第八十三話【シールス国の使い】
突然現れた男性は、真っすぐ受付の女性へと向かって歩いて行く。
「おいおい、全身鎧って……絶対なか臭いだろ」
「だろうな! がはは」
「あんなガチガチに防御を固めた奴が、ここに何のようだ?」
「まさか俺たち冒険者に薬草を取って来てくれとか言うんじゃねぇだろうな?」
「がはは! 傑作だぜ。鎧を着用してんなら自分で行って来い! てな」
酒ばかり飲んでいるガラの悪い連中が相変わらずの馬鹿騒ぎ。
いやいや、もう自分たちで話を作っとるやん。
あんな人が薬草を取って来てくれませんか? とか絶対に言う訳ねぇだろ。
もしそんな姿を見たら、流石に笑うぞ。
じゃあ鎧を外して普通の格好をしろよ! って話になるからな。
冗談はその辺にして、あの人は見た感じ結構強者みたいだ。
裏闘技場とかで結構たくさんの強者と戦って来たから大体分かる。
あの人は明らかにオーラが違う。
ガラの悪い馬鹿どもとは、まるで比べ物にならん。
やがて男性は受付の目の前に到着すると、
「依頼を持って来たのだが、ちょっとここのギルドマスターを呼んでもらってもよろしいでしょうか?」
そんなことを言った。
ふむ。
ギルドマスターを呼ばないといけないくらい、大ごとなのだろうか。
軽い仕事であれば、受付の女性で済むはずだ。
「分かりました。少々お待ちください」
受付の女性は、一度お辞儀をして奥の部屋へと向かう。
……ちょっと興味が湧いたわ。
どんな依頼なのか聞いてみよう。
どうせ待たないとこのゴブリン退治の依頼も引き受けられないし。
そう考え、俺は掲示板の目の前に立ったまま待った。
奥の部屋からギルドマスターが出て来るのに、そこまでの時間はかからなかった。
「待たせたな。で、この俺に何か用か?」
顎髭を揺らして受付の机に向かいながら、そう呟いた。
「初めまして。私は北大陸のシールス国からの使いとして参りました。ザールと申します」
んんっ?
シールス国から来たのか?
地理の宿題で何度か書いたことがある為、知っている。
シールス国は先程男性が言った通り、俺たちが今いるアラストル街から北方向の大陸にある。
確かその北大陸のかなり南側にあったはず。
このアラストル国があるユーリス大陸と、シールス国がある北大陸の間には少しの距離だけど海がある為、この人はわざわざ船で渡って来たのだろう。
果たしてそこまで遠出をして頼みに来るような仕事なのだろうか。
「ほう。そりゃーご苦労さん」
「で、早速話を聞いてもらいたいのですが……正直今シールス国は軽く混乱状態にあります」
「どうしたんだ?」
「少し前に突然変な魔物が現れ出したのが原因です。そいつはとても強く、とてもシールス街の冒険者ギルドだけでは対処出来なかった為、ここまで救援を求めに来ました」
ふむふむ。
つまり一つの冒険者ギルドだけでは勝てないから、一緒に戦ってください、と。
そう言うことか。
「なるほどな。ということはそちらのAランク冒険者もやられたと?」
「まあ、そんな感じです。彼らは勝てないと判断したらしく逃げて来ました。彼らの話によるとその魔物たちは赤かったらしいのです。……そして瞬く間に噂は街中に広がって行きました。それでその噂が王様にも届き、私が使いとして王の命令によりここまで来たという訳なのですが───」
「───ん? 赤い……だと?」
ギルドマスターはやはりそこに反応した。
「そうなんですよ。逃げ帰って来た冒険者たちはみんな口を揃えて言っております」
「なるほどな。とすると、なるべくたくさんの実力者が必要だ……S級も数人はいた方がいい」
「S級……ですか?」
使いの男性は、不思議そうに尋ねた。
「実はこの街も去年赤い魔物に襲われているんだよ。それで数人のAランク冒険者たちに討伐へ行ってもらったところ、結果は惨敗」
「で、どうなったんですか?」
「俺にも分からん。ただその冒険者たちによると、一人の子供っぽい背丈の奴が、門の外におびき寄せて逃げて行ったらしい」
あ、それ……俺です。
絶対自己申告なんてしないけど。
「へぇ」
「まあ、とにかく今回もその謎の子がいるとは限らん。だから大勢の実力者をそちらに向かわせる。でないとまず勝ち目はないだろうからな」
それを聞いた男性は嬉しそうに、
「ありがとうございます。一応今その赤い魔物はとある場所を住処にしているようで、その場所を知っているのは数人の者だけです。なのでその実力者さんたちには、シールス街の冒険者ギルドへ来るように言っておいてください」
「分かった。……それで金の話なんだが……そちらの国から報酬金はたんまりと出る感じか?」
ギルドマスターさんや。
普通そんなこと聞くか?
いきなりすぎだろ。
なに金の話を始めとんねん。
若干失礼な質問に対し使いの男性は、
「勿論です」
の一言。
ふ~む、人間が出来ている。
こんな失礼なギルドマスターにも丁寧な対応をするとは。
「よ~し分かった。じゃあ一、二日ほど待ってもらえんか? 今うちのA、Sランク冒険者たちはおおよそがクエストに出ていてな。帰り次第話しておく」
「よろしくお願いします。では私はお先に北大陸へ戻ります」
「おう」
ギルドマスターがそう返したのと同時に、使いの男性は後ろを振り返りこのギルドをあとにした。
ふむ。
面白いことになって来た。
胸が躍るぜ。
「という訳だ。A、Sランク冒険者が戻り次第、俺を呼んでくれ」
「わ、分かりました」
ギルドマスターと受付の女性は一言だけそうやり取りをし、それぞれ自分の持ち場へと戻る。
いつの間にか外野の馬鹿騒ぎが収まっていた。
どうやら、ことの重大さに気付いたのだろう。
お前ら、いつもやん。
毎回やばい仕事だと判断したら目立たないように静かにする。
そんな負け犬みたいな人生で満足しているのかね?
男なら危ないことに手を突っ込んでなおさらだ。
それは置いといて、なんかゴブリン退治に行く気がなくなったわ。
元々そこまでやる気なんかないけどさ。
……うん。
ということで俺、ちょっくら北大陸へ行ってくるわ。
正直不安だ。
だって全く知らない場所に一人で行くんだから。
海だってどうやって渡るのか知らん。
無事に渡れたところで、シールス国のシールス街に辿り着けるのかどうかは分からん。
だけどそれって冒険って感じじゃん。
正直もうこの街は飽きた。
新しい道を切り開こう。
読んでくださりありがとうございます。




