第六十話【赤髪のロスト・壱】
少しして‥‥‥。
俺は今、通路を通って試合場へと向かっている。
目の前には案内役の先生が歩いている。
そして赤髪野郎が俺の隣で同じように歩いている。
正直言ってもうこの瞬間にでもぶちのめしてやりたい。
だが、大勢の前で大恥をかかせる方がすっきりしそうだから、まだ我慢。
やり方はもう考えている。
せいぜい雑魚は雑魚なりに頑張れよ!
そう考えつつも足を進める。
この道のりが、何故かとても長く感じるわ。
さっきから体が疼いている。
やがて試合場へと歩み出る俺とロストを迎え入れたのは、大歓声。
おそらくこの声援は、ロストのみに向けられているものだろうな。
くそ赤髪のロストは、今大会でものすごく注目を浴びている。
なんせ二年生とは思えないレベルの魔法で上級生を圧倒していたからだ。
どうして去年Fクラスだったのか分からないレベル。
とにかくあいつはすごい。
正直ここまでやれるとは思わなかった。
俺をいじめている時に力を抑えていたってのは本当だったんだな。
でもロストは、一、二回戦の時にそこまで大きい魔法は使ってなかった。
まさかまだ隠し玉があるのだろうか?
‥‥‥めっちゃ楽しみ。
ここまで期待させたんだから裏切るなよ?
もしつまらなかったらボコす。
楽しくてもボコす。
俺とロストは、試合場の中心辺りに移動し、それぞれ一定の距離を取る。
『さぁて! これより過去に類をみない三回戦での二年生同士の対決が始まります。今まで下級生とは思えない魔法攻撃で上級生を圧倒して来た魔術コースSクラス、ロスト=アルザークVS一度も攻撃することなく上級生をギブアップさせて来た騎士コースAクラス、レイン=アルトリア。どちらが勝ってもおかしくはありません』
やっとだな。
二日間待ち遠しかったぜ。
ずっとお前が頭から離れなかった。
だから、じっくりと痛めつける。
てか‥‥‥俺も結構子供だな。
まさかこんなに我慢の出来ない人間だったとは。
『それでは‥‥‥始め!』
エコーの聞いた声が、ざわめいている歓声を切り裂いて聞こえて来た。
さて、まずは遊ぼう。
最初に威圧感を与えてギブアップされたら面白くない。
まあプライドの高いあいつがそうするとは思えんが。
俺は顔面をぶん殴りたい欲望を抑え、ゆっくりと歩いて行く。
「おい、ちび! ちょっと頑丈だからって調子こいてんじゃねぇよ。俺が無能の上級生みたいにギブアップすると思うな───」
安心しろ。
思っていない。
てか、早速詠唱を始めやがった。
俺は無言で足を進める。
靴の裏で砂を踏みつける感覚が鮮明に伝わって来る。
肌に当たる風も細胞一つ一つに感じられる。
俺の細胞たちも、この瞬間を楽しみにしていたらしい。
と、その時。
彼の手のひらから炎の槍が三本発射された。
槍は火の粉をまき散らしながらすべてこちらに向かって飛んで来る。
こいつ、やっぱり他の上級生に比べて詠唱が早い。
速度やサイズを見ても、これは天性に努力を重ねたものだと分かる。
俺は炎の槍を腹で受けた。
痛くない。
てかいつもと同じやつだ。
多少熱を感じるかなってくらい。
「毎回言ってるけど‥‥‥痛くないよ?」
もう飽きたわ。
早く面白いもんを出せよ。
俺の言葉にイラついたらしく、ロストは眉間にしわを寄せる。
「黙れゴミが。この程度で強がってんじゃねぇ───」
相変わらず頭に血がのぼりやすいのぉ。
少しは冷静になれよ。
相手はまた何かの詠唱を始める。
この詠唱は聞いたことがあるぞ。
確かただの炎球だ。
「───炎球! ───炎球! ───炎球!」
めっちゃ詠唱早いやん。
俺はかなり早い速度で飛んでくる大量の炎の球を無表情で受けつつも歩いて行く。
ごめん、塵が積もってもただのゴミだわ。
数を重ねてもダメージはほとんど蓄積されないぜ?
やがてロストの目の前に到着すると、俺は立ち止まった。
そして一度作り笑いをする。
すると案の定、
「きもいんだよ! くそがぁ」
殴りかかって来た。
かなり勢いがある。
感情に任せすぎだろ。
俺は作り笑いのまま肩で受け止める。
「ぎゃぁぁぁ!」
ロストは俺を殴った瞬間に大きな声を上げつつも自分の拳を抑え、その場にしゃがみこんだ。
『あれ? 何故か無抵抗のレインを殴ったロストがものすごく痛がっています。どういう状態なのでしょうか?』
ふっ。
上手くいったぜ。
実は肩を殴られる直前に、殴られない方の手で相手の拳を殴ったのだ。
かなり早い速度でやった為、ほとんどの人には見えていないらしい。
多分殴られたロスト本人も気付いていない。
てか殴って分かったんだけど、あいつの拳柔らかすぎだろ。
俺の拳が骨にめり込む感覚がはっきりと感じられたわ。
多分折れるまではとはいかないけど、確実にひびが入っていると思う。
まだ始まったばかりだし、もっと手加減してあげるつもりだったのだが。
つい俺も感情を出してしまったぜ。
「あれ? 何してんの?」
俺は笑いつつもそう問いかけた。
「う、うるせぇ。平民」
言葉のレパートリーが乏しすぎだろ。
ロストは急いで立ち上がり、少し後ろへ下がった。
俺を警戒しているらしい。
涙目で手を抑えている為、かなり痛かったのだろう。
男があの程度で泣くなよ?
もう少しだけ耐えてくれよ?
じゃないと俺が面白くない。
俺がその場に立ち止まっていると、相手はもう物理攻撃を諦めたらしく、魔法の詠唱を始めた。
‥‥‥。
はぁ。
普通目の前に敵がいる状態で詠唱を始めるか?
絶対戦い慣れてないだろ。
まあ待ってやるか。
俺は近付くことなくその場で待つ。
読んでくださりありがとうございます。




