31 再び精霊王様の元へ
「ダニエル! こっちだ」
精霊王様に挨拶しようとしたら、またしても娘さんが私たちの前に飛び出してきてダニエルの手を掴んで消えてしまった。
「あっ、ちょっと! そんなぁ」
「大丈夫じゃ。その辺におる。子ども人間なら心配いらん」
「目の届かないところにいるだけで心配なんです」
「ワシには見えておるから大丈夫じゃ」
そういうことではないんだけど、まあ、精霊王様が見てくれるというのなら大丈夫か。
「それで? 願い事とはなんじゃ?」
「あ。はい。このネックレスなんですけど。どうしても外せないんです」
「おう? なんで外す必要があるんじゃ? 『証は筆頭魔女と共にあるもの』と言っておらなんだか?」
うわあ! 確かに言ったけれども!
「それはですね、手元に置いておくものというか、筆頭魔女が保管する義務を負うというか、そういうことを言いたかった訳で。常に身に付けておく必要はないのです」
「なんだ。ならば、玉は玉としてあればよいのじゃな?」
「はい。その通りです」
「ふむ。これでどうじゃ?」
精霊王様が何かをした感じはないけれど、外せるってことですか?
試しに両手でチェーンを掴んでおそるおそる首から外したら――普通のネックレスのように見事に外れた。
「ありがとうございます! 助かりました」
「用は済んだんじゃな。あとは娘が飽きたら帰るといい」
「はい!」
……ん?
何か忘れているような……。
「おぉぉ。子ども人間は筋が良いな。あの調子なら一月もあれば雨を降らせることができるようになるかもしれんな」
「は? ダニエルと娘さんはいったい何をしているんですか?」
「ん? 娘は先生役というのがいたく気に入ったようじゃ。子ども人間に手取り足取り魔法を教えておるぞ?」
えぇぇ。あんまり危険な魔法は教えないでほしいんですけど。大丈夫かなぁ。
「あっ! そうだ。そうでした。精霊王様。私にもご教授いただきたいのですが。転移魔法を覚えたいのです」
「転移魔法じゃと?」
「はい。転移陣を用いる大規模なものじゃなくていいので、私が触れている人間と一緒に町一つ分くらい移動できるようになりたいのです」
「町一つ分の移動か。あまり遠くへ行かないように微調整を覚えたいということじゃな?」
え? 精霊王様の感覚だとそうなるの?
「ええと。遠ければ遠いだけいいのですが、そっちの方が難しいのではないですか?」
「いや。距離よりも目的地が曖昧な方が難しいぞ? お主が明確に意識できる場所なら、近かろうが遠かろうが転移は簡単じゃ。じゃが、隣国の中心地とか、どこぞの宮殿の王の寝室とか、お主が訪れたことのない場所に転移するのは人間にはまず無理じゃろうな」
いや、さすがにそんなことは望んでいないので。
「いえいえ。目の前の場所から移動できるだけでいいのです。悪い奴らから逃げることができればいいので」
「悪い奴ら? お主のような魔女は人間界の宝のはずじゃがな? どうして追われたりするんじゃ?」
「それはまあ、なんというか、色々と誤解があってですね――とにかく、会いたくない人が近づいてきたら逃げられる程度でいいんです」
「ん? そんなのは簡単じゃ。お主ならできるだろう?」
「いえ、一度もやったことがないので」
「ふーん? ならば、あそこの木の横の大岩の前に移動してみよ。大岩の前に立つ自分を思い描くのじゃ。今立っている地面の上からふわりと浮かぶなり、ポンと飛び上がるなり、好きなように移動する様を想像するだけじゃ」
え? 目で見た炎をイメージして魔法で作るのと同じ作業ってこと?
じゃあ――クールにふわりバージョンでいこうかな。
ええと。まずは体がふわりと浮いて、次の瞬間にはあの大岩の前に立って――――。
「あ! できた!」
私、魔法の才能もそれなりにあるみたい。
「簡単じゃと言ったろ?」
「はい! 完璧にコツを掴むまでちょっと練習しますね!」
色々と試して分かったのは、目で見えるところなら初見の場所でも問題なく転移できること。
あとはダニエルと一緒に転移できるかだな。
いや、その前に騎士がいそうにない人気のない場所とここを行き来できるか確かめておきたい。
「精霊王様。ちょっとだけ遠くに行ってみたいのですが、万が一失敗して戻れなくなったら、呼び戻してくださいね」
「おう? 距離は関係ないと言ったじゃろ?」
「はい。一応保険で。お願いします」
「その時は呼べばよい」
「ありがとうございます!」
じゃあ、どこにしようかな……王都からかなり離れていて騎士が探しに来ないようなところ……あ……あそこなら……。
東の端っこに位置する小さな村。
村人を驚かせないように高台の上の方に行ってみよう。
◇◇◇ ◇◇◇
「わっ。あ、成功だ……懐かしい……」
ドワテ村が一望できる。
こんな風に全体を見下ろしたことはなかったなぁ。
エイダンとダニエルと住んでいた家も見える。
感傷に浸ったところで、もうここに帰って来ることはない。
ここでの生活は終わったんだ。
「最後に見納めできてよかったわ」
汚れた人間界を忘れ、澄み切った精霊王様の里の風景を思い浮かべる。
「おっ。大丈夫みたい」
「戻ってきたのう」
「はい。自信がつきました。どこへでも行けそうな気がします」
「知らぬところへゆくのはやめておいた方がよいぞ?」
「はい。今のところそんな必要はないので。それより娘さんを呼んでもらえませんか?」
「お主もせっかちじゃのう。まあ、よいわ。おーい。こっちにおいでー」
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