19 【アリソン視点】鑑定器
「もう一度」
調査から戻ったサラとフェイを呼んで報告を聞いたが、口を開くや否や二人揃って戯言を並べた。
「は?」
「ええと?」
フェイはともかくサラまでもが真顔で、筆頭魔女である私を不躾に見返している。
「あなたたち、自分の報告した内容を信じているのですか? あの大罪人が仮に生きていたとして、あくまでも仮にという前提ですが、マリラという偽名を使っていたことはあり得なくもないとは思います。でも、アレが結婚していたというのは、本人の口から聞いたとしても信じられません。ましてや子どもを産んだ? そんな馬鹿なことがありますか!」
「うっ」
「あ、まあ。はい」
サラはともかく、フェイはアレの性格をよく知っているはずだ。
「もう一度聞きますが、今の報告内容に嘘偽りはないのですか?」
フェイは序列が上の者が答えるべきだとばかりに知らんぷりをしている。
彼女の態度は前々から不満に思っているが、ずば抜けた感知能力を持っているため館を追い出すことができないでいる。
序列十位まで上り詰めたサラの方は、いつものように私の不興を買わないように言葉を選ぶかと思ったら、自暴自棄になってしまったらしい。
「私も今でも信じられませんが、村人たちが顔を確認しましたので事実だと思われます。フェイが感知した魔力の痕跡はもう残っていませんでしたが、先の筆頭魔女様が潜伏されていたのは間違いないと思います。私たちの目を欺くために結婚したのかと思いましたが、村人たちの証言では、本当に子どもを可愛がっていたらしく、どこまでが偽装なのか――」
「そこです! アレは、たとえ『ふり』だとしても人を気にかけることなどできるはずがありません! 子どもを溺愛している? そんな馬鹿なことがありますか! 結婚して子どもを産んでいる時点で別人と考えるのが妥当です。あんな引きこもりが! 研究にしか興味を持てない人間が?! しかも魔力の痕跡がなかったのでしょう? 話になりません!」
さすがにサラが申し開きをするかと思ったが、「魔力の痕跡は――ごく僅かなら消えてしまったと考えることもできます」と食い下がった。
どういうことなの?
ほんの短時間、アレの探索に出かけただけで何が変わったの?
アレは筆頭魔女だった頃から、他人に関心がないくせに周囲にはしっかりと影響を与えていた。
筆頭魔女らしく、頂点に立った者として華々しく活躍するでもないのに。
今思い返しても腹立たしい。
アレは筆頭魔女としての責務を果たそうとしなかった。
貴族たちの偏見を覆せとは言わないが、せめて魔女の地位向上のために働くべきだったのに。
『あの――魔女様。今日は午後から最高顧問会議に出席されるため登城されるご予定では? すぐにお支度を――』
『ああ、それなら断った』
『……‼︎ な、なぜ――何ということを――宰相や騎士たちはこれ幸いにと、今後は私たち魔女の出席は不要だと陛下に進言するかもしれません!』
『うん。不要だと思うよ』
『そんな――それでは私たち魔女全員が侮られます。どうか今後のことをもっと真剣にお考えください。筆頭魔女としてのお役目を果たしてください』
アレは筆頭魔女でありながら、自分以外の魔女のことなど気にも留めていなかった。
魔女たちもアレが発明した魔道具に心を奪われていただけで、アレを慕ってなどいなかった。
それにしても、暮らしの役に立つ道具を開発することに夢中になるなんて、私には理解できない。
魔女はもっと高貴な存在なのに。
『じゃあ私の代わりにあなたが出席するといいわ。あなたにはその資格も能力もあるものね。私よりあなたの方が得意だと思うし』
病気でもないのに筆頭魔女の代理として出席するなんて、序列二位の魔女がでしゃばっていると思われるじゃないの。
欲しがっているようだから、あげると言いたいの?
「はぁ」
あの頃の鬱屈した感情が蘇ってしまった。
アレが長く筆頭魔女の地位に留まらなかったから助かった。
私が筆頭魔女になった時に魔女の地位が落ちていたらどうしようかとヒヤヒヤしていたけれど。
確かにアレの発明した魔道具の中には賞賛に値するものがある。
魔道船の実用化に成功した功績は非常に大きい。
だが個人的には、コレの方が遥かに実利が大きいと思う。
この世に二台しかないのが悔やまれる。あと数台完成するまで待つべきだったかもしれない。
王城には完成品が、私の目の前には試作品がある。
この鑑定器の価値を真に理解しているのは私くらいなものだ。
他の者たちは、「とても便利」くらいにしか思っていない。
「サラ。フェイ。念の為、あなたたちを鑑定器にかけます」
「……!」
「……!」
二人とも、この器械を前にして「鑑定」と言われたことで、我が身に何が起きるのか理解したらしい。
「お、お待ちください。フェイはともかく、私は序列十位です! そんな必要は――」
「黙りなさい。やましいことがなければ何の心配もいらないはずです」
「はい。もちろんです。ですが――」
「まずフェイから行います」
従者たちがフェイを椅子に座らせて、両手首に鑑定器から伸びている腕輪をはめる。
こめかみの上あたりにパッドを貼り、機器を作動させる。
質問者である私は鑑定器本体に自分の魔力を流し、命じるだけでいい。
「私の言葉を繰り返しなさい。『私フェイ・ドッズは聞かれたこと全てにおいて真実を語ることを誓います。この両手の魔力にかけて』」
「わ、私フェイ・ドッズは聞かれたこと全てにおいて真実を語ることを誓います。この両手の魔力にかけて」
いつも飄々としているフェイも、さすがに緊張を隠せない様子だ。
「よろしい。万が一嘘をついたり答えを躊躇った場合は、誓いを破ったと認識し、この鑑定器があなたの魔力を奪います」
魔女たちは皆、この機器が正確に作動することを知っている。
数多くの裁判で罪人となった貴族に使用されてきたのだから。
「先ほど私に報告した内容は全て真実なの?」
「はい。誓って全て真実です」
「具体的に聞かせてちょうだい。キャスリーン・オルデンバーグが死を偽装して実は生存していると、あなたはそう考えているのね?」
「はい。先の筆頭魔女様ならそれくらいのことは容易いかと」
「……! あなたはキャスリーンが他人に興味を持たない、いえ。言い換えましょう。他人に興味を持てない人間だったことを知っているわね?」
「……はい。あの方は他人を寄せつけられませんでした」
「そんな人間が結婚をしていたと聞いて、本当に信じたの?」
「信じがたいことですが、多くの証言があります。調査では個人的な感情は排除しなければなりません。だから、はい。信じました」
「……! そう。では今はどうしていると思う?」
「先の筆頭魔女様は記憶を無くされた状態であの村に辿り着かれたとのことでしたので、おそらくご実家がオルデンバーグ子爵家であることもご存じない状態だと思われます。子どもを連れているとなると、どこか落ち着ける町なり村なりを探すのではないでしょうか」
「そう」
どうやら本当にありのままを報告していたらしい。
悔しいけれど、この鑑定器の精度はほぼ百パーセントだ。
何てことかしら‼︎
念の為サラも鑑定するが、現地で確認してきた二人が揃ってアレの生存を信じているとなると、事実として受け止め、早急に打開策を練るべきなのかもしれない。




