第八十話【レインVSサード・参】
「まあ、見てろって───」
相手はそう言って魔法の詠唱を始めた。
見てろって…………泥以外見えねぇよ?
てか、まじで何をして来るのだろう。
危ない状況なのは分かっている。
けど、楽しみでしょうがない。
俺は防衛戦とかでも、わざと相手の得意技とやらをくらうのが好きで、毎回それを耐え忍んで来たぜ。
今回は王者とあって、いつも以上のダメージをくれることだろう。
うん、期待してもいいんだよな?
それから最初の攻撃が始まったのは、ほんの数秒後のことだった。
まず最初に、俺の顔面へ大量の水をかけて来た。いや、かけ続けられている。
冷たい水が頭全体を覆う。
鼻や口、また目からも水が浸入して来やがる。
苦しい。
……。
さて、どうせすぐに収まるかと思ったんだけど。
これは不味いパターンだな。
こいつ、絶対止める気ねぇ。
いずれ酸欠になって気を失う。そんな考えが頭をよぎった。
まだ大丈夫だけど、このまま行くと確実に酸素が足りなくなる。
そうなると……無敗の俺が戦闘不能によって負ける?
それはダメだ。
まさか物理的な攻撃じゃなくて、こんな手で来るとは。
……わざと得意技をくらっている場合じゃない。
本気で対処することを考えないと。
くそっ、でも大量の砂のせいで体が動かねぇ。
水を避けようにも、ほとんど首が動かないし。
───本気でやばい。
物理攻撃ならいくらでも我慢出来るのに。
こんなのありかよ。
……いや、ここは何でもありの裏闘技場。
ずるい。卑怯。狡猾。いくら唱えてみても、負け犬の遠吠えでしかない。
そんな状況下で勝ち残ってこそ、本物の強者なんだ。
こいつは、俺が余裕をぶっこいていたのをいいことに、勝つ為の手段としてこれを選んだのだろう。
俺なんかよりも格段に戦いがうめぇ。
対して俺は、わざとダメージをくらおう、としか考えていなかった。
こうなる前にいくらでも対処出来たはずなのに。
くそっ。
なんか苦しくなって来た。
俺は酸欠を感じ、とりあえず空気を吐き出した。
口から出した二酸化炭素は、俺の顔を覆っている水の中で空気の塊となり上へと昇って行く。
俺もそれと同じようにここから抜け出したい。
無理だけど。
てか二酸化炭素を放出したことによって一瞬楽になったのはいいけど……それも一時的なものなんだよな。
もう死ぬかもしれん。
……ダメかも。
「───!? ゴボッ」
不意に口を開けてしまい、水が大量に入って来た。
無造作にその水が胃へ侵入して来る。
と、その時。
何かを超えたような気がした。
体全身……いや、細胞のすべてが痒くなった。
掻きむしりたくなるほどの痒さ。
今までここまで息を止めたことがないから知らなかったけど、人間ってこんなことになるんだ。
俺は最後の力を振り絞って、体全身を動かした。
いや、ほぼ痙攣に等しかったかもしれない。
自分でも驚くほどの動かし方だった。
結果。
下半身辺りの砂が跳ね上がり、足だけが自由になった。
……うっ、意識が……段々と遠のいていく。
今度は体の内部が痒い。
思わず鼻で空気を吸おうとして、水が大量に入って来た。
ツーンとした痛みを微かに感じた。
俺は遠のいていく意識を何とか保とうとしつつも、下半身を必死に動かす。
砂が少しずつ減っていくのが分かる。
少しでも楽になりたいと体が勝手に判断し、息を吐き出そうとするが、もう体の中に空気なんて残っている訳がない。
反対に水が喉に侵入し、せき込んだ。
それも、全く空気のないせき込みだ。
生まれてここまでの地獄を経験したのは、初めてではなかろうか。
目から血が出ているような感覚がする。
……ゆ、許して。
ごめんなさい。
て、俺……悪いことしてないのか。
とそこで、砂が減ったことによって腕が多少なりと動くようになった。
俺は考える前に腕を思いっきり振る。
死ぬなら早く死にたい。
こんな地獄をずっと味わいたくはない。
死神よ……早く迎えに来てくれ。
あまりの辛さに、そんな考えばかりが脳裏をよぎる。
「……ゴボッ」
声にならない音を発しつつも、もがいてなんとか脱出可能な状況になって来た。
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