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第九十話【Sランク冒険者】

 冒険者たちは、それぞれが足りない部分を補っているように見える。

 すごい……俺には到底真似出来ない。

 

 このまま行けば余裕で勝てるだろうな。

 つまり俺の出番がなくなる。

 誰一人として死人が出ずに解決するのはいいことだ。

 だけど俺は楽しくない。

 

 そんな考えがよぎったが、それは間違いだとすぐに気付いた。

 

 確かにスライムやゴブリンは順調にダメージが蓄積されて、苦しそうにしている。

 けど、オークとコモルドラゴンは別だ。

 明らかに何ともなさそうな表情。

 まるで赤子を相手にしているかのような余裕を感じる。

 

 そこでコモルドラゴンは、地面を這いながらも火を吐いた。

 そのオレンジ色の火は、遠くへ飛ぶほど広範囲に広がって行き、やがて冒険者三人を巻き込んだ。

 

「うわっ!?」

「熱っ。……くそ!!」

「こいつら……強すぎだろ」


 冒険者たちは攻撃を受けるや否や、早速弱音を吐いた。

 撃たれ弱すぎだろ。

 普段からもっとダメージに慣れておきなさい、としか言いようがない。

 

 俺は草と岩の隙間からじっとその戦いを見つめる。

 

 あー、俺も戦いてぇ。

 体が疼くぜ。

 こんなの見せられて、黙っているなんて無理だろ。

 まあ、我慢するけどな。


 一応後先のことは考えている。

 ここで飛び出したら、後々面倒くさいことになるのは考えなくても分かる。

 だから、この冒険者たちがいなくなるまで我慢。

 うん、まじで早く帰ってくれんかね?

 

 ……て、おい。

 あの人やられそうじゃね?

 

「ブフォォォ」

「───!? うっ!!」


 オークによる背後からのパンチをくらってしまった男性は、勢いよく吹き飛び、周りにあった木に正面からぶつかった。

 

 あーあ。

 前ばかりに気を取られるから、後ろがおざなりになるんだよ。

 もっと気を付けなきゃ。

 っていう俺自身も、余裕をぶっこいているせいでよく背後のことを忘れているけどな。

 

 まあ何にせよ、あの男性はもう立てないだろう。

 赤いオークの攻撃を受けたことがある為、何となく分かる。

 いくら金属製の鎧で身を固めたところで、普通の冒険者程度があの重さに耐えられる訳がない。

 その証拠に、背中を殴られて今現在地面に倒れている男性は、一向に起き上がらない。

 

 魔物の攻撃はそれだけでは終わらない。

 コモルドラゴンは自身の体を回して尻尾を動かすと、周りにいた二人の冒険者を薙ぎ払った。

 それにより冒険者二名は転び、足を抑えて痛がっている。

 

「おい! オークとコモルドラゴンからは逃げろ! 距離を一定に保て」


 どうやら相手の戦闘力に気付いたらしく、冒険者の一人が大声でそう叫んだ。

 それを合図とし、数名が急いで後ろへと下がる。

 

 その間にも、他の冒険者たちによりゴブリンとスライムには攻撃が続いている。


 特にスライムに関しては、青い閃光のレイナって呼ばれていた青髪の美しい女性が一人で相手をしている。

 てか丁度終わったな。

 スライムはレイナさんのとある斬撃を受けたところで急に動かなくなり、そっと目を閉じた。

 

 すごい。

 相手がスライムとは言えど、こうもあっさりと赤い魔物を討伐するとは。

 

 青髪のレイナさん……裏闘技場に来れば第10位くらいにはなれるんじゃねぇの?

 いや、確実になれる。

 この俺でもほとんど動きが見えなかった。

 

 ところで……他の冒険者たちは弱いな。

 数人でゴブリンを囲んでいるのにも関わらず、全然殺せてない。

 それ……俺が七歳の時に一人で勝った相手なのに……。

 もっと頑張れよ。


 ほんで大剣を持ったあのおっさんは全然動いてないし。

 数少ないSランク冒険者なんだから、もう少し働けよ。

 

 レイナさんはスライムが絶命したのが分かった瞬間、他の冒険者の援護に回る為か、急いで走り出しゴブリンの首めがけて剣を振った。

 その剣は周りにいた冒険者たちを上手く避け、綺麗にゴブリンの首へ刺さった。

 一刀両断……とはいかないものの、丁度中心辺りで止まっている。

 ゴブリンも終わりか。

 早いな。

 

 と、そこでスライムが視界に入って来たのだが、やはり死体から黒色の煙が放出され始めた。

 そして元の青色へと戻って行く。

 うむ。

 

「え……どうして……こいつ元の色に戻ったぞ?」


 男性冒険者の一人が、スライムの様子に気付いたらしく、そんな声を上げた。


「本当だ。黒色の煙が出ている…………こりゃー、どういうことだ?」

「知らねぇ。そんなことより戦闘に集中しろ。このことはあとでギルドに報告すればいい」

「ああ」


 冒険者たちは絶命した魔物二匹から視線を外し、残りの二匹を見る。

 コモルドラゴン。

 オーク。

 どちらも無傷に等しい。

 

 レイナさんは剣の血を払うように一度下に向けて振り下ろし、その刹那、地面を踏んで走り出した。

 

「早っ!?」

「やっぱり青い閃光さんはすげぇな」


 もしかしたら、あの速度で刃を当てたら、斬ることが出来るかもしれないと思った。

 だけど、

 

「───えっ!?」


 響いたのは魔物の痛みによる叫びではなく、レイナさんの疑問。

 遠くの為詳しくは分からないけど……多分刃がオークの筋肉で止まっている。

 少しはめり込んでいるのかもしれん。

 でも、オークの表情は変わらない。

 やはり彼女はスピード型だ。

 威力が無さすぎる。

 それじゃあ人間には勝てても、防御力の優れている生物には太刀打ち出来んだろうな。

 

「まじかよ」

「Sランク冒険者の攻撃をくらってびくともしていないだと!?」


 彼女の後ろにいる冒険者たちが驚きの声を上げる。

 やはりレイナさんはSランクか。

 と、そこで、

 

「おい、負傷者も出ているし一旦引くぞ。俺があいつらの気を引いておくからその間に怪我人を運んでくれ」


 大剣を肩に乗せている体格の良い男性は大声でそう言うと、青い閃光ことレイナさんの前に出た。

 

「私も一緒に戦う」

 

 体格の良い男性に対し、レイナさんはそう呟いた。


「おう、レイナ? って言ったか? 助かるぜ。…………よし、お前ら早くしろ。でないと命の保証はせんぞ?」

「カールさん……分かりました。よろしくお願いします」

「すみません。お願いします」

「カールさんが引き止めてくれるなら安心だ。俺はあの人が負けたのを見たことがねぇ」


 大剣を持っているカールさん? の言葉に、他の皆はそれぞれ反応した。

 へぇ、あのアラストル街の冒険者ギルドで活動しているSランクのおっさん……カールって言うんだ。初めて知ったわ。

 なんか歯に引っ付きそうな名前だけど、明らかにオーラが違う。

 青い閃光のレイナさんとは真反対で、まるで重戦車のようだ。

読んでくださりありがとうございます。


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