を犯した高位貴族の子息などは、寿命が半分になったかと思うくらいにやつれておったがな」
身分にあぐらをかいていた人はそうなるかもしれない。
「受け止め方は人それぞれです」
「そうだな」
そろそろきちんと決着をつけないとね。
「陛下。アリソンが正しく質問をしてくれなかったため、私の嫌疑は晴れたとは言い難いようです。逆に私がアリソンに質問することをお許しいただけますか?」
「ん? ふむ。そうだな。片方だけでは不公平だ。よかろう。許す」
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