23 筆頭魔女の証をもらいに③
なぜか師匠に、「しっしっ」と手を振って追い払われた。
キラキラと光る扉に手を触れようとしたら、もう精霊王様が住む泉のほとりに立っていた。
「ママン! ここどこ?! さっきまでおへやにいたのに!」
ダニエルが目を輝かせながらそう言うと、勝手に走り出してしまった。
「あ! 待って! ダニエル!」
以前訪れた時は『筆頭魔女の証』を返却することしか念頭になかったので、精霊王様の住処には何の関心もなくて、この風景を素通りしていた。
ほんと昔の私って、情緒が欠片らもなかったなぁ。
こんなに美しい場所なのに‼︎
ダニエルが思わず駆け出してしまうのも分かる。
濃い緑の葉が茂っている木々が点在し、その合間に多くの花が咲いている。
地面はふかふかの苔で覆われている。
斧を持った女神様が現れそうなくらいに澄んでいる泉は透明度が高く、水面に映った自分の顔から視線をずらせば、丸い小石が転がっている底が見て取れる。
パラダイス? ユートピア? シャングリラ?
水や空気が綺麗なだけではなく、何の危険もないと感じられる。
あ! そんなことよりダニエルだ。
「ダニエル! どこなの! 返事して!」
ダニエルの駆け出していった方へ行こうとした時、「魔女よ」と呼び止められた。
振り返ると、泉のほとりに精霊王様が腰掛けていた。
「あ、精霊王様。お久しぶりです」
「お主は相変わらずじゃのう。まあ構わんが。小さいのを一緒に連れて来るとは、相変わらずお主はワシを驚かせてくれるわ」
「ダニエルがどこにいるかご存じですか?」
「ああ。心配いらん。その辺で遊んでおる」
その辺?
まあ心配はしていない。離れていること自体が不安なだけで。
「精霊王様。ここに危険があるとは思いませんが、人間は転ぶだけで怪我をすることがあるので気を付けておいてくださいね」
「おう? ワシにそんな口をきく人間がおるとわなあ。まあそういうことも含めて面倒を見るように言っておくわ」
え? 誰に? まあいいか。
「よろしくお願いします。じゃあ本題に入りますね」
「おう。なんじゃ?」
「この前返却した『筆頭魔女の証』なんですけど」
「ああ、そういえば変な名前をつけておったな。最初の魔女にやった精霊石じゃな」
「それなんですけど……またいただけたらなぁと思いまして」
「おう? いらんから返しに来たんじゃなかったか?」
「あの時の私はどうかしていました。本当に申し訳ありません。精霊王様から下賜された物を返却するなんて間違っていました。お詫びしますので、どうかもう一度私たち魔女にあの宝珠をいただけないでしょうか」
さすがに即答してもらえるとは思っていなかったけれど、想像以上に精霊王様が困惑されたので焦った。
「本当に本当に申し訳ありませんでした」
「ああ、いやあ。あれは元々人間にやるつもりだったから、お主が持って帰りたいというのなら持たせてやりたいところなんだが……ちと面倒なことになっておってな」
……ん?
「面倒なこととは?」
「ワシの手元にはないのだ」
……は?
「おう? 小さい者同士は気が合うようだな」
……?
「おーい! こっちにおいでー!」
精霊王様が遠くの方に向かって叫ぶと、一陣の風と共に人が降ってきた。
「きゃっ。え? ダニエル?」
精霊王様の魔法なのか、ダニエルが、「抱っこして」というような仕草のままちょこんと地面に降り立った。
そしてその隣には見知らぬ女の子が一緒だ。
ダニエルと同じくらいの背丈で天使のように可愛い子だ。
二人が並んでいると神々しい輝きが見える。
「ワシの娘だ」
「え?」
精霊王様にも子どもがいるの?!
「今の持ち主だ。欲しけりゃ頼むんだな」
「えぇ? あら? 精霊王様――もしかして」
「そうだ。ペンダントにしてやった」
いやいや。
ペンダントトップにするには大き過ぎるでしょう!
こんな小さな女の子の首に下げるなんて!
「精霊王様。あんな重たい物を首からぶら下げさせて、可哀想じゃないですか」
「ん? ワシの娘だぞ。重けりゃ軽くするだけのこと」
「……あ。幼そうに見えても魔法が使えるんですね」
ただ見た目がよろしくない。
なんか幼児が虐待されているように見えちゃう。
『筆頭魔女の証』は、肉まんサイズの大きさだからなぁ。
それが真珠のように輝いているから、お宝感が半端じゃない。
「おい! そこの魔女!」
「わっ」
びっくりした!
精霊王の娘さんが口を尖らせて私を見ている。
「ママンにようなの?」
「べ、別に。魔女の方が私に用があるのだ」
「ふーん。ママン。そうなの? このこにようがあるの?」
あら? なあに、その雰囲気は?
そういえば二人一緒に来たけれど、ダニエルは駆け出して行った先でこの子に会ったのね。
短い時間でもう打ち解けちゃうなんて偉いわ。
元コミュ障の私には眩し過ぎるわ。
「そうなの。それより子ども同士仲良くしていたのね。偉いわ」
「おい、魔女! 人間と一緒にするな。私は子どもではないぞ! 今はまだ、この、子ども人間と同じくらいの背の高さだが、すぐに大きくなる!」
子ども人間? うふふ。面白い。
「今、笑ったか? 笑ったな?」
おっとっと。そう言いながらも中身は子どもみたいだけど?
「お嬢さん。そのペンダントなんだけど――」
「これは私の宝物だから誰にもやらん!」
「え?」
そう言うなり、くるっと背中を向けて走り出してしまった。
とりつく島がない。
「あ、まって!」
なんと、ダニエルが女の子を追いかけて行く。
ショックなんですけど!
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