第五十九話【武闘大会二回戦・弐】
『五年生ルリはものすごい魔法を発動しました。あれをまともにくらって立っていられるのは、我々教師の中でも少ないでしょう』
いや、まともにくらって立てる奴がいないような魔法を使ってもいいのかよ。
確か死に繋がるような攻撃は駄目と言っていたような‥‥‥。
まあいいけどさ。
俺はまっすぐ立った状態で、まともに正面からくらう。
めちゃくちゃ押される。
だが、イメージ技のお陰で体は全然動かない。
‥‥‥あれ?
痛みが全然ないんだけど?
今あるのは冷たいって感覚だけだ。
この魔法弱くない?
とか考えていた矢先、
「ふっ、馬鹿だわ」
相手のそんな声と共に氷が破裂し、キラキラと光っている小さな氷がたくさん飛び散った。
とても綺麗だ。
「うわっ!?」
俺は思わず目を閉じてしまう。
体の数か所にチクッ! という感覚がした。
多分顔とかいろいろな場所に刺さったな。
ほう。
俺の体に刺さるとは‥‥‥なかなかやるじゃねぇか。
欲を言えばもっと深くまで刺して欲しかったけど。
俺は手のひらで顔や腕、足を擦り、表面に刺さっている大量の氷を取って行った。
取れる瞬間に痛いと言えば痛いけど‥‥‥ぬるい。
俺からしたら、子供のじゃれ合いレベルにすぎんな。
えーっと、出血は‥‥‥していない。
すべて表面の筋肉で止まっていたらしい。
俺は真顔で再び歩き出し、口を開く。
「これ、とやらを受けたあとで言いますよ? ギブアップしてください」
「な‥‥‥なんで?」
まじでさっきの一回戦とパターンが似てるわ。
台本でも用意してあるのかね?
「だから言いましたよね? 戦力差があるって」
聞き分けの無い女は嫌いだぞ?
早く諦めてね?
俺がゆっくりと歩きながらそう呟くと、正面にいる相手は歯で唇を噛んでいる。
初級魔法すら使えない年下の平民に負けるのがそんなに悔しいのか?
「‥‥‥認めないわ」
いや、お前に認めてもらっても意味ないんだが。
「因みに諦めないなら全身の骨を折りますから」
「は? 平民ごときが何を言ってるの? 笑わせないで」
「うん」
「‥‥‥と、止まりなさいよ」
「うん」
その平民ごときにビビっとるやんけ。
俺はうん、と言いつつも止まらない。
だんだんと近付いているぞ。
「これ以上近付いたら撃つわよ!」
「うん」
逆に撃って欲しいんだが。
「‥‥‥来ないでっ、きゃ!」
相手は後ろへ下がる際に足を絡ませたらしく、地面に倒れた。
ふっ、恥ずかしい奴だな。
平民ごときにしっぽをまいとるやん。
『五年生ルリが転びました。見たところ二年生レインは何もしていなかった為、恐怖によるものでしょう』
実況さんよ。
可哀そうだからわざわざ解説してやるなよ。
やがて相手の目の前に到着すると、俺は真顔で見下げ、口を開く。
「まずは足から折るね?」
「ま、待って!」
相手は尻もちをついたまま怯えた表情で後ろへと下がって行く。
「うん」
そう答えつつも同じペースで追いかけ、踏みつける為に自分の右足を持ち上げた。
待ってと言われて待つ訳ねぇだろ。
俺は死ぬ直前のヒーローの長話を聞いて勝利を投げ捨てる悪役じゃないんでな。
いつも思うけど、どうして悪役とかは絶対に止めを刺さないんだろうな。
毎回ヒーローの覚醒やら、仲間の登場を待っているような気がする。
油断をすることなく本気で戦えば、敗北はまずない。
まあ、とにかくこいつが諦めないのなら、容赦無しに折る。
そんなことを考えつつも、勢い良く足を下ろそうとしたその時、
「‥‥‥ギブアップするわ!!」
五年生のルリは高音の大声でそう叫んだ。
ほう。
恐怖で思わず言ってしまった感じかね?
まあ、何にせよ諦めてくれてありがとう。
『おぉっと! ここで五年生ルリのギブアップ宣言を確認しました。それにより勝者二年生レイン!!』
そんな声が響いて来るが、一回戦の時と同じでやはり観客からの声はない。
俺は真顔で、反対方向の出口へと向かって歩き出す。
もう声援なんていいや。
『またしても平民である二年生が全く攻撃をすることなく、実力者の上級生をギブアップさせました。やっぱりこの平民は何かあります!』
平民平民ってうるせぇよ?
あんまりしつこいと絞めるよ?
その後、俺は観客席に戻り次の出番を待つ。
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