38 聴聞会
その場にいる全員がひざまずき首を垂れ、玉座についた国王の言葉を待つ。
「頭を上げよ。皆、既に聞いておると思うが、これより聴聞会を開始する。そこにおる先の筆頭魔女キャスリーン・オルデンバーグにかけられた嫌疑について」
宰相とアリソンが――アリソンはおそらく不本意だろうけど――揃って、「御意」と答えた。
騎士団長は参加しないらしく、二人から離れて立っている。
「この者については、『反逆罪の疑いあり』との一報が届いたすぐ後に、詮議もなく序列二位以下の魔女たちの手で葬られてしまった――と考えられていた訳だが」
「おそれながら申し上げます」
不敬なことなのに、アリソンが口を挟んだ。
反論せずにはいられなかったのね。
「うむ」
「その件につきましては以前にもご報告申し上げた通り、緊急を要していたため、私が排除すべきと判断いたしました。あの場で逃げられていたら、どうなっていたことでしょう!」
「ほう? どうなっていたと思う?」
「それは――」
国王に問い返されるとは思っていなかったのか、それとも口にするのが憚られるようなことを想像したためか、アリソンは答えられなかった。
国王は、それ以上は追及せずに言葉を続けた。
「先の筆頭魔女にかけられた嫌疑について正式な審議がなされぬままだったので、国の法に則り、これより審議を行う。では筆頭魔女アリソン・フォークナー。先の筆頭魔女に反逆罪の疑いありと報告してきたが、その根拠を申してみよ」
やった!
ちゃんと証拠に基づいて判断してくれるんだ。
そんな証拠はないもんね。
アリソンは私のことをよく思っていなかったから、館から追い出したかっただけでしょう?
「陛下。そこの大罪人ですが」
「まだ有罪と決まってはおらぬ」
国王が冷たい視線と共にアリソンを制した。
「……な! は、はい。キャスリーン・オルデンバーグですが、五年前の当時、彼女の近くにいた私には分かりました。彼女はもはや常軌を逸していると。公務を放棄し誰も近寄らせず、寝食を忘れて取り憑かれたように恐ろしい魔道具の開発を行っておりました」
ショック‼︎
私って、そんな狂人みたいに見えていたの?!
あぁでも。確かに公務はアリソンに丸投げして魔道具の開発に没頭していたかもしれない。
「いったい何を開発しているのだろうと不思議に思い、実験中の様子を覗き見たところ、恐ろしく強力な武器であることだけが、かろうじて理解できたのです!」
……え?
そんな物を作った覚えはないけどなぁ。
アリソンは何を見てそんな誤解をしたんだろう?
「ふむ。仮に強力な武器であったとしよう。それを使って私を弑するつもりだった証拠はあるのか?」
「私が証言いたします。大罪に――キャスリーン・オルデンバーグは、ニタニタと不適な笑みを浮かべて、『これでもう城に上がる必要はなくなる』『宰相と顔を合わせて意見を伺うこともない』『ここが司令室になるんだ』などと発言しておりました!」
あれえ? そんなこと言ったっけ?
うーん……? 何の道具を開発していたんだろう?
城に行かなくてよくなる道具……あ! なんだ、アレか。
通信魔法の改良型の道具じゃん! スマホをイメージして作ろうとしたやつ!
「他にも、小屋ほどの大きさの箱を動かそうと躍起になっておりました。『これができれば一気に玉座につける』と」
うわー!
国王と宰相が驚いている!
それ――エレベーターだからね。
「玉座に就く」じゃなくて、「玉座まで一気に自動で辿り着く」だよ!
やめてよね!
「そ、そうか。だが決定的な発言はしておらぬ。それでは十分ではないな。押収した魔道具を実際に動かしてみよ。何が起こるか私もこの目で見てみたい」
ん? アリソンだけでなく、宰相までもが渋い表情だ。
「……陛下。大変申し上げにくいのですが、証拠の魔道具につきましては、魔女の館にて、全て安全に処分いたしました。安易に作動させて取り返しのつかない事態となってしまわないように。宰相様とも相談の上、そのように対応済です」
あ、そういう……。
アリソンは、自分は間違ったことはしていないと、いつものツンと済ました顔で答えている。
宰相も、まさか今日のような日がくるなんて想像できなかっただろうなぁ。
「ふう。五年という歳月が悔やまれるな。のう宰相」
「本当です。せめて証拠があれば……。あの時、筆頭魔女の言葉を信じてしまったことが残念でなりません」
うわぁ。宰相はアリソンの味方じゃないの? それとも今、手のひらを返した?
この部屋にアリソンに味方する人間はいないのかな?
もしかして、アリソンの上昇志向の強さが鼻についたかな……。
王宮務めの人にしてみれば、私みたいに表舞台には出ず、黙々と仕事をするだけの人間の方が都合がよかったんだろうな。
…………!
嫌なことが頭に浮かんだんだけど。
もしかして、有罪にはならなくても、そのまま放免されることはない……?
監視された状態で、魔道具だけをひたすら作り続けることを強いられたりして……?
いやいや、まさか。まさか……ね? あり得る……?
……そんなの絶対に嫌!
「キャスリーン・オルデンバーグ。意見を述べる機会を与える」
急に国王に名前を呼ばれたので、お顔をガン見してしまった。
「ええと。アリソンが誤解してしまったのも無理はないと思います。私自身、どのような物になるのかイメージできないまま、探り探り作っておりましたので」
全員が「え?」と驚いた顔で私を見た。
もっと言い訳をすると思った?
私は別に筆頭魔女に返り咲きたい訳じゃない。
むしろ、そんな役目はアリソンに押し付けたまま、おさらばしたいのだ。
それに今思えば、あの開発途中の魔道具が怪しく見えたのは分からなくもない。
前世由来の知識で形作っていたから、アリソンたちには一ミリも想像がつかなかったんだと思う。
ただ、誰かを傷つけるような物は断じて作っていないので、それだけ分かってもらえたら嬉しい。
「参ったな。いったいどうしたものか……。私の記憶では、先の筆頭魔女キャスリーン・オルデンバーグは、政治にはとんと興味がなく、ひたすら魔道具の開発に没頭していた。私を排除して玉座を手に入れようなどと考えるだろうか。動機が見当たらないのだ」
嬉しい!
国王の心象では私は無罪なんだ!
「アリソン・フォークナーよ。そなたが言い張る先の筆頭魔女による私の暗殺未遂だが、動機はなんだと思う?」
「そ、それは――私にも分かりかねます。ですが!」
アリソンが不敵な笑みを浮かべた。
「――ですが。真実を暴く便利な道具がございます」
……え? まさか?
「この者が開発した鑑定器です。陛下も宰相殿も、鑑定器の性能はご存じでいらっしゃいますよね? この者が不利な証言をしても、よもや自らが製作した器械が誤作動したなどとは言わないでしょう」
アリソンは本気で私が国王の暗殺を企んだと思っているの?
それで本心を言わそうと?
それとも何か別の魂胆があるのかしら?
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