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第七十四話【裏切り】

 俺は他の大勢を無視してそいつに視線を合わせると手を挙げ、


「よう、チンラさん!」

「は? ……あれ? れ、レインさんじゃねぇか。こら」


 そんなチンラさんの大きめの声に、他のみんなはあまり顔を崩さないものの普通に驚いている様子。

 ほぼ全員の視線が、チンラさんと俺の二人に集まる。

 

 横目で確認した感じリディさんは、えっ、知り合い? とでも言いたげだ。

 

「おいお前。あのガキと知り合いなのか?」


 一番中央にいるサングラスをかけた細身の若い男が、チンピラのチンラさんにそう尋ねた。

 それに対し、チンラさんは頭を下げつつも答える。

 

「あ、はい。そうです! こら」


 語尾のこら、は相変わらずだな。

 まさかの目上らしき人にも使うのかよ。

 最早癖どころのレベルじゃないな。

 うん、病気だろ。

 

「チンラさん、どうしてここに?」


 俺がにやけながらそう質問してみると、

 

「兄貴、言ってもいいっすか? こら」


 チンラさんはサングラスの男の機嫌を窺うように言った。

 なんか腰が低いな。

 

「いや、いい。俺が説明する」

「はい! こら」


 どうやらサングラスさんが説明してくれるらしい。

 ということで俺は何もせずに話を聞くことにする。


 サングラスの若い男は口元をにやけさせつつも、少しだけこちらとの距離を詰め、話し始める。

 

「ちょっと俺のリランディちゃんに彼氏がいるとかっていう噂を聞いてね。今日は確かめる為に来たんだよ。因みに周りのこいつらは全員俺の護衛さ」


 俺のリランディちゃん?

 何だこいつ?

 

「どういうことですか?」


 あまり納得出来なかった為、そう聞いてみると、


「つまり簡単にいうと、リランディちゃんの婚約者がリランディちゃんの彼氏を痛めつけに来たって訳。お分かり?」


 婚約者?

 

「いや、なんで俺が殺されないといけないんだよ?」


 話が唐突すぎる。

 展開がよく掴めんわ。

 

「物分かりの悪いガキだなぁ……。だから、昨日リランディちゃんと一緒に指輪を選びに行こうとしたら、リランディちゃんは突然、彼氏がいるから私と別れて欲しいとか言い出してさ、俺が軽くしつけをしてあげたんだよ。可愛らしい体に傷がつかないようにしばらく遊んでたら、リランディちゃんの心は折れちゃったらしくてねぇ。それで昨日彼女はなんて言ったと思う?」


 は?

 舐めてんのか?

 俺の彼女を遊んだ? しつけた?

 

「知る訳ないだろ」

「じゃあ教えてあげる。それともリランディちゃん本人が言う?」


 突然の問いかけに、俺の横にいるリディさんは一瞬体をビクッと震わせつつも口を開き、


「い、言わない」

「ほう、そうか。という訳で俺が教えるけど、リランディちゃんはね、明日‥‥‥私の彼氏だったら何をしてもいいからもう止めて! と言ったんだ。自分の一時的な安全の為に男を売るとは最高の女じゃないか。ますます欲しくなったよ」


 ほう。


「なるほどね。じゃあ今日あんたらは、その人数で俺一人をボコボコにするのか?」

「その通り。まあ、君が勝っても負けても俺はリランディちゃんと結婚するんだけどね?」

「は?」

「だからさっきも言ったでしょ? 俺とリランディちゃんは婚約しているって。まあ親同士が勝手に決めたんだけど俺は全く不満なんてない。だってこんなにも可愛い子と一生を過ごせるんだから」


 若い男が気持ちの悪い笑みを浮かべてそう言うと、リディさんは首を振り、

 

「私は嫌よ! 人を奴隷扱いするような男と結婚なんて‥‥‥」

「でもこれは確定事項だからさ。それに君が親たちに何を言おうと信じてはもらえないだろうね。なにせ俺の方が信頼が厚いんだから。……つまりこれからも調教し放題‥‥‥ふふ」


 えーっと、話の展開が早すぎていまいちよく分からんけど、とりあえず要約してみると。


 この若いサングラスの男とリディさんは、親同士の都合により婚約している。

 若い男はリディさんを好きでたまらないが、リディさんは嫌い。

 若い男は、体に傷がつかない程度にリディさんをいじめている。

 リディさんが若い男から陰湿なことをされていると親に伝えても、若い男の信頼はかなり厚いが為に信じてもらえない。


 で、昨日そのしつけに耐えられなくなり、俺を売った?

 

 まあ、一旦確かめてみるか。

 俺は若い男から目を逸らし、横を向く。

 

「なあリディさん? 俺を売ったっていう話は本当なの?」


 あくまで優しく言った。

 でもリディさんは、猛獣を目の前にしたかのような怯えた目で見て来る。

 

「ごめんね? でも耐えられなくて。‥‥‥レインくんは強いからいいでしょ?」


 …………は?

 何それ?

 いいでしょってどういうこと?

 

「いや、普通に考えてよくないだろ」

「……いいの」

「ん?」

「だから、いいの! 早く私を守ってよ!」


 はい?

 

 まじで何言ってんの?

 よく意味が分からんわ。

 

 必死そうに声を上げるリディさんをじっと見つめつつも、俺は口を開く。

 

「なんで?」

「だって、その為に付き合ったのに……私の努力を無駄にしないでよ!」


 ……。

 ふむふむ。

 なるほどね。

 今ので理解したわ。

 

 リディさんは始めから俺のことが好きではなかったんだ。

 そう。すべてこの婚約者から解放される為の作戦。

 その為にわざわざ好きでもない俺に告白して来たってか?

 おおかたこの前の武闘大会で、俺の強さに気付いたのだろう。

 そして去年から結構会話をしたりしているから、近付きやすいと思ったんだろ?

 

 ……。

 つまりさ、

 

「リディさんは俺のことを何とも思ってないの?」

「そ……そうよ。だから何? もうこんな状態になった以上、あいつを倒すしかないわよ?」


 ほう。

 俺がここから逃げる為には、強制的にあいつらと戦うことになる。

 勿論戦うのは俺だけ。


 かなり強い俺の手によって、嫌いな婚約者は死亡。

 彼女は無傷で助かる。

 その後、無理して付き合っていた俺と別れる。

 

 つまり全部彼女の計算通りだったんだ。

 

「……」

「あ、そうだ。もしあいつを殺してくれたら、レインくんと付き合ってあげる! いい提案でしょ?」


 ‥‥‥。

読んでくださりありがとうございます。

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