第四十四話【レインVSアンナ・壱】
遠足の翌日。
俺は今緊張している。
緊張しすぎて尿意があるのかないのかよく分からん。
何故かって?
そう、試合の直前だからだ。
今現在、裏闘技場の準備室にある長椅子に座って出番を待っているのだが、手汗が止まらねぇ。
これに勝てるとトップ10位の仲間入り。
因みに裏闘技場の順位が10位より上になった場合、おじいさんことマリシャス様に住んでいる場所を教えなければいけないらしい。
どういうことかというと、10位以上の選手は自分より一つ下の順位の者に対戦を申し込まれたら、怪我をしていようが、骨が折れていようが三日以内に受けなければいけない。
つまり一つ下の選手が、マリシャス様に戦いたいと申し出ると、マリシャス様が大金で雇っている使者を使って一つ上の順位の選手にそのことを伝えてくれるのだ。
勿論上の選手に拒否権はない為、必ず対戦は出来る。
俺は今回、マリシャス様に裏闘技場選手第10位の方を探してもらい、今日ここに来るように伝えてもらった。
今その方は、隣の準備室にいるだろう。
仮に三日間、順位が一つ下の者からの申し出を受けなかった場合、強制的に順位を下げられるという。
つまり、今隣に第10位の方がいない場合、俺は無条件で第10位になれる可能性が増える。
まあマリシャス様曰く、相手はやる気満々で引き受けたらしいし、隣にいるのは間違いない。
その話を聞いてから、結構緊張して来たんだよな。
他の選手たちも、トップ10位は全員怪物とか言ってるし。
俺は鉄の剣を一度横に置き、手汗を黒色の服で拭く。
‥‥‥服で拭く。
うん。
緊張のせいで全然笑えねぇ。
いや、多分いつも通りの日常でも笑えん。
って、そんなことはどっちでもいいわ!
「レインさん。緊張してんのか? こら」
突然横からブルドーザーのような汚い声が聞こえて来たので向いてみると、いかつい顔をしたチンラさんがいる。
語尾の「こら」は相変わらずだな。
てかこの人、久しぶりに見たわ。
「うん、してるよ。だって相手が第10位選手だもん」
するとチンラさんは一瞬驚いたような表情をするも、すぐに嬉しそうな顔になった。
「‥‥‥やっぱり、俺たちの目に狂いはなかったぜ。初めてレインさんと戦った時、この子は絶対上に行くと思っていたんだ。こら」
「それはどうも」
俺はそう答えて、再び鉄の剣を持つ。
もうそろそろ出番だろう。
と、その時。
準備室のドアが開いた。
「レイン選手、出番です」
「あ、はい」
黄色の服を着ている審判の言葉に返事をし、立ち上がった。
「なぁレインさん。負けたら承知しねぇからな? こら」
横にいるチンラさんがいかつい顔でそう言って来たので、俺は口元を釣り上げ「了解」と答えた。
負ける訳ねぇだろ。
俺は強い。
そして審判の後ろについて、正面の扉へと向かう。
すると女性の姿が見えて来た。
赤いローブを着ていて、赤い帽子を被っている。
帽子からはとても長い赤髪が出て来ている。
うわっ、めっちゃ赤いやん。
更に赤い靴。
赤い靴下。
木の杖の先端には赤い宝石。
やばっ‥‥‥街とかにいたら絶対目立つだろ。
いやぁ、トップ10位は見た目から違うな。
杖を持っていることからして、おそらくこの女性は魔法使い。
やがて正面の入り口に到着すると、相手の女性はこちらを見てにっこりと笑って来た。
かなり余裕がありやがるなぁ。
俺は真顔でお辞儀。
「二人共、準備は大丈夫ですか?」
審判のそんな声が聞こえたので俺は静かに返事をする。
「はい」
「ええ、大丈夫よ。早く行きましょう」
続いて、赤い女性もにっこりとしながら呟いた。
よっぽど勝負が楽しみなんだろうな。
てかめっちゃ綺麗な声やん。
審判は扉を開けて試合場へと入り、早速はしご使って定位置へと向かう。
よし、絶対勝つぞ!
相手は確実に魔法を使うだろうから、開始と共にぶっ潰せばいい。
でも、俺‥‥‥スタートダッシュにはあまり自信がないし、すぐに決められるかな?
いや、弱気になるのはよくない。
勝てる。
絶対勝てるぞ!
俺は他の誰よりも努力しているんだから。
俺と赤い女性は、それぞれ砂の上で一定の距離を取る。
「それではこれより第10選手アンナと第11位選手レインの試合を開始します。相手が戦闘不能、もしくはギブアップした時点で終了です」
俺は片足を少し後ろに下げ、いつでも走れるように準備する。
靴の裏に当たっている砂の感覚が鮮明に伝わって来やがるぜ。
剣を持っている右手が汗ばんでいるが、気にしない方がいいだろう。
よし落ち着け、俺。
「両者見合って‥‥‥始め!!」
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