第四十三話【遠足・参】
しょうがない、ついて行ってやるか。
「ティナさん、このお弁当ありがとう。じゃあちょっと行って来る」
俺は食べかけのお弁当を返しながら、笑顔でそう言った。
すると、
「えっ‥‥‥せ、先生を呼んだ方がいいかな?」
ティナさんはお弁当を手で受け取りつつも、小さい声で呟いた。
この声量からして、正面の三人組に聞こえないようにしたのだろう。
だがそれが聞こえていたらしく、金髪が眉間にしわを寄せ、
「あ? ブスの平民が入ってくんなよ。殺されてぇの?」
「‥‥‥ご、ごめん」
ティナさんは金髪の威圧を受け、怯えたように小さくなった。
まあ普通の子は、こんな睨み方をされたら怖いだろうな。
怖がっている彼女の姿を見た俺は、急いで立ち上がり呟く。
「この子は関係ないだろ?」
「元々てめぇが無視したのが原因だけどな。まあいい、早くついて来い」
金髪の後ろにいる赤髪ロストくんがそう言い残して歩き出したので、俺は後ろに付いて行く。
その後、大きな岩の裏で服を脱がされて悪口を言われながら何度も体中を殴られた。
う~ん。
気持ちいい。
いい感じのマッサージだわ。
‥‥‥。
あのー、もう少し強めにお願い出来んかね?
数分後‥‥‥。
俺は力尽きて倒れる‥‥‥ふりをした。
理由は単純明快、飽きたから。
そんな俺の演技に騙されたらしく、三人は満足げな表情で人の多い草原に向かって歩き出した。
うん、やっぱりぬるい。
この程度のいじめで俺が屈するとでも?
俺にダメージを与えたければ、刃物を使え。
まあ、刃物でも使用者によっては通らないんだけどな。
となると、誰か強い奴を連れて来い。
正直言って君たちとの戯れは暇潰しでしかない。
俺は何食わぬ顔で立ち上がり服を着ると、先程ティナさんと会話をしていた木の陰へと戻った。
すると、彼女はまだそこにいた。
木にもたれ掛かって一人座っている。
口元の雰囲気で、俺のことを心配しているのが分かる。
不安なのだろう。
とその時、ティナさんはどうやら俺の存在に気付いたらしく、急いで立ち上がりこちらへ向かって来た。
「レインくん! 大丈夫だった?」
俺はゆっくりと近付きつつも、
「うん、特に何もなかったよ。ちょっと話し合いをしていただけ」
本当のことを言うつもりはない。
話して楽しく盛り上がれるような内容でもないしな。
すると彼女はとても安心したような表情をし、「ふぅ」とため息をついた。
「あぁ~よかった。てっきり痛めつけられているのかと思って‥‥‥心配だったんだよ?」
それは違うな。
痛めつけられてなんかいない。
ありゃーどちらかと言うとマッサージだ。
整骨院におるんかと思ったわ。
「ほら、この通り! 何ともないでしょ?」
そう言いながら体を上下左右に動かして見せる。
「‥‥‥大丈夫そうだね」
「だろ?」
とそこで、
「おーい!! そろそろ集合時間だから、ここに集まれよぉー?」
クロード先生の力強い声が聞こえて来た。
「あ、ティナさん。じゃあ行こうか」
「うん。そうだね」
俺たち二人は一言ずつ交わすと、集合場所に向かって歩き出す。
やがて見晴らしのよい草原の上にFクラスの百人全員が揃うと、クロード先生が大きい声で話し始める。
「これより球投げ試合を行う───」
ふむふむ。
ルールは簡単で、Fクラス百人を二つに分け、50対50で球を当てあう。
やり方のほとんどが、生前の小学生時代によくやっていたドッジボールと同じだ。
唯一違うのは頭や顔に当たってもアウトとなり、外野に出なければいけないということだ。
勿論魔法の使用は禁止で、内野の人数がゼロになった方のチームが負け。
外野から相手チームの内野の人にボールを当てた場合、その外野の人は中に戻ることが出来る。
先生曰く戦力の偏りを防ぐ為に、シャーロットくんと俺の二人は強制的に別のチームにするらしい。
俺たちFクラスの生徒は先生の指示に従って、白い粉で書かれている線の中に入っていく。
そして、球投げ試合が始まった。
しばらくして‥‥‥。
うん、こうなるだろうなとは思っていた。
外野の合計人数98名。
内野の合計人数2名。
えっ?
内野の二人が誰なのかって?
言わずもがな俺とシャーロット君だ。
今現在、シャーロットくんがボールを持ってこちらを見つめて来ている。
因みに俺はまだ本気を出していない。
今まで瞬発力を駆使してボールを躱したり、わざと弱めに投げていただけだ。
それで気付いたら、こっちのチームは残り一人となっていたのである。
と、その時。
正面のシャーロット君が思いっきりボールを投げた。
まるで、受け止めてみろ! とでも言わんばかりの迫力だ。
ボールはものすごい勢いでこちらに向かって来る。
さて、そろそろ避けるのは止めるか。
俺はボールの軌道をよく見て、腹の中心と腕で受け止めた。
ふぅ、あぶねぇ。
下に落ちるかと思ったわ。
このボール意外と跳ね返るから、注意が必要だな。
「うわ‥‥‥あれを取りやがった」
「あいつ、何なんだよ」
「もしかして魔法でも使ったんじゃね?」
外野から複数の声が聞こえて来る。
おい、魔法なんて使う訳ねぇだろ!
俺の親はどちらも魔力を持っていない平民だっつってんだろ!
俺は若干力を抑えつつも相手に向かってボールを投げた。
抑えたとは言っても、それはあくまで俺基準での話なので、スピードはさっきシャーロットくんが投げたボールよりも速い。
これでいい感じに勝てるだろうと思っていたのだが‥‥‥。
シャーロットくんの野郎、大きい体を駆使して受け止めやがった。
「おい、アルトリア。本気を出したらどうだ?」
その言葉と同時に先程よりも速いスピードで投げて来る。
俺は再び腹と腕で受け止めた。
「そっちこそ。まだ余裕があるだろ?」
そう言って俺は少しだけ威力を上げて投げた。
「本気を出さないなら、俺が勝つぞ?」
そう言って相手は少しだけ威力を上げて投げて来る。
「こっちのセリフだ。俺が勝ってもいいのか?」
そう言って俺は少しだけ威力を上げて投げた。
「シャーロットの名に懸けて、お前だけには負けん!」
そう言って相手は少しだけ威力を上げて投げて来る。
少しの間、これが続いた。
結果。
「‥‥‥あ、アルトリアのいるAチームの勝ち」
うん、俺は勝った。
最後にシャーロットくんの下半身にぶつけて勝利をしたのである。
‥‥‥。
おい。
クロード先生が唖然としつつもちゃんと結果を言ったのに、俺のチーム誰一人として喜ばねぇじゃん。
立ったままふと周りを確認してみると‥‥‥。
いじめっ子三人組が機嫌悪そうにそっぽを向いている。
何か文句でもあるのかね?
てかそもそも君たちってどっちのチームだったんだ?
影が薄すぎて記憶にないわ。
更に、髪の多いティナさんがこちらを見ながら口を開けている。
髪のせいで目元は見えないのだが、それでもびっくりしているのが分かるぜ。
更に、金髪ロングヘアーのリランディさんが視界に入って来た。
彼女は目を輝かせて俺を見つめている。
‥‥‥俺に惚れたのかね?
てか、やっぱり可愛いなぁ。
そして線の向こうにいるシャーロットくん。
彼はかなり疲れているらしく、地面に膝をついている。
シャーロットくん‥‥‥ごめん。
負けそうになったから、思わず強めで投げちゃったわ。
だって君強いんだもん。
俺の体が小さいせいで、上手くボールをキャッチ出来ないんだよ。
「‥‥‥あの二人、化け物だろ」
「まじで何なんだよ。僕たちとレベルが違いすぎる」
「特にあの平民? って異常じゃね?」
「そうだな」
外野からそんな声が飛び交って来る。
うん、熱くなりすぎてまた悪目立ちをしてしまったわ。
‥‥‥というような感じで、球投げ試合は終了した。
その後俺たちFクラスは鬼ごっこや自由時間を経て、それぞれ帰宅用の馬車に乗る。
因みに鬼ごっこは早めに捕まって、鬼として適当にみんなを追いかけて乗り切りました。
因みに自由時間は、一人木の陰で昼寝をしていました。
その間誰かが話しかけて来たかも分からんし、無視されていたのかもしれん。
うん、ということでアルトリア学園一年生の遠足は幕を下ろした。
読んでくださりありがとうございます。




