第九十五話【弱点】
ずっとこいつの胴体の上にいれば、攻撃もされないし、そのうち相手の体力がなくなるだろう。
そう考え俺は胴体の上に乗ったまま、短剣の取っ手を力強く握る。
「振り払ってみろよ」
「……ヴォァァァ!!」
俺の挑発が伝わっているのか、コモルドラゴンは体を激しく上下左右に動かし始めた。
かなり強い。
少しでも気を抜くと、思わず振り落とされそうになる。
「あらっ?」
気を抜いていないのに振り落とされた。
突然のことに俺はバランスを崩してしまい、地面に倒れた。
くそっ。
まさか短剣が抜けるとは思わなかったわ。
多分相手が背中の力を緩めたのだろう。
俺は急いで立ち上がろうと水たまりに手をついた、その瞬間!
相手は大きな口で、俺の腹に噛みついて来た。
まじかっ!?
やばい。
急いで腹に力を込めるが、牙の侵入をある程度許してしまっていた。
それなりに痛い。
「ヴゥゥ……」
そんな唸り声と共に、俺の腹と背中へ牙をめり込ませようとして来やがる。
あ、これ負けるやつだ。
おそらくどんなに力を入れても、先に力尽きるのは明らかにこちらだ。
戦闘において重要なことは、何事でも最悪の事態を想定しておくこと。
つまり、今の状況で相手が止めてくれるのを待つという考えは捨てた方がいい。
そうならなかったら負ける可能性がどんと増えるからだ。
背中と腹に穴を空けられて、十分に戦えるはずがない。
貫通でもしたら、体内に空気が入って来るだろうが。
なんで直接体内を換気せんとおえんのだね?
という訳で……。
「おらぁぁ!!」
体に力を入れた状態で、短剣を相手の眼球に差し込んだ。
状況が状況だからあまりじっくりとは見れないけど、手の感覚で分かった。
今のは入ったぞ。
「ヴォアァァァアァァ」
コモルドラゴンは悲鳴にも似た大きな声を上げつつも、口を開けてくれない。
開けろよ!
痛いんだよ、この野郎。
俺は更にもう片方の目の位置を確認し、短剣を思いっきり振りかぶった。
だが今回は金属と金属がぶつかったような音が響く。
瞼を閉じたのだろう。
果たしてそこまで硬い瞼をどうやって動かしているのか不思議でしょうがないわ。
にしても硬すぎ。
全然通る気がしねぇ。
とりあえずもう一度眼球を狙おうと考えていた、その時。
「ゴォォォ───」
相手が俺の胴体に噛みついている状態で炎を放出して来た。
くそっ、熱い。
あかん。火傷する。
俺は若干自棄を起こし、なんの考えもなく短剣を色んな部分に突き刺そうとする。
けど、やはり向こうも体中に力を入れているらしく、全然通らない。
早く力を抜けよ。
───サクッ。
ん?
なんか気持ちよく刺さった。
体に力を入れたまま頑張って少し確認してみると、相手の首元に短剣が刺さっている。
あれ……えっ?
コモルドラゴンって、首元が柔らかいのか?
全然知らなかったわ。
試しに短剣を抜き、もう一度刺してみた。
すると……うん、刺さった。
「ヴィィィン」
相手は弱音のようにも聞こえる声を上げて、口を開いた。
やったぜ。
この機会を逃すまいと、急いで相手の口から脱出した。
俺は水を含んだ地面を転がり、急いで立ち上がる。
着ている服は牙で穴が空き、泥だらけで、さっきの炎によって溶けている。
めちゃくちゃやん。
でも、危なかったなぁ。
胴体に穴が空くのではないかと思った。
そこまでピンチにはならなかったけど。
さてと。やられたらやり返す……。
俺は相手の噛み付きを横ステップで躱し、もう一度首元に短剣を差し込んだ。
そしてノンストップで柔らかい部分を切り刻んで行く。
まるでゴムを切っているかのような感覚だ。
コモルドラゴンは必死に抵抗しようと体を動かしているが、俺の手は止まらない。
やがて、首が取れた。
うん、短剣で首元をおおよそ一周したら、ぽろっと取れたわ。
首が千切れ、頭と体が離れているのにも関わらず、足が動いている。
何故か胴体がこちらへ近付いて来た。
首のあった部分から大量の血が流れているのに、どうしてまだ動けるんだ?
流石にしぶとすぎだろ。
気持ちの悪い。
俺は近付いて来る胴体を蹴り飛ばした。
それによってコモルドラゴンの体は壁にぶつかり、とうとう動かなくなった。
蹴った足の部分が痛い。
何度も言うけどまじで硬いわ。
力を入れていない状態であれだもんなぁ。
「何にせよ、俺の勝利だ」
特に苦戦するほどでもなかったな。
読んでくださりありがとうございます。




