18 筆頭魔女の証
師匠が引退した後、後を継ぐのは誰か。
普通は後継者を指名するのが慣わしなのに、師匠はそうしなかった。
あろうことか、「実力を示せ」と、私たちを戦わせて一番強い魔女を決めさせたのだ。
『私は辞退します。筆頭魔女になんてなりたくありませんし、同僚と魔法で戦うなんて馬鹿らしくてできません。時間が無駄になります』
『これは国王陛下が承認された公式行事なんだよ。誰も辞退はできない』
私は確かに便利な魔道具の開発に没頭していたけれど、転生者としては魔法についても極めたいと思って、これまた前世では当たり前の感覚で、圧縮やら濃縮やらを試していた。
この世界の魔女たちは生まれ持った魔力だけが全てだと思い込んでいるので、魔力を濃縮したり圧縮したり、ましてや溜めるという概念がないのだ。
私とみんなとは、日が経つごとに差が広がっていった。
そのことは師匠にも報告するのを忘れていたくらいだから、アリソンたちが知らないのも無理はない。
彼女は生まれ持った魔力量が全てだと過信していた。
でもまさか私以外の三人が共同戦線を張るなんて驚いた。
戦い自体はお粗末だったけれど。前世でクライム系のドラマを見漁っていた私には子供騙しだったなぁ。
三人がかりでも、魔力も戦術も私の足元には及ばなかった。
『アリソン――と、そこの二人もか。一人ずつでなくていいの? 私は大助かりだけど』
『……‼︎ この、このっ‼︎ 二度とそんな口がきけないように思い知らせてあげるわ!』
『早いところ終わらせましょう。さあ、どうぞ?』
『本当にあなたって人は! 行くわよ!』
アリソンは隣国と戦争をしていた頃の書物でも読んだらしく、最初に大規模な火炎魔法を放った。
彼女が前に突き出した両手の先で、炎がどんどん大きく渦巻く様をわざわざ私に見せつけてから放ったのは、私に考える時間を与え、効率的な防御魔法として水魔法を選択するように仕向けるためだろう。
私が水魔法を発動したところに二人目が雷系の魔法でダメージを与え、私が弱ったところを三人目の風だか土だかを加えて一気に潰すつもりだったんだと思う。
私はアリソンの放つ魔法を見て、「なぁーんだ。あんなもんか。じゃあ風魔法で押し返せるな」と思って、竜巻を放ったのだ。
もちろん戦闘開始と共に、私が開発した固有魔法『絶対防御』もかけていたけれど。
竜巻に乗った火炎がアリソンたち三人を火の海に沈めた。
さすがにやり過ぎたと思って、慌てて豪雨をお見舞いしたら、二人目の手元から放たれた電撃で三人共感電してしまい、危うくショック死するところだった。
髪の毛がチリチリになって着ているものも黒焦げで、普段彼女たちが馬鹿にしている平民も真っ青の姿だと思ったら、ちょっと笑えてきた。もちろん我慢したけれど。
『そこまで! 勝負あり!』
そう言った師匠もちょっと笑っていたな。
アリソンだけはプルプルと震えながら私を睨みつけていた。
『よくも――よくもこの私に恥をかかせてくれたわね!』
見学していた人の中から、「見て、あの姿。無様ね」とか、「あれで序列三位ですって? 情けない」などと、心無い言葉を浴びせられていたから、彼女が私のせいで侮辱されたと考えるのも分からないではないけれど。
でも勝負事だし、序列二位の私に、三位のアリソンが負けたのだから、そんなに恥ずかしいことじゃないと思うんだけどなぁ。
想像以上の負けん気の強さだ。
◇◇◇ ◇◇◇
「思い出したようだね。結局、私の配慮なんて何の役にも立たなかった。まさかアリソンがあそこまでお前を憎んでいたとはな……お前が国王暗殺を計画していたなんて吹聴するほどな」
そういえば、そうだった。
私――アホらしい容疑をかけられていたなぁ。
「それよりも、お前。『筆頭魔女の証』はどこに隠したんだい? 五年経った今でも、アリソンにはそっちの方が地味に効いてるよ。貴族なんて口さがない連中ばかりだからね。『証は先の筆頭魔女様以外に相応しい者はいないと判断し、彼女と共に消えて無くなった』『アリソンは筆頭魔女を名乗る資格がない』なんて言われているからね」
へえ。そうなんだ。
「……あ!」
「何だ?」
「あー。えーと。今思い出したんですけど。『筆頭魔女の証』は探しても見つかる訳がありません」
「まさか、お前……その手で灰にしたとか言わないだろうね?」
「まさか! 不要だと思って返却したんです」
「返却?」
「はい」
「は? 誰に?」
「え? そんなの決まっています。それは――」
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