25 【アリソン視点】行動開始
国王への謁見を終えて魔女の館に戻ると、魔女たちが分かりやすく動揺していた。
私が国王陛下に呼びつけられて叱責されたと考えているようだ。
誤解を解きたいが、わざわざ言い訳がましく説明するのは癪にさわる。
「フン」
噂好きな魔女たちは、どうせ何を言ったところで自分の信じたいことしか信じないのだ。
放っておこう。
それよりも、キャスリーン・オルデンバーグだ。
アレへの対応が何よりも優先する。
まさかあれだけの攻撃を受けて生きていたとは……。
あの場からどうやって逃げおおせたのか……。
多勢に無勢で切り抜けられる訳がない。
そこはメリッサ様が手を貸したと考えるべきか――いや。情報は漏れていなかった。完璧な奇襲だったはず。
……考えたところで結論は出ない。アレに確かめればいいだけだ。
玄関先で私の帰りを待っていた従者にローブを預け執務室に向かう。
「魔女様。お茶の用意がございますがいかがなさいますか?」
「そうね。お菓子はいらないわ。お茶だけちょうだい」
「かしこまりました」
三人目にしてようやく満足のいく従者が見つかった。
口数が少なく、私に皆まで言わせなくとも察することができる者。
◇◇◇ ◇◇◇
「魔女様。本日はオレンジティーをご用意いたしました」
王城では常に神経を張り巡らせて対応しているので、魔女の館に戻ると甘い物が欲しくなる。
今日はお菓子は不要だと言ったので、甘い香りのお茶を選択したらしい。合格だ。
「三年ほど前だったかしら。確か、国王陛下の在位十周年を祝った時、元筆頭魔女メリッサ様からも祝辞をいただいたわよね? その時はブールワの森に居を構えていると聞いた気がするのだけれど。今も変わっていないか確認してきてちょうだい」
「かしこまりました」
優秀な従者なので、それだけ言えば手段は自分で考えるだろう。
王城の官吏にでも聞いてくるはずだ。
自分で行くもよし。人を使うもよし。
◇◇◇ ◇◇◇
まったりと小一時間ほど休憩していたところに従者が戻ってきた。
「魔女様。元筆頭魔女のメリッサ様ですが、変わらずブールワの森に住んでいらっしゃるそうです。ただ、前回は連絡をとることはできても訪問することは叶わなかったそうです。使者を送っても結界の中に入れなかったそうで。通信魔法だけは生きているとのことでした」
「そう」
結界を張って人を入れないなんて、アレと大差ない変わり者だわ。
引退した元筆頭魔女。
メリッサ様が筆頭魔女だった当時も、魔力量なら引けを取らなかった。
今なら負ける気はしない。
「明朝出かけるわ――コニーに支度するよう伝えておいてちょうだい」
「かしこまりました」
一応、サポートが必要となった場合を想定して保険をかけておこう。
序列二位のコニーなら魔力量も申し分ない。
それに彼女は攻守のバランスがいい。隙がないのだ。
◇◇◇ ◇◇◇
翌朝。
朝食後に外に出ると、コニーが馬車を用意して待っていた。
ローブを身につけ馬車に乗り込む。
馬車のドアを閉める前に従者が手短に報告した。
「魔女様。諸々早馬で知らせておきました。馬を休ませることなくブールワの森へ向かえるよう道中で二回馬を交代させる予定です」
「そう。助かるわ」
従者がドアが閉めると、すぐに馬車が出発した。
色々と聞きたいことはあるはずだが、コニーは黙ったままだ。
そういうところも気に入って側に置いている。
目的地まで一度も休憩を取らずひたすら走らせる。
馬の速力が落ちかける頃に新しい馬に交代させることができたので、昼過ぎにはブールワの森に着いた。
コニーも、「あっ」と気付いたようだ。
「間違いないわね。森の外縁部からでもメリッサ様の魔力を感じるわ。さすが元筆頭魔女だけのことはあるわね」
「はい。私は一度しかお会いできませんでしたが、変わっておられないご様子」
「……そうね」
衰えを感じられないと言いたいのは分かる。私も同感だ。
なおも進むとはっきりと結界の存在を感じられた。
「魔女様。引退してなおこれほどの結界を維持できるとは――筆頭魔女とは本当にすごい存在なのですね」
コニーはそう言いながらも、「でも魔女様なら容易く破れますよね?」と問いたげな視線をよこした。
返事は必要ない。
これから私一人で結界を破ってみせるだけだ。
馬車を停めて外に出る。
結界に直に触れることで、遠くから感じ取っていた情報を確かめる。
……ふうん。
単純な構造だ。結界を幾重にも巡らせて補強しているに過ぎない。
これくらいなら力で押し通せる。
部下が見ている手前、格好よくきめたい。
少々荒っぽくなるが、時間をかけずに破るため得意の火魔法を最大火力でぶつける。
一瞬だけ弾き返された感触があったが、すぐに破壊した感触が伝わってきた。
「お見事です」
側で見ていたコニーも結界が破られたことを感知していた。
「割と近いようですね」
「そうね」
人の気配がすぐ近くに感じられる。
◇◇◇ ◇◇◇
いくら一人暮らしとはいえ、これはさすがに狭過ぎるのでは?
メリッサ様の住まいは平民の家ほどしかなかった。
「人を雇うのも難しいのでしょうか?」
コニーが素朴な疑問を口にした。
「他人を家に入れるのと、自分で身の回りのことをするのとを天秤にかけて、後者を取ったみたいね」
メリッサ様は伯爵家の出だったはず。
そんな判断をするなんて十分変人と言える。
玄関まで辿り着くと、コニーが律儀にノックした。
返事がないのでそのまま入ると、廊下の先から声が聞こえた。
「ほう。力任せに結界を破った奴は誰かと思ったら、お前だったんだね。大したもんだ。成長したね」
部屋に入ると、メリッサ様がソファーでくつろいでいた。
私の魔力を感知して反撃はしなかったということかしら。
敵意はないと判断して余裕を見せているらしい。
「お久しぶりです。元筆頭魔女メリッサ様。たとえメリッサ様でも大罪人を匿ったとなれば、御身もただではすみませんよ?」
「ほう?」
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