20 【アリソン視点】大罪人への対処
――至急、登城せよ。
そう国王陛下からの命令が下ったのは、サラとフェイが調査から戻って来た翌日のことだった。
お伺いを立てる手間が省けたわ。
◇◇◇ ◇◇◇
謁見の間には、宰相と騎士団長がいた。
いつもの面々だ。
「おや、魔女様。今日は従者も連れられずお一人ですか?」
宰相が片方の唇の端を僅かに上げて声をかけてきた。
私の妹が実家のフォークナー公爵家の令嬢として宰相の息子と婚約するまでは、単に、「ご令嬢」、婚約後は、「姉君」としか呼ばれなかったが、筆頭魔女にまで上り詰めた後は、さすがに宰相もあからさまに見下すような態度は取らなくなった。
私たちの親の代あたりから、女性は『家柄よりも美貌』、男性は『家柄よりも才能』が重んじられるようになっていた。
私の美貌では公爵家に相応しい婚姻が結べそうにないと早々に判断した両親は、体裁を取り繕うために、「娘の才能を国王陛下に捧げる」と、魔女として生きる道を決めてしまった。
だが私には才能があった。
他者の追随を許さない圧倒的な魔力があった。
そしてここまでのし上がった。
筆頭魔女となった今、国王陛下の相談役として、こうして宰相や騎士団長と並び立っている。
「内々の会合とお見受けしましたので」
私と宰相が無言で睨み合っていると、騎士団長が咳払いで国王陛下の入室を知らせた。
「国王陛下が入室なさります!」
大仰な呼び込みの後、ドアが開かれる。
略礼装の国王がゆっくりと玉座に進む。
すっかり見飽きた光景だと思いながらも、ひざまずいて首を垂れる。
「ふむ。揃っておるな。全員、面を上げよ」
国王はそう言って三人の顔をさっと見回すと、宰相に丸投げした。
「宰相。任せる」
「はっ。筆頭魔女様のことですから、例の器械なんぞに頼らずとも真実を述べてくださるでしょう」
宰相の挑発には乗らず、顔色を変えずに答える。
「国王陛下。私からも報告したき儀がございまして、折よくこのような場が設けられましたことに感謝しておる次第です。ですが、先に宰相殿の話を伺いましょう。何やら私にお尋ねになりたいことがおありのようですので」
宰相は、フンと鼻を鳴らして威嚇するように声高に話し始めた。
「ほう――報告をね……。随分と悠長に時間を浪費されていたようですね。コホン。先の筆頭魔女様ですが、確か、あなたの魔法で跡形もなく消滅したと伺っておりましたが?」
「いかにも。私自身そのように信じて疑いませんでしたし、陛下にもそのように報告いたしました」
「はて? そうなると、貴族の間でまことしやかに囁かれている『先の筆頭魔女様は今も生きていて身を隠している』という噂は根も歯もないことだと?」
「いいえ。調査する価値はあると考えます。私が陛下にお会いしたかったのもそれが理由です。あの者が生存している証拠はありませんが、今一度捜索し、万が一にも生存していた場合、私に対処させていただきたく、そのお願いに上がりたかったのです」
「まあ、ものは言いようですな。陛下の暗殺を企てた危険人物が、逮捕されずにのうのうと人生を謳歌していたとは! 王宮はあなたの言葉を信じて平常通りの警護をしていたのですよ? 万が一にも暗殺計画が再実行されていたらどうなっていたことか……。危険人物にまんまと逃げられただけでなく、生存が疑われる事態を把握しておきながら、一報すらよこさないあなたを――果たしてこのまま信用してよいものか……」
アレが生きていなくとも、噂になった時点でこちらの負けだ。
悔しいが今回は反論できない。
「此度の件で、陛下に多大なご心労をおかけしましたこと、筆頭魔女アリソン・フォークナーが深くお詫び申し上げます。あの大罪人が生きていたとはにわかには信じがたいですが、もし存命ならば、私が今度こそ然るべく対処させていただきます。速やかに陛下のご不安を取り除いてみせる所存にございます」
「当然ですな」
宰相が冷ややかに言い放つと、頬杖をつきながら国王が口を開いた。
「魔女よ」
「はい。陛下」
「『筆頭魔女の証』も塵になったと言っておったが、先の筆頭魔女が生きていたとなると、今でもその者が証を所持しているということか?」
……くぅ。
証。証。証。またそれか!
あの日から誰も彼もがその言葉を口にしてきた。
『力量不足だから証が移行しなかったらしい』
『証が引き継がれなかったのは精霊王様がお認めになっていないからでは?』
「おそれながら、陛下。その件につきましては私も分かりかねます。ですが――」
「言い伝えでは、証が自らを手にするに相応しい人物を見極めるらしいが、それは本当なのか?」
横にいる宰相がほくそ笑んでいるのが分かる。
私と違って彼はいつでも好きな時に陛下に謁見できる。
宰相め! そんな出鱈目を陛下に吹き込むとは。
宰相があえて感情を出さずに話しかけてきた。
「筆頭魔女様。消滅したとされる『筆頭魔女の証』ですが、それを手にすべき人物が現れれば、初代様の時と同様に精霊王様がお授けになるのでは? 該当する方が見つからないので精霊王様が再臨されないと言われておりますが、それについてはどのようにお考えですか?」
「証について様々な噂が絶えないのは、その真実を知る者が少ないせいです。筆頭魔女から筆頭魔女へと密かに伝承されておりますので。私の場合は先代の不祥事のせいで、その伝承がなされておりません。もしかすると先代の大罪人は、証を切り札に何か企んでいるのかもしれません。まあ、どのような思惑があるにせよ、生存を確認した場合は、今度こそ私がこの手で始末します」
「それは頼もしいですな」
まるで期待していない口ぶりだ。
軽んじていた私が自分と同等の立場を手に入れたのが気に入らないのは分かる。
失敗して弁明する情けない姿を見たいがために、宰相は協力しないつもりだろうか。
「……して。これからどうする?」
二人ともその辺でいいだろうと、国王が端的に尋ねた。
「はい。あの者が立ち寄りそうな場所をしらみつぶしにあたります。魔女を総動員して調査に当たらせますので、どうかご安心を」
なおも宰相が口を開こうとしたが、騎士団長の方が早かった。
そろそろ発言しておかないと、また無能呼ばわりされると焦ったのだろう。
「陛下のことなら私にお任せを。城下にいる騎士たちも城に詰めるよう配置を変えます」
宰相はおそらく私を貶めるような発言をするところだったのだろう。
不発に終わって騎士団長を睨みつけている。
国王の手前、「魔女を総動員」などと言ったが、その必要はない。
アレが立ち寄れるところなど数えるほどしかない――というか、一箇所だけだ。
「師匠」と呼んで慕っていた先々代の魔女メリッサ様。
いつだって私よりもアレを贔屓していた魔女。
引退後は森の中に引きこもっていたはず。
まさかこの私が引退した魔女を訪ねるために森に出向くことになるとは。
キャスリーン・オルデンバーグ――まったくもって忌々しい!
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