第八十四話【冒険の始まり】
さてと……。
別の大陸へ行くとなると、これから忙しくなるな。
まず裏闘技場のおじいさんに会いに行かないと。
俺は王者だから、その辺はしっかりと管理しなきゃ。
一応三日間対戦の申請を受けなかったら、強制的に順位が下げられる。正確には30位付近に落とされるのだ。
つまり俺が一ヶ月程度どこかへ行くとなると、確実に1位ではなくなる。
第一位防衛戦で一ヶ月以上も間が空くことはそうそうないからな。
でも、俺は正直王者の座を捨ててでも行きたい。
ということで、しばらくの間裏闘技場の活動をしません、と伝えに行こう。
因みに去年現れたオーク以来、赤い魔物は全く姿を現さなかった。
となると、多分次の敵は俺でも勝つのが難しいだろうな。
何故かって?
それはこの一年間で、赤い魔物は更に強くなっている確率があるからだ。
つまり今回、赤いオークレベルの強さ以下の戦闘力である可能性は低い。
魔物を赤く変えている犯人がいると仮定して、そいつは魔物が倒されると腹が立つはずだ。
うん、俺ならわざわざ作ったものが誰かの手によって殺されたらイラつく。
つまり、もっと強い魔物を作る。
最初はゴブリン。
次はオーク。
となると……次は?
うん、もっとやばそうだ。
俺は強い奴と戦いたくてしょうがない。
この為なら裏闘技場1位の座なんて捨ててやるよ。
王者の称号くらいまた取り返せばいい。どうせすぐにのし上がれるし。
で、次に……色々と用意をしないとな。
食べ物。
食料。
food。
干し肉。
保存食。
水。
衣類。
地図。
その他。
大陸を移動する旅の為、おそらく普通以上に用意しておかないとダメだ。
まあ食料は最悪そこら辺の魔物を殺して調理すればいいけど。
水は飲めるやつがどこにあるか分からないから必需品だ。
よ~し。
ということで今日はクエストを止めて、旅の準備に取りかかろう。
明日から夏休みで本当に良かったぜ。
正直初めて夏休みがありがたいと思ったわ。
翌日。
いよいよ出発の日である。
今は朝方。
俺は寮の自室で、机を見つめる。
その机にはとても大きな革の鞄が置いてある。
これは少し前に街中で購入したものだ。
鞄というか……リュックサックに近いかな?
背中に背負って使用するものである。
いつか遠出をする時に、必要になるかなと思って買っておいたのだが、とうとう出番がやって来た。
この部屋の隅っこに放置していた為、少しほこりを被っていたが、まあ問題ない。
俺は巨大な鞄のひもを解き、もう一度中を確認していく。
食料類。
革製の水筒たち。
図書館にある世界地図を自分で書き写してみた紙。
ノート。
衣服類。
お金。
護身用の短剣。
暇潰し用の本数冊。
くらいでいいよな?
なんか忘れている感半端ない。
絶対あとで忘れものに気付くパターンだ。
かといって今考えてもどうせ分からないしな。
よし、行こう!
最悪お金があれば何とかなる。
ということで俺は自室を出てちゃんと鍵をかける。
目指すは北大陸のシールス国。
笑いあり涙ありで、大盛り上がりの冒険にしよう!
アラストル街の正門を出て数分の間は、特に何もなかった。
別に珍しい魔物が出る訳でもなく。
楽しい会話をする訳でもなく。
ただ単に、見慣れた草原にある道の上を歩くという。
毎日特訓を兼ねて色んな場所を走り回っていた為、アラストル街周辺の地形は大体把握してある。
でも、北方向の海まで到達したことはない。
つまりかなり遠いということだ。
その後、三時間近く歩き続けた。
太陽の位置が完全に正午辺りに来たところでお腹が空いた為、そこら辺に生えていた木の陰に座って食事を始めた。
うむ。
相変わらず干し肉と水は美味しいなぁ。
特にこの干し肉は、噛めば噛むほど旨味が湧き出て来るのである。
俺は極稀に通る馬車を見ながら食べ進める。
う~む。
確かに冒険って感じがする。
でも何か足りないような気が……。
いや、多分気のせいだろうな。
やがて食事も終え、俺は立ち上がって再び歩き出した。
それからどのくらいの距離を移動したのだろうか。
気付くと辺りにはもうすっかり夜のとばりが落ちていた。
ずっと外にいたら、案外日が暮れるのって気付かないもんなんだよな。
目がだんだんと慣れて行くからだろう。
さてと、暗闇の中を歩くのはあまりよくないだろうし、そろそろ寝るか。
正直もうここがどこか分からん。
半日程度かけて見覚えのない場所まで来てしまった。
楽しい。
うん、素直に心が躍っている。
初めての土地で、若干迷っている感じがたまらん。
これぞ冒険?
と、まあいつもなら寝る前に自分を殴る所だけど……今日は軽めにしておくか。
これから長い旅になりそうだし、あまり体に疲労を覚えさせない方がいいと思う。
かといって全くダメージを与えないのは嫌だ。
不安すぎる。
ということで俺は自分を少しだけ殴り、やがてある程度疲労感が出てきたところで、食事を済ませた。
そして木にもたれ掛かり、目を閉じる。
読んでくださりありがとうございます。




