第九十四話【赤いコモルドラゴン】
洞窟の奥へと歩みを進めること、更に数分。
だんだんと視界が暗くなって来た。
理由は言わずもがな、奥へと進むたびに天井から入って来る光が減っているからだ。
明らかに見えない。
このままだと真っ暗になってしまうかもな。
そうなったら引き返すしかないだろう。
流石になにも見えないとなると分が悪い。
そう考えつつも足を進めていた、その時。
ゴリッ!
靴の裏に違和感を覚えた。
何かを踏んだらしい。
結構硬かったぞ?
ほんで何か折れたような音が聞こえたな。
骨?
すぐさま下を向いて確認。
すると、地面にはコモルドラゴンの骨が綺麗に落ちている。
少し向こうには皮や肉が一切ついていない、頭蓋骨もある。
何者かに捕食された跡か?
まあこの場所からして、魔物に食べられたという線が妥当だろうな。
人間がわざわざこんな水たまりだらけの場所で、楽しい食事をするとは思えん。
ということはだ……この辺にコモルドラゴンより強い魔物がいるのか?
暗くて全然見えないのだが……。
赤い魔物の可能性も十分にある。
警戒して進もう。
俺はズボンのポケットに入れておいた短剣を取り出し、構える。
そして音を立てないよう、静かに水たまりの中を歩き出した。
その刹那!
暗闇の中、何かが光った。
赤い!?
俺は考えるよりも先に体を回転させ、地面を転がるとその場から真横へと移動した。
地面に着いたせいで服が濡れた。
その赤い光は俺の真横を通り過ぎていく。
熱い。
どうやら向こうにいる奴が炎を放射したらしいな。
絶対人間ではない。
この炎は百パーセント、コモルドラゴンだ。
それも普通のコモルドラゴンの炎なんかじゃない。
明らかに速いし、炎のサイズが大きすぎる。
となると、あいつだ。
俺はその場にリュックを置くと、地面を蹴って走り出す。
するとだんだん相手の姿が視界に入って来た。
暗くて周りが見えにくいが、それでもはっきりと色の識別は出来る。
赤だ。
探していたあいつで間違いないだろう。
そこで再び、相手の口から火炎放射。
俺は横ステップで躱し、ほとんどスピードを落とさないまま走り続ける。
あいにく瞬発力には自信があるのでな。
そんなのが当たると思ったら大間違いだ。
更にもう一度火炎放射が飛んで来るが、それも横ステップで回避。
そして、
「───くらえぇ!」
地面を這っているコモルドラゴンの背中に、短剣を突き刺した。
少し表面の鱗が硬かったけど、綺麗に取っ手の部分まで入った。
気持ちいいねぇ。
やみつきになるわ。
「ヴィィィ……」
相手はよく分からん声で鳴いている。
この俺を威嚇しているのかね?
不愉快だから止めたまえ。
て……あれ?
短剣が抜けないんだが……。
こいつ、力を入れて肉を硬直させてやがる。
俺の力で引き抜けないって、こいつの筋肉どんだけ硬いんだよ。
まあいい。
一旦短剣は諦めよう。
俺は短剣の取っ手から手を離し、まず最初に相手の胴体を蹴る。
「ヴィァ!」
硬すぎだろ。
蹴った足が痛い。
相手は驚いたような声を上げつつも、尻尾を勢いよく振って仕返しをして来た。
ジャンプして躱そうと思ったのだが、予想以上に速くて間に合わなかった為、攻撃をすねにくらってしまった。
痛っ!?
こいつ、尻尾まで硬いやん。
何やねん。
俺は思わずコモルドラゴンから距離を取る。
くそっ。武器無しだと分が悪い……か。
まさかここまで防御力が高いと思わなかった。
下手したら俺よりもあるぞ。
さて、どうやってあの装甲を破ろうか。
まず浮かんだのは、急所を狙う。
でも正直、この生物のどこが急所なのか分からん。
じゃあ、目だな。
俺は急いで相手に近付く。
そして目元に向かって勢いよくパンチ! ……失敗。
相手は直前で反応し、目を閉じやがった。
しかも瞼が硬いだと!?
こいつ、どこまで防御力が高いんだ?
まさか目玉まで硬いとか言わないよな?
もしそうだとしたら、今の俺にこいつを倒すすべはない。
少しの距離を取り分析をしていると、コモルドラゴンは地面を這ってものすごい速度で近付いて来ていた。
おわっ。
とっさにジャンプし、相手の胴体の上に乗る。
まるで金属の上に足を乗せたみたいだ。
俺はこの状況で、とりあえず短剣を取ろうとする。
だが、やはりびくともしなかった。
あ、いいこと思いついたかも。
この短剣の取っ手を両手で持ち、ずっとこいつの胴体の上にいればいいんじゃね?
攻撃もされないし。
そのうち相手の体力がなくなるだろう。
うむ、名案だ。
読んでくださりありがとうございます。




