17 私の人格
「ママン。おなかすいた」
「あ! ごめんなさいね。師匠。何かすぐに食べられるものありますか?」
「すぐに食べられるもの? それって小さい子どもがかい?」
「大人と同じもので大丈夫です。食べやすく切れば食べられるので」
「ふーん……」
え? その目つきの意味は? 気持ち悪いんですけど。
「何ですか?」
「いや。本当に母親なんだと思ってな」
「何回言えば信じてもらえるんです?」
「分かった。分かった。厨房はあっちだ。好きにしていい」
「じゃあ、お借りしますね。ダニエル。ちょっとだけ待っててね」
「うん!」
そのまま部屋を出ようとして、一瞬だけ躊躇した。
ダニエルを師匠と二人だけにして大丈夫かと。
「師匠。別に一緒に遊んでくれなくていいので、怪我だけしないように見ていてもらえますか?」
「は? 部屋の中にいてどうやって怪我をするんだい?」
「テーブルの角とか、そこの積み上がった本とか、色々あるじゃないですか。ダニエルは大人しく待っていると思いますが、万が一何かにぶつかったり――」
「そういうことなら、動けないように椅子に縛りつける魔法を――」
「師匠‼︎」
「冗談さ。見ているからさっさとお行き」
半分は本気だった気もするけれど。
「ダニエル。そこのおばあさんと一緒にいい子で待っていてね」
「うん!」
◇◇◇ ◇◇◇
意外にも師匠はポトフを作っていた。料理をする人だっけ?
それでも野菜を大きく切っているところなど、面倒くさがりの片鱗が垣間見える。
ダニエルでも容易に噛み砕けるように小さく切り分けて火にかけた。
歳を取ったせいなのか、パンもハードタイプだけでなくクロワッサンやロールパンがあった。
温めたポトフとパンを持って部屋に入ると、師匠がダニエルの両手首を掴んでいた。
「師匠! 何をしているんですか!」
慌てて師匠からダニエルを奪い取ると、ダニエルが不思議そうな顔で、「おばあちゃんと遊んでたんだよ」と笑った。
あの師匠が子守り?
「何だい? 魔法はかけていないよ?」
「物理的に拘束していたじゃないですか」
「はん? はしゃぎ過ぎて椅子から落ちそうになったところを助けてやったんだぞ?」
「はしゃぎ過ぎて?」
ダニエルを下ろすと、タタタッと師匠の方へ駆けて行った。
「おばあちゃん。もういっかい。ね? もういっかい」
「コホン。腹が減ってるんだろ? 食べてからだ」
「えー。もういっかい。おねがい。もういっかい」
照れ隠しで、「しっしっ」とダニエルを突き放しているけれど、ダニエルは師匠から離れようとしない。
「こんな短期間でダニエルが懐くなんて意外です」
「うるさい。早く食べさせてやれ」
◇◇◇ ◇◇◇
なんだかんだで三人で食事をしてダニエルに昼寝をさせた頃合いで、師匠から切り出された。
「すっかり母親じゃないか。こうして目の前で見ていてもまだ信じられないんだけどね」
「師匠。それ何度目ですか。いい加減信じてくださいよ」
「頭では分かっているが、感情が追いつかないというやつだ……」
「は?」
「いやいや。これでも喜んでいるんだよ? あれだけ他人を寄せ付けなかったお前が、まともな人間になったんだからな」
「……うぅ」
師匠の言いたいことは分かる。
転生後もコミュ障を拗らせて人間関係はシャットアウトしていたからなぁ。
あれ? ということは、私……コミュ障を克服したってことだ。
うわあ。まさかこんな日が来るなんて! ほんとびっくり。
「アリソンとのことは全部思い出したかい?」
「アリソン? ああ、アリソン……」
あの、いつも奥歯を噛み締めているような人ね。
今思うと、彼女、凄いストレス抱えていたんだろうなぁ。
私、仮にも上司だったのに、一度も気遣ったことがなかった。ゴメン。
「奥歯がボロボロになっていなきゃいいんですけど」
「は? 何を言ってるんだ? 筆頭魔女になった経緯のことを言ってるんだよ」
筆頭魔女……あぁ……あの時のことか。
「慣例に従ってお前を指名しようと思ったんだけど、自尊心の高いアリソンには受け入れ難いだろうと思ってね。納得がいかないままお前の下につけば遺恨が残る。あいつがお前との力の差を自覚する以外に引っ込まないと思ったから、『実力で勝ち取れ』って言ったのさ」
……そうだった。
師匠の後を継ぐ人間を決めるために、当時の序列二位から五位までの魔女たちでバトルロイヤルをやったんだ。
よくもまあ、こんなくだらないことを思いつくもんだと師匠を恨んだっけ。
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