第七十九話【レインVSサード・弐】
俺は走り出し、鉄の剣で相手の腹を思いっきり斬った。
途中正直不安になった。
もし本気でやって、相手の胴体が真っ二つになったらどうしようと。
けどそんな感情は一瞬で消えた。
刃が服で止まったのだ。
この手にビリビリ来る感覚は、明らかに肌じゃない。
「驚いたか?」
嬉しそうな表情をしている相手に対し俺は、
「いや、ここで何度も経験しているので」
服の下に金属を仕込んでやがる。
先程蹴った太ももとは、全然違う硬さだった。
ふっ。
硬い肉体の上に硬い金属か。
なら、硬い肉体だけの下半身を狙えばいい。
そのうち相手も音を上げるだろう。
そんなことを考えていると、
「石弾!」
は!?
相手が魔法を使ったことに驚きつつも、剣の腹ではじく。
あぶねぇ。
まさか遠距離攻撃の手段があったとは。
てっきり体術だけで来るのかと思ってたわ。
今どうして剣ではじけたのか、自分でも驚きだわ。
よく間に合ったな。
「おぉ、よく躱したねぇ」
「危なかったですよ。次からは近距離戦を希望します」
「了解……と、言いたいところだけど、これは勝負だ。どんな手を使ってでもお前を倒す」
余裕そうな表情で、相手はそう言った。
なるほどね。
勝ちの為なら手段を選ばない……か。
そういうタイプ、嫌いじゃないぜ。
こいつとなら楽しい戦いが出来そうだ。
思わずにやけてしまう顔を元に戻しつつも、
「おらぁぁ」
雄叫びと共に力いっぱい剣を振った。
「うおっ!!」
相手は驚きの声を上げて、バックステップ。あまりの速さにびっくりしたのだろう。
くそっ。
服にかすっただけか。
絶対命中したかと思ったんだけどな。
俺は更に追撃をかけ、一度相手の右太ももを軽く斬る。
やはり硬くて、あまり奥まで入らなかった。
相手の表情からしてそこまで痛くないらしい。
普通の人間なら、少し刃が食い込んだ時点で多少なり、痛そうにするのだが……こいつ、痛みに慣れやがる。まるで俺みたいじゃねぇか。
そんなことを考えつつも、体を横に高速回転させながら思いっきり剣を振った。
親父直伝、『回転斬』。
その名の通り、自分の体を回転させそのスピードで相手を斬る。
体の回転が速いほど、剣の刃にかかる重みも増え、ダメージが大きくなる。
結構強いのだが、どこに当たるか分からない。
下手したら外れる。
今回は、
ガァァァン!!
金属の鈍い音が響いた。
どうやら上半身の金属を仕込んでいる部分に当たったらしい。おそらく装備しているのは鉄のベストか鉄の胸当てだろう。
何にせよ、今のは感覚あった。
斬れてはいないけど、物理的なダメージを与えられたと思う。
「ぐっ……おもてぇ。お前、見た目の割に芯がしっかりとしてやがるな」
「そりゃー、どうも」
「あいつに似ている」
親父に似ている……か。
そりゃーそうだ。
息子だもん。
さて、次はどうしようかな。
生半可な攻撃じゃあ勝負がつかないのは分かりきっている。
つまり、強烈な一撃を何度も与えて行かないといけない。
だが、俺にそんな攻撃力があるとは思えん。
さっきの回転斬、かなり自信のあるやつだったんだけど……どうみても倒れてないよな?
うん、バリバリ元気やん。
となると関節を折るか、比較的防御力の弱い顔を狙うかだな。
そう考え動こうとした、その時。
踏み込んだ部分がぬかるみになっていて、滑った。
俺はバランスを崩し、地面に倒れ込んでしまう。
くそ、あいつ魔法で一部の砂を泥に変えおったな。
踏み込もうと思ったら、勢いよく滑っちまったぜ。
うん、結構恥ずかしい。
そして倒れたことにより、顔とか体に泥がついて気持ち悪いんだが。
何て日だ!!
「おいおい、恥ずかしい転び方をしたな?」
そんな言葉と共に、後頭部やら背中やらを何度も踏みつけられた。
それなりに痛い。
だが、タフなのはこちらも同じなんでね。
もっと強くしろよ。
……あー、にしても顔の泥が気持ち悪い。
めっちゃ口と鼻に入って来やがる。
食感はじゃりじゃり。
味は不味い。
俺は早めに逃げる為、泥に手をついて立ち上がろうとした。
すると、
「───氷」
絶妙なタイミングで手を凍らされた。
ものすごく冷たい。
一瞬冷たいのか熱いのかよく分からなかったけど、これは冷たいやつだ。
「うっ……」
指が動かない。
手からひじ辺りまで凍らして来やがった。
力ずくで割ってやろうと思ったが、無理っぽい。
硬すぎる。
こいつ、氷系の魔法まで使うのかよ。
とんだ天才じゃねぇか。
次に相手は魔法で大量の砂を出し、俺の体全身にかけて来たらしく、急に身動きが取れなくなった。
あれ? なんか肌触りが気持ちいいぞ?
これって本来海でやるやつじゃん。
なんか似とるでい?
顔だけ出ているのがまたそんな感じの雰囲気を引き立てている。
下を向いていて、泥しか視界に入って来ないのが残念……って、こいつ何する気だ?
顔まで全部砂で埋めてしまった方がいいと思うのだが……どうして首元までしか、かけなかったんだ?
「さぁて、これから俺お得意の遊びをしていくから、十分に堪能しろよ?」
ほう。
「何を……するんですか?」
泥の入った口を動かしてそう聞いてみると、
「まあ、見てろって───」
相手は魔法の詠唱を始めた。
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