第七十八話【レインVSサード・壱】
数ヶ月の時が流れた。
あれ以来俺は、リランディさんともティナさんとも一切会話をしていない。
向こうもこちらを避けているらしく、一瞬目があったらすぐにそっぽを向くのだ。
別にいいけどさ。
てか全然会話をする人がいない為、生前のぼっち生活よりも状況が悪化しているような気がする。
あと、ティナさんはどうやら一部の女子たちから陰湿ないじめを受けているっぽい。
別に気になったとかではないけど、たまに視界に入って来る。
主犯は恐らくリランディさん。
教科書を隠したり、陰口や直接悪口を言ったりと。
暴力には発展していない様子。
おおかたビンタをされた仕返しのつもりなのだろう。
まあ、俺には関係ないけど。
そんなことを考えつつも、俺は砂の上へと足を踏み入れた。
よし、このことは考えないようにしよう。
邪念を持っていたら、どうなるか分からん。
集中。
ん?
今どういう状況かって?
とうとう、裏闘技場第1位選手こと王者に戦いを挑んでいるのだ。
俺は目の前にいる男性から距離を取り、鉄の剣を軽く構えた。
見た感じ相手の年齢は、四十代から五十代の間。
白い服から出て来ている腕や下半身の傷跡からして、かなりの修羅場を乗り越えて来たのが分かる。
背はあまり高くない。まるで子供のようだ。まあ俺の方が低いけど。
そんな身長とは明らかに比例していない首の太さ。
大量に生えている口髭が、子供ではないことを物語っている。
さて、何年間も王者の座を独占しているこの方は、一体どんな戦いを見せてくれるのかな?
楽しませてくれよ?
俺が第2位となって以降全く対戦を挑まなかった為、相手は完全状態だと思う。
日常生活でよっぽど怪我をしていない限りはな。
そして俺も最近は防衛戦の申込みが来なかったので、ほぼ完全状態と言ってもいい。
つまり、言い訳なしの真剣勝負が出来るのだ。
「それではこれより王者サードと第2位選手レインの試合を開始します。相手が戦闘不能、もしくはギブアップした時点で終了です」
いつもの審判の声が聞こえて来た。
最初に突っ込んで行ったら、流石に危ないかな?
うん、一旦様子を見よう。
もしかしたら、速攻魔法を使ってくるかもしれん。
見た感じ装備品は何も持っていないようだけど、あの白服の下に何を隠し持っているか分からん。
何にせよ、油断は禁物。
右手で、持っている剣の取っ手を強く握る。
「両者見合って…………始め!!」
その言葉と同時に……どちらも動かない。
相手のサードさんは拳を構えた状態で、じっとこちらを見つめている。
まるで獲物を狙う前の獣のよう。
ここからでも伝わって来る。ものすごい集中力だ。
王者の座は伊達じゃないってか。
そんなことを考えていると、
「お前…………元王者と同じ匂いがする」
突然相手が首を傾げながら、そう呟いた。
ん?
「元王者?」
一応聞き返してみると、
「当時あいつは年齢の割に体格が大きかった」
体格が大きい…………お~ん?
なんか心当たりがあるわ。
「へぇ」
「昔俺は、あいつから王者の座を奪う為に戦いを挑んだ。けど、結果はあえなく惨敗。レベルが違いすぎた」
そうなんだ。
「因みにその元王者さんの名前とか覚えてます?」
「ああ、よく覚えている…………ギルツ」
「……」
ほう。
やっぱりかね。
ギルツ=フォレスト。
親父……元王者だったのかよ。
でもあの森のきんにくまさんなら可能だろう。
「あいつはな……十何年か前くらいに、突然王者の座を捨ててどこかへ行きやがった。そのせいで、再び勝ち上がって第2位に戻っていた俺の順位が強制的に繰り上げられて、王者となれた訳だが……俺は納得しちゃいねぇ」
うん。親父は俺のお母さんと出会い、しつこく勧誘して来る国の連中から逃げてのんびりと暮らす為にここを去ったんだ。
「そうなんですか」
一応知らないふりをしておこう。
なんか教えたら面倒くさそうだ。
「ああ。で、お前は若干だがそいつの面影がある」
「……」
知らない知らない、俺はなんも知らない。
「すまん、話が長くなったな」
「いえ」
「じゃあ───行くぞ!」
その言葉と同時に、相手が踏み込んだ。
!? やばい。
この人……速い!?
くそ、直前まで会話をしていたから反応が遅れた。
俺は剣を持っていない方の左手で、相手の体重が乗ったパンチを受ける。
重い。
とっさに鉄の剣を動かせなかった。
気付いたら相手が目の前にいたのだ。
やはり1位は普通じゃないな。
「ふむ。レインと言ったか……。いい反応速度だ」
相手は後ろへ下がりながらもそう言ってくれた。
「まだまだですよ」
実際こんな不意打ちを躱せないようじゃ、修行が足りん。
もっと頑張らないとな。
そう反省しつつも、相手の足に向けて回し蹴りを放つ。
当たった。
うん、めっちゃいい感じに相手の太ももにクリーンヒットした。
だけど、なんだこの岩を蹴ったような感覚は?
ものすごく硬いやん。
靴越しにも痛みを感じたわ。
「どうだ? 悔しさをばねに鍛えすぎた俺の肉体は? 俺はな、若い時よりも格段に強くなってんだよ。今ならギルツさんにも勝てそうだぜ」
いや、無理だろうな。
いくら硬くても、俺の親父には勝てない。
なぜなら、親父はあなたよりも格段に成長しているからですよ。
息子の俺ですら、天井を知らない。
だが、この人の防御力は厄介だ。
俺が本気で体に力を入れても、このくらいかそれ以上の硬さがあるだろう。
けど、相手がそのレベルで硬かったら面倒くさい。
俺は比較的、攻撃が苦手なんだよ。
この切れ味が微妙な剣で皮膚が斬れるかな?
まあ、本気でやったら一応通る可能性はある。
やってみよう。
読んでくださりありがとうございます。




