第五十八話【武闘大会二回戦・壱】
案内役の男性教師が、試合場へと続いている通路からやって来て口を開く。
「はい、次は五年生のルリ=グレンドと二年生のレイン=アルトリアの二人。ついて来て」
「「分かりました」」
ということで、俺と対戦相手の長髪女子は準備室をあとにし、試合場へと移動した。
そして、それぞれ一定の距離を取る。
さぁて、一丁行くか。
俺はか弱い女子には手を出さない主義なんでな。
仕方ないからギブアップさせてやろう。
おおかたこいつも実力差を分からせないと諦めないだろうし‥‥‥わざと魔法をくらってやるか。
『続いて、五年生魔術コースSクラス、ルリ=グレンドVS二年生騎士コースAクラス、レイン=アルトリアの対戦を開始します』
どこからかは知らんが、女性実況者の声がエコーと共に響いて来た。
相手は長い髪を風になびかせて、手のひらをこちらへ向けている。
魔法を撃ってくるつもりかね?
出来れば早めにリタイアしてくれないかね?
いや、やっぱり五年生なんだから、一度は俺にダメージを与えてくれないかね?
俺よりも三歳年上だし、それなりに期待してもいいよね?
『それでは‥‥‥始め!!』
その言葉と同時に、俺はゆっくりと歩き出す。
相手は口を一生懸命動かしている。
うん、やはり魔法使いって甘いな。
この時間があったら余裕で戦闘不能に出来るわ。
裏闘技場の選手レベルに詠唱を短縮しているならまだしも、あの子‥‥‥何してんねん。
‥‥‥。
めっちゃ詠唱長いやん。
俺はあくびをしながらゆっくりと足を進める。
と、その時。
相手との距離が遠すぎて何を言ったのかは分からないけど、相手の手のひら付近に氷の槍が五本出現した。
うわぁお。
見たら分かる‥‥‥弱いやつやん。
氷の槍はそれぞれ俺めがけて飛んで来る。
遅いのぉ。
俺は表情を変えることなく氷の槍を体中で受け止めつつも歩いて行く。
いや、全く刺さらんやん。
痛くないのぉ。
少しは強いダメージをくれよ。
こんなんじゃ強くなれん。
早く次のを撃て。
出し惜しみしてんじゃねぇよ。
この程度が切り札ではないことは考えれば分かる。
あくしろ。
『やはりこの平民の二年生は普通ではない。ルリの魔法をまともにくらい、無表情を保っている』
無表情ですが、何か?
「ちょっと! あんた何なのよ!」
まだ少し遠くに立っている相手の五年生は、大きめの声でそう言って来た。
「普通ですけど‥‥‥それより、ギブアップしてもらえませんか?」
「‥‥‥私を舐めているの?」
またこれだ。
強情な奴やのぉ。
くたびれるわ。
「舐めてはいないです。ただ単に戦力差がありすぎるので、諦めてもらえるとお互い楽だと思いまして」
面倒くさいので一回戦の四年生に言ったのと同じことを伝えてみた。
「はい? あんたの目曇ってんじゃない? これを受けてから同じことが言えるかしら? ───」
あの人‥‥‥なんか魔法の詠唱を始めたぞ?
見たら分かる、一回戦の時と同じパターンやん。
なんで魔術コースの奴ってこんなにプライドが高いのだろうか。
そもそも相手が近付いて来ているのに、時間のかかる詠唱を始める時点で阿呆だろ。
こいつ能無しか?
俺は歩き続ける。
『おっと、二年生のレインは、一回戦の時と同じように相手が詠唱をしているのにも関わらずゆっくりと歩いています。これは確実な余裕があるからなのか?』
うん、余裕があるからだぜ?
ゴキブリに火炎放射器を放つ奴なんていないだろ?
‥‥‥あ、俺するかもしれん。
ってそんなことはどっちでもいい。
何にせよ、『これ』とやらはすごいんだろうな?
期待しておくからな?
ちゃんと強い攻撃をしてくれよ?
‥‥‥ん?
なんか……寒くなって来た?
どうしたのかね?
まさか、このタイミングで氷河期に入った訳ではあるまい。
今氷河期に入ったところですぐには寒くならんしな。
となると、相手の五年生が何かを仕掛けて来ている、という考えが妥当だ。
気温の変化について考えていると、相手の頭上にあるめちゃくちゃ大きな氷が視界に入って来た。
太陽の光を反射していてそれなりに眩しい。
おぉ、なかなかの白物ですな。
もしかしたらいいダメージを受けられるかもしれん。
若干期待を膨らませつつも、その場に立ち止まった。
この方が当てやすいだろう?
「───死氷球!!」
相手は力の限りそう叫んで、頭上の氷をこちらへ飛ばした。
さて三下相手に、力を入れて筋肉を固めるのは卑怯だよな。
地面に受け流すのも卑怯だし。
よし、じゃあここはイメージ技で行こう。
俺は瞬時に足の裏と地面を金属で固定するイメージをし、絶対に体が動かないようにする。
これはノックバックしなくなる代わりに、衝撃を全く緩和出来なくなる為、普通にくらうよりも痛いのである。
だが、それくらいが丁度いい。
未知のダメージを受けることによって俺は強くなれる。
『五年生ルリはものすごい魔法を発動しました。あれをまともにくらって立っていられるのは、我々教師の中でも少ないでしょう』
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