第八十五話【シーサイド町】
俺は木にもたれ掛かり、そっと目を閉じる。
明日の朝は早いぞ。
てかこんな無防備な所で寝たら、普通に魔物に襲われそうだな。
別に襲われたからと言って、殺されないけど。
むしろ寝ている間にダメージを与えておいて欲しい。
なんかその方が得した気分になる。
にしても野宿か……。
うん、冒険っぽい。
けどさ、
「なんか違うわ!」
思わずそんな言葉が口に出た。
さっき気付いたことがある。
そう、これは俺の望んでいた冒険と微かに違うのだよ。
確かに、全く分からない場所を歩いて、たまに襲って来る魔物を倒して、外で食事をして、そこら辺にある木にもたれ掛かって寝る。
これが冒険だ。
だけどさ……仲間がいねぇ。
歩いていても横には誰もいないし。
食事をしていても、干し肉の美味しさを共有出来ない。
初めて行く土地に不安を覚えても、それを分かち合えない。
寝る前のお話タイム……そんなのある訳がない。
だって一人だもん。
目を閉じて少しの時間が空いたあと、「もう寝た?」「ううん。まだ」みたいな感じのやり取りをしたかったんだよ!
お陰で俺は今日ほとんど喋っていない。
そのせいで折角の冒険が盛り上がらないんだよ。
笑いもなければ感動もない。
……よし、ちょっと話しかけるだけ話しかけてみよう。
誰にかって?
勿論空想の人物。
俺は不意に目を開け、横を向いた。
そして、
「ねぇ、まだ起きてる?」
そう問いかけてみると、隣で寝転がっているヒロインからの返事はない。
もう寝てしまっているのだろうか。
それとも元々存在が無いからなのか。
……。
うん、存在が無いからだろうな。
……。
俺は眠りについた。
次の日。
朝早く目が覚めた俺は、昨日と同じように草原の上の道を歩き続けた。
途中走ったりもした。
まじで道中、特訓くらいしかすることがねぇ。
会話が無いのにどうやって楽しくしろと?
やがて辺りが暗くなって来た頃、なんか小さい町に到着した。
門の近くにある看板には、【シーサイド町】と表示されている。
水平線に海が見える。
なんかこの町……船がありそうな雰囲気だな。
てか海に面しているから絶対にあるだろう。
とりあえず宿屋に泊まって夜を明かそう。
なんか結構疲れているわ。
一日中動くのって意外と体力がいるんだな。
多分魔物に足を噛まれた状態で歩き続けたのが効いている。
一応まだ動けるけど、休んでおいた方がいい。
そう考え、俺は門の扉を押して開ける。
そして町の中に入った。
……。
ほう。
この町全部がコンクリートで出来ているのか?
今目に見える建物すべてが灰色で四角い。
床も灰色で硬い。
四角い建物と建物の間にはひもがあり、衣服などが干されている。
とても生活感が溢れているなぁ。
至る所に置かれている樽が、海辺の町だということを物語っている。
そういえば、地味に潮の匂いがするわ。
かもめとかの鳴き声が聞こえて来ないのは、きっと夜だからであろう。
今現在明かりは、一定距離ごとに置かれている街灯と月の光しかない為、少し暗い。
けど歩く分にはなんの問題もない。
てか、街灯があるってことはこの町には魔法を使える人がいるということか?
でないと街灯の魔法具に魔力をため込むことなんて出来ない。
因みに俺が済んでいた家の近くの村には街灯なんて一つもなかった。
理由は単純で、魔力持ちの人間が身近にいなかったから。
ゆえに夜は月明かりしかなかったのだ。
だからこの町はまだ明るい方。
俺は歩き出す。
にしても静かだな。
ここまで音が無いとなんか不安だわ。
建物の窓を見た感じ、ほとんどの建物の電気がついていない。
まあ早寝はいいことだけどさ。
あまりにも旅人をもてなすような雰囲気ではない。
なんか自分の足音にも罪悪感を感じる。
それほど周りが静かなのだ。
……あれ?
そういえばこれって冒険特有のイベントが起こりそうじゃない?
行く場所すべてに何かしらの問題があって、どこからともなく現れた旅人がそれを解決して町人たちから感謝を受けるという。
うん、このパターンで間違いない。
明らかにこの町は静かすぎる。
きっと悪い奴に脅されていて、物音を立てないよう気を付けているに違いない。
そんなことを考えつつも、建物の間などを移動して宿屋っぽい建物を探す。
しばらくして、なんか港に到着した。
とても大きな船が数本のひもで止められていて、その船の横には木の足場がある。
うわぁ~。
めっちゃ綺麗やん。
俺、この世界で海を見たの……初めてかもしれん。
海の中心辺りに、月明かりで照らされて出来た一本の道が見える。
なんか神々しい。
あの上なら歩けそうだ。
宿屋を探していたつもりだったんだけど、夜のうちにここへ来れて良かった。
だってこんな景色が見れたんだもん。
月明かり。
海に照らされ。
生きている。
波に揺れて動いている月の道を見て、そんな歌を作ってみた。
うむ、意外と才能があるかもしれん。
読んでくださりありがとうございます。




