26 魔法のレッスン
「あのね、ダニエル。前にお手てからブワーッと白っぽい光が出たことがあったでしょう?」
「……うん」
ダニエルは良くないことだと思っているのね。
しょんぼりと俯いてしまった。
「ねえ、ダニエル。実はね、それってとってもすごいことなのよ?」
「え?」
パチパチと目を瞬きながら小首を傾げる様子が本当に愛らしい。
「とっても誇りに思うわ。あなたは私の自慢の息子よ」
「じまん?」
「そうよ! みんなに、『ダニエルってすごいでしょう?』って言ってまわりたいわ!」
「ほんとう?」
「本当よ。だからあなたも自分はすごいんだって自信を持ってほしいの」
「わかった!」
よしよし。
魔法を使える自分を嫌いにならないでね。
「じゃあ、あの光ったものが何なのかを教えてもらいましょうね」
「うん!」
息子が精霊王様の直弟子になるなんて感慨深いわ。
「では精霊王様――」
精霊王様の方を向くと、娘さんがピョンとその前に飛び出してきて大袈裟に胸を張った。
「私が先生か。まあ悪くないな。友達の頼みなら聞いてやろう」
「え? あの――」
「とうさま! ダニエルは私が面倒を見てやります」
友達の意味を広くしちゃったから、弟子も含まれると思ったのかな?
まあ、でも、そうだな。
最初は遊び感覚で始めるのがいいかもね。
「お嬢さん。それではよろしくお願いします。ダニエルは何も知らないので、簡単な魔法からお願いしますね」
「何を言っておる。魔法に簡単とか難しいとかはないぞ?」
「え?」
あれ……ちょっと嫌な予感が……。
「ママン! ぼく、がんばるよ!」
「そ、そう? 無理しなくていいから、少しずつ覚えていきましょうね」
「うん!」
「よしっ、じゃあ早速始めるぞ! まずは全力で魔力を放出してみろ!」
え? え? ちょっ、ちょっと待って――。
「ぜんりょくでほうしゅつ?」
「ああそうだ。お前の中にある魔力を出すのだ」
「それってどうやるの? なにをだすの?」
「はぁ?!」
いきなり過ぎるわ。何の説明もしないで。
「あの、お嬢さん――」
「ここだ。ここのところに溜まっているものがあるだろ?」
娘さんがダニエルのおへその下あたりに手を当てている。
「ん? うーん……わかんない」
それはそうだ。
魔力の知覚は、たとえそれが自分のものであろうと、ものすごく難しいのだ。
勘の悪い子どもなら、蝋燭の炎サイズの魔法を放つまで数週間かかることだってざらにある。
最初の一歩がうまくいくかどうかで、その後の歩みも変わってくる。
魔法を好きになって自信が持てれば、難しい課題にも果敢に挑戦しようという気概が生まれるというもの。
ここはさすがに口を挟ませてもらおうと思った時だった。
気の短い娘さんが、自分の魔力をダニエルのお腹の中にある圧縮された魔力に当てながらさらに難しい要求をした。
「ほら! ここだぞ! どうして分からぬのだ! 熱いだろ! 感じるだろ? ここにあるものを外に出すだけだ。ほらっ! 自分のやりやすい形でいいからやってみろ」
「あ――なんか――ほんとだ! あつい――でもそとにだすって?」
「まだ分からんのか! ほらっ。両手を通して放ってみろ!」
「りょうて?」
「こうだ」
娘さんがお手本とばかりに両手を突き出して、魔力を放ってみせた。
それはまるでレーザー光線のように目にも止まらぬスピードで木々を貫通していった。
直径数センチの穴が空いた大木が、これまた凄いスピードで自己治癒をするように穴が塞がれていく。さすが精霊王様の住まう森。
「いま、どうやったの?」
「見ても分からんのか? ふう。仕方ないな」
業を煮やした娘さんがダニエルの手を取った。
あっという間に二人の体が眩い光に包まれる。
見ている私が恍惚としてしまうほどの清らかな光だ。
「どうだ? 体の中をぐるぐると回っている魔力が分かるか?」
「えーと。うん! なんかわかるよ!」
「じゃあ、それを捕まえてみろ。いつも指先で感じているのと同じようにすればよいのだ。ほら、お腹に手を当ててソレを感じてみろ」
「えーと。うーん。こう――かな? ……ん? ……んん? あ!」
ダニエルの顔がパアッとほころんだ。
「ママン! わかったよ! ぼく、わかったよ!」
「凄いわ、ダニエル。普通は何日もかかるのよ? すぐに知覚できるなんて!」
「おい、魔女。邪魔だ」
「あ、はい」
うふふ。生徒を取られたみたいで嫌だったのね。
「さあ、感じ取れたのなら、体の中からつまみ出せ」
「うん! えーと。えーと。こう?」
ダニエルは言われた通りに、お腹に手を当てたまま、ぎゅうっと掴むような仕草をしてから、空に向けて放り投げるような仕草で手を広げた。
ダニエルの放った魔力を精霊王様の里が歓迎したのか、スターダストのように煌めいて広がると、空に吸い込まれるようにすーっと溶けていった。
「ママン! みてみて! ぼくのだよ! ぼくがやったんだよ!」
「凄いわ、ダニエル! 何て綺麗なの!」
「私が教えてやればこの通りだ」
娘さんが、「えっへん」と腰に手を当てて上半身をのけぞっている。
「どうもありがとう。お陰でダニエルは魔力を扱うコツを掴んだようだわ」
この先は自然の中で、水なら水に、火なら火に、目の前にあるものと同じものを魔力で作り出す練習をしていけばいい。
まだ四歳にもなっていないのだから、ゆっくりやっていけば大丈夫。
「ダニエルはまだ魔力を放出しただけだぞ? 魔法を使ったとは言えん。まだまだ修行が必要だ」
「いえいえ。それには及びません。あまり長居をしてはご迷惑ですし――」
「ちっとも迷惑ではないぞ! ね? とうさま! そうでしょう?」
意外にも精霊王様は、「いや」と否定から入った。
「人間たちは帰った方がいいだろう。魔女よ。先ほど師匠のところに戻ると言っておったな。師匠というのは、お前がここに来る前にいた場所の住人だろう? 何やら取り込んでおるようだぞ」
「え?」
「魔女同士が争うとはな。そんなことが続くようなら人間から魔力を取りあげねばならんな」
「あ、ええと」
それもアリかもしれないけれど。
「精霊王様。私が落ち着かせますので、その件は少しの間、保留してくださいませんか?」
「ああ、いいとも。お主を信じよう」
「ありがとうございます」
「では早い方がよかろう。送ってやる」
待って待って。精霊王様、性急過ぎます!
「ダニエル。ママンにつかまって!」
「うん!」
ダニエルの柔らかい体を抱きしめたと思ったら、目の前の風景が変わっていた。
『ブックマーク追加』と下にある☆☆☆☆☆評価をよろしくお願いします!




