37 キャスリーンの申し立て
「さ、宰相殿!」
「なんですか。騎士団長ともあろうお方がお見苦しい」
執務室に息せき切って駆け込んで来るなど無礼な振る舞いだ。
「それについてはお詫びいたしますが、それどころではありません! 出頭してきたのです! 先の筆頭魔女、キャスリーン・オルデンバーグが!」
「な、何?! 出頭しただと? 間違いなく本人か? 本当に先の筆頭魔女本人なのだな?」
「魔女の館にも知らせましたので、すぐに魔女様がお見えになるでしょう」
「筆頭魔女はこの際どうでもよい。証は? キャスリーン・オルデンバーグは『筆頭魔女の証』を所持しておるのか!」
「……あ。ああ、いえ。その。取り急ぎ出頭してきたことをご報告すべきかと思いまして、まだ事情聴取などはしておりませんので」
「……くぅ。どこだ。どこにおる?」
「陳情者の控室を当てておるようです」
「どうして来訪者のような扱いを? 手配していた罪人だぞ?」
「……」
「まあよい。皆、先の筆頭魔女ということで迂闊に手出しをできないのであろう」
「そ、そのようです」
「では参ろうか」
「……? あ、はい」
家柄だけで騎士団長に任ぜられた男。
全く頼りにならない。
「しっかりしてください。控室がいくつあると思っているのですか? ちゃんと案内してください」
「あ、はい」
◇◇◇ ◇◇◇
控室の前で、筆頭魔女のアリソンと城の騎士たちが何やら揉めている。
「言えないとはどういうことです! 私は筆頭魔女なのですよ! あの罪人の手配書を国中に配布するよう進言したのも私ですよ?」
「ですが、まずは宰相様の許可を取っていただかないことには」
「なんですって!?」
本性が丸見えだな。実に見苦しい。
「コホン。魔女様。いかがなされた?」
わざわざ水を向けてやったというのに、魔女はギロリとこちらを睨みつけて無愛想に言った。
「罪人を捕らえたと聞いたのですが。どうして私は会わせてもらえないのでしょうか?」
それは余計な真似をしてほしくないからなのだが、本人にはその自覚がないようだから指摘せずにおく。
「個別に話を聞くのは時間の無駄です。どうせなら皆で会いませんか?」
「そうですね。宰相殿がそれでよろしいのなら」
「それではご一緒に」
先の筆頭魔女に会うのは五年ぶりか――まさか自ら出頭するとは。何か思惑でもあるのか?
「宰相殿? どうされました? 私が開けましょうか?」
「いや、何。それには及びません」
ドアに手を伸ばした時だった。
バタバタという足音が聞こえ、すぐに陛下の侍従の姿が見えた。
「皆様、お集まりでしたか。国王陛下よりお達しです。先の筆頭魔女様の聴聞を、陛下が自ら執り行われるとのことでございます」
なんだと? 聞き捨てならない。
「聴聞? 今、聴聞とおっしゃったか?」
「聴聞ですって?! まだ罪が確定していないとでも?!」
「いかにも。陛下は『聴聞』とおっしゃいました。お言葉をそのままお伝えしたまでです」
……ほう。面白い。取り調べではなく聴聞か。
これは無罪への布石と見るべきか。
……はぁ。陛下は魔導船がお好きだったからなぁ。
先の筆頭魔女を復帰させたいのかもしれない。
魔女様は感情を制御できず顔を真っ赤にしている。
そんな状態で御前に出るつもりか。
「陛下は準備が整い次第すぐにも始めたいと仰せですので、お急ぎください」
◇◇◇ ◇◇◇
「私、決着をつけてくるわ!」
そう言ってエイダンとダニエルを精霊王様の里に置いたまま王城にやって来たのはいいけれど、もうちょっと作戦とか考えてからにすればよかったかも。
城の騎士たちを驚かせてしまったようで、私が話しかけようとしたら、「少々お待ちを」とか、「どうかそのままで」とか言われるだけで、誰もちゃんと話を聞いてくれない。
うーん。お城っていうところは、何でもかんでも書面で事前に申請しないと機能しないのかもしれない。参ったわ。
「あのう。すぐそこに待合室がありましたよね? 私、そこで待っていますので、担当される方が決まったら迎えに来てください」
さすがにここで立ちっぱなしも嫌なので、勝手に部屋を借りることにした。
しばらくすると、騎士ではなく文官のような人が迎えに来た。
あ、思い出した。
文官にしては重厚なデザインの制服だと思ったら、陛下の従者が着る制服だ。
直接、国王陛下から沙汰が下されるの?
「陛下が聴聞会を開くと仰せですので、私について来てください」
聴聞会? アメリカの議会とかでやっているような?
へぇ。陛下はアリソンの進言を全て間に受けていた訳じゃないんだ。
「はい」
ま、鎖に繋げられて拷問される可能性だってあったんだから、そう考えたらすごくマシよね。
◇◇◇ ◇◇◇
あらま!
懐かしい謁見の間だわ。
宰相にアリソンもいる!
「国王陛下が入室なさいます!」
大袈裟な呼び込みも懐かしいわね。
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