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第八十六話【北大陸・シーロス街】

「さてと、じゃあ宿屋を探すか……」

 

 俺は一人でそう呟き、この海岸をあとにした。

 


 少しして……。

 


 見つけた。

 ドアの上付近に【宿屋】と書かれている四角い建物。

 コンクリートで出来ていて、他の建物と比べてかなり大きい。

 見た感じ二階建てだろう。

 窓からは光が見えるため、営業しているっぽい。

 

 俺はドアを開けて、早速中へと入る。

 すると、

 

「おう、いらっしゃい!」


 という男性の声が聞こえて来た。

 

 向いてみると受付には、頭にバンダナを巻いていて、口髭がやたら長いおじさんがいる。

 年齢は四十代くらいと見た。

 

 俺は早速その受付の目の前に移動し、

 

「こんばんは。部屋を一つ借りたいんですけど、空いていますか?」

「わりぃな。今日は旅人さんたちが一人部屋を全部埋めてるんだ。二人部屋であれば空いてるぜ?」

「あ、じゃあ二人部屋で」


 特にお金をケチるつもりはない。

 なんせ冒険者ギルドでいつでも稼げるからな。

 それに、手元にもかなりの金額がある。

 暇潰しで毎週クエストばかり受けていたら、気付くと管理出来ないレベルまで貯まっていた。

 

 実は少し前から、ギルドマスターにそろそろBランク冒険者になってみないか? と誘われているのだが、答えは言わずもがな「NO」だ。

 今のところ上がる気はない。

 現状に満足しているのでな。

 

 そんなこともありプチセレブの俺は、宿屋の店員に二人部屋分の値段を払い、代わりに部屋の鍵をもらった。

 さてと、これであとは部屋に行って寝れば、簡単に一日を終えることが出来る。

 けど、それだと冒険をしている気分にならないだろ?

 

 だから、ちょっとこの店員に尋ねてみよう。

 もしかしたらこの町の異様な静けさの理由を知っているかもしれん。

 

 仮に悪の組織がいるのなら、この俺様が助けてしんぜよ。


 仮に町民全員に無理矢理飲まされた眠り薬の効果を解除する為、近くの洞窟に生えているという薬草を取って来てくれませんか? と頼まれたら、ちゃんと行ってあげよう。

 

 それが俺の思い描く理想の冒険だ。

 

 ということで俺は鍵についているわっかに指を通し、くるくると回しながら口を開く。

 

「あの、ちょっと伺ってもいいですか?」

「おう、どうした?」


 心なしか、店員さんの表情が少し悲しそうに見える。

 まさか娘が連れ去られたとか?

 正直に言ってみなさい。

 

「なんでこの町ってこんなに静かなんですか? 寝るにしてはまだ早いですよね?」


 本題を斬り出してみると、男性は少し微笑んだ。

 

「初めて来る旅人はみんなそれで驚くんだよ。でも、安心しろ。ここの習慣みたいなもんだ」


 ん?

 

「習慣?」

「ああ、村長が決めたルール……早寝早起き。俺は宿屋を経営しているからしょうがないんだが、ほとんどみんなが健康な生活を送る為にそうしてるんだぜ? すごいだろ?」


 ……。

 

「そうだったんですか」


 俺はそう返事をし、回していた鍵を止めた。

 そして真顔で部屋へと向かった。

 中に入り、床に荷物を置いた。

 ベッドに入った。

 

 

 ……おぉい!

 

 どういうことだね?

 全然イベントが起こらないじゃん。

 早寝早起きだと!?

 平和そのものじゃねぇか!

 旅人である俺がさっそうと現れて問題を解決し、名も名乗らずに立ち去る。……これをやりたかったんだよ!

 全くやらせる気ねぇだろ。

 

 冒険の楽しみが何一つとしてありゃーしない。

 イベント無し。

 仲間無し。故に会話も、恋も無し。

 

 ……。

 

 俺は寝た。

 布団を肩までかけて、姿勢正しく眠りについてやったぜ。

 

 

 

 

 北大陸、シールス街。

 

 ここは俺が生活をしているアラストル街には劣るものの、十分大きい。

 大きな正門を通ると大通りが広がっていて、左右には綺麗な建物が軒を連ねて立っている。

 見渡す限り人間や獣人族、兎人族などが、それぞれ歩いたり会話をしたりしている。

 また、大通りの遠く向こうにうっすらとお城が見えている。

 

 アラストル街は、正直どこにお城があるのか分からないが、この街は分かりやすい。

 だってこの大通りを歩くだけで、辿り着けそうなんだもん。かなり遠そうだが。

 

 いやー、にしても長い道のりだったぜ。

 

 あのシーサイド町の宿屋で一夜をすごしたあと、何事もなく船に乗り、特に大きなタコなどに襲われることなく無事に北大陸の港町へ到着した。

 そしてその港町から、草原の上の道を北方向に歩くこと五日……このシールス街に着いた。

 案外長かったわ。

 途中で走ったりもしたのだけど、それでも丸五日かかっているのだ。

 すべて歩いていたらどうなっていたことか。

 

 で、道中で起こった出来事についてだが……。

 えーっと。

 

 初めて見る、緑色のスライムを倒した。

 

 初めて見る、岩みたいな蛇を倒した。

 

 道の上ですれ違ったおじさんと少しだけ会話をした。

 

 くらいかな?

 

 うん、全然イベントが起こらん。

 ここまで何もないのも、逆に珍しいかもしれん。

 まじで困っている人とかも一切見かけなかったし、強い魔物が現れてピンチになる訳でもなかったし、盗賊たちに襲われたりもしなかったし。

 

 俺は、この片道旅で気付いたことがある。

 現実でイベントは、起こる方が珍しい。

 そもそも困りごとは自分たちで解決しているっぽいしな。


 よく考えたら、見ず知らずの旅人にどうしても頼まないと滅んでしまうような村は、とっくのとうに滅亡しているだろう。

 でないと、今までどうやって生活して来たんだ? という疑問が浮かぶのは当然だ。


 本当に危ない状況なら、冒険者ギルドにでも行って助けを求めるというのが、この世界の常識である。

 現にこのシールス街も、危険な魔物が近くにいて危ないと思ったから、隣の大陸のアラストル街に助けを求めた訳だ。


 つまり結論を言うと、旅人が特別なイベントと出会う確率はめちゃくちゃ低いということだ。

 

 うん、おおかた合っていると思う。

 

 考え事をしつつも、俺は広い大通りを歩いて行く。

 

 にしても広いなぁ~。

 建物と建物の間に、幾つか大きめの通路がある為、左右どちらにも街は続いているのだろう。

 

 とりあえずこの大通りを歩いていたら方向に迷うことはないな。

 とにかく今は冒険者ギルドに行きたい。

 そしたら、ある程度は情報が手に入りそうだ。

読んでくださりありがとうございます。

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