第七十六話【意味不明】
角から一つの人影が現れた。
───誰だ!?
て、あれ? もじゃもじゃな茶髪。
ティナさんじゃん!?
目元は髪で見えないけど、口の形からして穏やかではない様子だ。
ティナさんはこちらに向かって歩いて来る。
どうしたのだろう。
何か怒ってる?
パチィィィン!!
突然、甲高い音が響いた。
ずっと見ていたのに、状況があまり理解出来ない。
えーっと、ティナさんが真っすぐリランディさんの目の前まで移動して、いきなりリランディさんの頬をビンタした。
……え?
なんで?
「ちょっと、あんた何するのよ!!」
リランディさんが頬に手を当て、そう言った。
角度的に顔は見えないが、声で大体機嫌の悪さが分かる。
そんなリランディさんに対してティナさんは、
「…………最悪」
の一言だけを言い残し、どこかへ走り去って行った。
……まさか、俺たちの会話を聞いていたのか?
いや、確実に聞いていただろうな。
「チッ、何なのよ、あの貧乏娘!」
リランディさんは舌打ちをしてそう言いつつも、こちらを振り向かずに歩いて行く。
……やばい、まだ全然頭の中が整理出来てない。
ティナさんがリランディさんにビンタをした理由は?
個人的に恨みがあって、たまたまここで爆発させた?
否、違う。
さっきの会話を聞いていたとして、最悪、という言葉が出たのだから、リランディさんの俺に対する物言いが原因だろう。
つまり俺が悪く言われていたから、リランディさんを殴ったと?
そうするとやっぱりティナさんは俺のことが好き、という結論に至ってしまうのだが。
何にせよ、分析をしている場合じゃないな。
ちょっと確認しに行こう。
実際に本人に聞いてみないと分からない。
ということで体育館裏をあとにし、ティナさんがいそうな所を探していく。
教室。
図書室。
女子寮……は、入ったらまずそうだから止めておく。
食堂。
結局ティナさんが見つかったのは、夕暮れだった。
かなりの距離を歩き回り、時間もたくさん使った為、諦めようかと思いつつも階段を上って校舎の屋上に行ってみたところ、なんといたのだ。完全に偶然である。
ティナさんが屋上にいるイメージなんて全くなかったしな。
てかこんな場所にいたのなら、いくら学園内を探し回っても見つからない訳だ。
ティナさんは、柵越しに遠くを見つめている。
若干ある後ろ髪を、風になびかせている。
あれからずっとここにいたのかな?
……やばい、なんか話しかけづらいな。
声を掛けられる雰囲気じゃない。
いや、どうせ悩んでもいずれこちらから話しかけることになるだろうし、早めにしよう。
人間悩めば悩むほど苦しくなって来るものだ。
「……あの、ティナさん?」
こうやって俺から名前を呼ぶのは、久しぶりのような気がする。
よく考えたら、リランディさんと絡むようになってから、避けようとばかり考えていたんだよな。
俺の問いかけに、反応するティナさん。
こちらを向き、あっ! と口を開く。
「ど、どうしてここに?」
「ちょっとティナさんの様子が気になってさ」
「……そっか」
ティナさんは小さくそう呟いて俺から目を逸らすと、再び柵方向を見つめる。
俺は、ゆっくりとティナさんの横に移動して両腕を柵に乗せた。
何となく少し距離を取った。
……ここ、半分だけ夕日が見えるな。学園内を囲んでいるあの壁が無ければもっと綺麗に見えるのに。
いい感じに風が当たる。
気持ちがいい。
…………とりあえず気になることから聞いてみるか。
答えてくれるかどうかは分からないけど。
「そういえば、さっき体育館裏での俺たちの会話……聞いてた?」
すると少しの時間が空いた後、
「…………うん。放課後ちょっとレインくんに少し話があって後ろをついて行ったら、あの場面に遭遇しちゃった」
なるほどね。
「あ、そうだったんだ……で、その話って?」
横を向いてみると、彼女の悲しそうな横顔。
どうしてそんな表情をしているんだ?
もし仮に俺のことが好きなのなら、俺がリランディさんと別れたという事実は嬉しいはず。
でもこんなに悲しそうだ。
つまり俺に好意なんて寄せていなかったのか?
それとも人をビンタしてしまったことが衝撃だったのか。
いや、まじで分からん。
敏感系男子なのに全然気持ちが読めない。
「……これからはもう近付かないし関わらないから安心してって、言おうとしてた」
小さくて、か弱いそんな言葉。
それは俺の胸に深く刺さった。
「えっ、なんで?」
俺がそう問いかけたのと同時に、ティナさんは口を開く。
読んでくださりありがとうございます。




