第九十一話【出番】
冒険者たちはすぐさま行動に取り掛かる。
比較的体が大きめの三人が、それぞれ負傷者を背負って走る。
そしてその三人の近くに大勢が集まって、集団行動で下へと向かって行った。
いい判断だと思う。
自棄を起こして無理矢理にでも勝とうとするより、その場の状況をいち早く理解し、弱い仲間や負傷者を逃がすのは正しい。
命を大切にするのは大事だからな。
流石熟練冒険者だ。
その辺はしっかりとしている。
まあ見捨てた方が被害が抑えられるという時もあるだろうけど。
このずば抜けて強い二人いる状況では、これがいいのだろう。
結構勉強になるわ。
将来複数人でクエストを受けるようなことがあれば、なるべく仲間の命優先で行こっと。なんせ、俺は強者だからな。
「おらぁ。くらえぇ!!」
カールさんは全体重を乗せたようなフォームで大剣を横に振り、赤いオークの腹部に直撃させた。
するとかなり鈍い音が響き、くらった張本人のオークは、
「ブフォォォ」
と声を上げてダメージを受けた場所を片手で押さえている。
どうやら効いたらしい。
現にどす黒い色の血が流れている。
見ていて分かったけど、今のはかなり重たかった。
あんなのをもろに受けて堪えられる奴の方が珍しいと思う。
にしても冒険者って結構強いんだな。
正直舐めてたわ。
スピード型に重戦車。
二人合わせたら俺でも勝てるかどうか分からん。
いいねぇ。
目標が増えるのはいいことだ。
俺、わくわくすっぞぉ。
少しの時間が経った。
まだあのSランク二人は、赤い魔物を食い止めている。
だが見た感じ、追い詰められているのは明らかに冒険者側。
赤い魔物たちは、時折ダメージをくらって苦しそうな表情を見せるが、致命傷とまではいかない様子。
対し熟練冒険者二人は、体の限界を超えて動いているかのようだ。
たまに見える表情からして、早くここから逃げ出したい、とでも言いたげ。
それほどまでに赤い魔物の攻撃は重たいのだ。
「青い閃光レイナ、俺たちもそろそろ引くぞ。もう少しSランク冒険者を集めないとこいつらには勝てそうにないぜ」
「そうね。じゃあ……せーの!」
Sランクの二人は、同タイミングで後ろを振り向き、走り出した。
青い閃光さんは一瞬で見えなくなったが、カールさんは若干遅め。とても力強い走りだ。まあ、あれでも他の一般人に比べたら速い方だろう。
そんな二人を追いかける赤い魔物二体。
だが、どちらも遅い。
コモルドラゴンは必死に地面を這い、オークは二本足で重たい体を動かしている。
俺は赤い魔物を見失わぬよう、静かに後ろからついて行く。
少しして。
やがて赤い魔物二匹は冒険者たちに追いつけないと判断したらしく、その場に止まった。
さてと……そろそろ俺様の出番かな?
もう冒険者たちはこの辺に残っていないだろう。
つまり自由にのびのびと戦うことが出来る。
そう考え、近くの大木にリュックを置き、一度ジャンプをする。
今までかなり重たいリュックを長時間背負っていたせいで、体が軽く感じる。
まるで加速しているようだ。
よ~し、まずは赤いオークちゃんから。
俺自身、去年よりもどのくらい成長したのか試してみたい。だからなるべく体力があるうちに戦っておくという考えだ。先にコモルドラゴンとやったら、怪我をしてしまうかもしれんからな。
まあ、去年戦った時よりかは楽に倒せるだろう。
俺は、地面に置いてあるリュックから護身用の短剣を取り出し、あまり音を立てないように歩く。
赤い魔物たちは目的を失ったように、それぞれ辺りを彷徨い始めた。
さぁ、楽しい戦いを始めよう。
「おらぁぁぁ!!」
大声を上げつつも力強く地面を蹴り、オークに近付く。
声でこちらの存在に気付いたらしく、オークとコモルドラゴンの視線が俺に集まった。
気付いた時にはもう遅いんだよな。
持っている短剣越しに、気持ちのいい感覚が伝わって来た。
短剣の刃の部分がすべてオークの腹部にサクッと刺さったのだ。
あぁ。中毒になりそうだぜ。
「ブフォォォ!!」
オークは痛みによるものであろう叫び声を上げる。
かなり痛いらしい。
安心して?
もっと痛くしてあげるから。
コロッと死んじゃったらお互い楽しくないでしょ?
死にそうで死ねない感覚をずっと味わいやがれ。
俺は刺している短剣を抜き、急いで別の部分に刺した。
刃はとても赤い。
まるで消えない過ちを表しているかのようだ。
うん、自分で言っててよく分からん。
再び抜き、また刺す。
楽しい。
気持ちいい。
日常で溜まったストレスが一気に解消されるわ。
気付くと、オークに顔面を殴られていた。
遊びすぎて全然気が付かなかったわ。
体が軽い俺は横に吹っ飛び、木にぶつかって地面に倒れてしまった。
やっぱり痛いな。
重たい。
けど、去年よりも確実に痛くない。
これなら耐えられるぞ。
そんなことを考えていると、
「ゴォォォ───」
俺の首から下が、すべて炎に包まれた。
周りを確認してみると、コモルドラゴンが口から火を放出している。
こいつ、いつの間に。
全然気にしてなかったわ。
てか、熱いから止めて。
俺はだんだんと余裕がなくなって来た為、急いで立ち上がるとその場から離れた。
そして再びオークの元へと近付く。
コモルドラゴンくんは一旦お預け。
正直二体相手はだるい。
単品でもかなり強いのに、複数いたら気が回るか分からない。
「よいしょっ!」
今度はオークの首に短剣の刃を差し込む。
なんかブチッ! という音が聞こえた。
頸動脈でも切れたのだろうか。
短剣を勢いよく引き抜いてみると、その部分から大量の血が放出した。
うわぁ。
まるで滝やん。
元々体が赤い為、そこまで目立たないが……出ている量は半端じゃない。
地面の草や石が、赤い血によって絵の具で塗られたように染まっていく。
このオーク、全然やり返して来ねぇな。
全然勝負になってへんやん。
もっと楽しもうぜ。
それとも、もうおしまいかい?
刃物で怪我をさせられて、怖気づいたのかな?
でも容赦はせん。
相手に何があろうと、手を緩めるつもりはない。
俺は更にオークの体全身を止まることなく短剣で刺し続ける。
オークもやられまいと必死に抵抗し、拳で殴って来るが、無視。
別に死に繋がるような攻撃じゃないしな。
少しして。
赤いオークが地面に横たわり、動かなくなった。
ふぅ、一丁上がり。
読んでくださりありがとうございます。




