第三十四話【いじめ】
やがて目的地へ到着すると、もうすでに例の三人が待っていた。
ここは体育館の壁と学園を囲んでいる壁の間の場所で、かなり薄暗い。
真ん中に立っている赤髪の子は、俺の存在を確認するとすぐに怖い顔をして近付いて来る。
「あのさ。お前に話したいことがあるんだけど」
「どうしたの?」
「学校辞めてくれない?」
‥‥‥いきなりなんか言って来たぁ!?
突然の申し出に俺は頭を掻きながら答える。
「えーっと、まずそれを伝えようと思った動機と根拠を教えてくれる?」
「どう‥‥‥何言ってんの、お前?」
ぷっ。
あらま、ちょっと難しすぎたかしら。
「ごめん。じゃあその理由を教えてくれる?」
「理由? お前模擬戦で俺にしたこと覚えてないのか?」
ん? 俺、この赤髪に何かしたっけ!?
全く記憶にないんだけど‥‥‥。
「申し訳ないけど‥‥‥覚えてないな」
「はっ!? お前のせいで俺がFクラスになったんだからな?」
WHAT?
どういうこと?
まじで分からないんだが。
「俺‥‥‥何もしてなくない?」
「あ? てめぇが俺の元に教師たちを連れて来たんだろうが!」
教師?
‥‥‥お、おぉ、そういえば。
教師たち数人から逃げる為に色んな所を走り回った記憶がある。
もしかしたらその時に邪魔をしてしまったのかもしれん。
「それはごめんね。でもわざとじゃないんだ」
素直に謝ると、相手の顔色が更に険しくなった。
「あとさ、お前貧乏な平民だろ? 息をするだけで空気が汚れるから、早く学校辞めろよ」
おいおい。
「いや、空気は汚れないと思うよ? そもそも空気中には人間や魔物などが呼吸によって放出している二酸化炭素という気体がおよそ0.03割程度しかないんだぜ? 全世界中の哺乳類でそれだけなんだから、俺一人が汚すっていうのは───」
「───意味の分からねぇこと言ってんじゃねぇよ。‥‥‥とにかく学校を辞めないならボコボコにするからな?」
合っているのか違うのかよく分からないことを早口で言ってみると、赤髪野郎が途中で遮って来やがった。
てかボコボコにするって、これはまた大きく出たな~。
‥‥‥あ、そういえばこの子たちは模擬戦で俺と一緒の50人だったから、俺が最後に教師の魔法を耐えるシーンを見ていなかったのか。
よく考えたら俺以外の49人全員がやられて保健室の先生に治療されていたんだっけ。
「ボコボコで済ませてくれるんなら、そっちの方がいいかな?」
そう答えると、赤髪はにやけつつも後ろを向く。
「おい、二人共聞いたか? こいつボコボコにされたいらしいぜ?」
「うん聞いた聞いた」
「魔法とか撃ってあげるけど、死んじゃったらごめんね?」
後ろの二人が笑いながらそう続けた。
どうやら三人ともやる気らしい。
しかも魔法を撃ってくれるみたいだから、いい特訓になりそうだぜ。
俺の体に流れているフォレスト家の血はダメージを受けたりすることによって他の人の数倍も成長する。
つまり魔法に対しても、もっと耐性がつくかもしれない。
三人は俺に向かって手を伸ばし、詠唱を始める。
俺は無言でその魔法を待っているなう。
‥‥‥にしても遅いな。
今、この瞬間に三人ともボコせるぞ?
まあ、俺は優しい心の持ち主だから待ってあげるけど。
と、その時。
赤髪の手のひらから炎の槍っぽいのが出現した。
「これは模擬戦の時、教師たちに撃とうと思っていた魔法だ。お前の邪魔のせいで放てなかったけどな、こらぁ!」
そう言って炎の槍を飛ばして来る。
見た感じスピードも大きさも大したことないな。
俺は身構えることなく、腹でその魔法をくらった。
それにより来ていた黒色の服に穴が空き、とても焦げ臭い匂いがする。
‥‥‥直撃した感想をはっきり言うと、ぬるい。
模擬戦の時くらった教師たちの魔法に比べて温度が低すぎるわ。
でも服が破れたのは悲しいな。
仕方ないから上半身裸で行くか。
少々なら傷を見られても大丈夫だろ。
俺はこれ以上服に傷がつくのを防ぐ為、黒色の服を脱いで鞄と共に体育館の壁際へ投げる。
その行動と同時に緑髪の子が風の刃を飛ばして来る。
‥‥‥あ、いいこと考えた。
ぐふふ。
ちょっとリーダーをいじめてやろう。
俺は、緑髪が放ったその刃を胸でくらう。
うん、全く痛くない。
でも痛いふりをしておこう。
「いってぇぇ」
そう声を上げて地面に手をつく。
更に金髪の子が魔法で作った大きめの石を飛ばして来たので、腕で防いだ。
うん、全然痛くないわ。
でも痛いふりをしておこう。
「うぐっっ」
そう声を上げ、もう片方の手で石が当たった部分を抑えた。
そんな俺の姿を見た金髪の子が赤髪の方を向いて喋り始める。
「ロストくん、あいつかなり痛がっているみたいだし、最後に最強の奴を撃っちゃいなよ」
ふむふむ。
赤髪野郎の名前はロストと言うのか。
「ああ、任せろ」
赤髪の子ことロストは嬉しそうな顔をして詠唱を始めると、手のひらに炎の槍を二本生み出す。
そしてその二本をこちらに向かって放って来た。
最強のって‥‥‥本数が増えただけかい!
もっと強いのは無いのかね?
俺はその二本をそれぞれ胸と腹で受け止める。
うん、痛くない。
だから正直に言ってあげよう。
「あ、やっぱり炎だけ痛くないや」
そう言って真顔で立ち上がり三人の方を見る。
すると全員驚いたような表情。
真ん中にいるロストは急に悔しくなったのか、怖い顔をして火の玉、火の槍、火の鞭っぽいやつなどを何度も放って来た。
俺は真顔のまますべて受けきる。
やがてロストが魔法の詠唱を止めたので、俺は三人の方に向かって歩きながら口を開く。
「あのさ、この炎‥‥‥温度が低いよ? 正直言って風とか石の方が痛い」
本当はこいつの火が一番ずっしりと来る。
けど痛くないふり。
そう、これはロストを間接的にいじめているのである。
他二人の魔法の方が強いような感じになったら、リーダーとしての威厳が丸潰れだろうな。
赤髪のロストは俺の言葉にイラついたらしく、金髪と緑髪の方を向く。
「おい、お前たちもやれよ」
「「あ、う、うん」」
二人は動揺しつつも同時に返事をし、それぞれ石や風を撃ち込んで来る。
俺は顔の前に拳を構えてそれらをくらい、地面に倒れた。
勿論演技である。
少し目を閉じて動かないでいると、三人の足音が近付いて来た。
「貧乏ちびくん? 明日教室に来たらまたここでボコすからな? 覚えとけよ?」
ロストの声が聞こえて来た。
俺は無言で倒れたふりを貫く。
三人の足音はだんだんと遠くなっていく為、もう攻撃はしてこないらしい。
てか明日教室に出たらまたリンチされるのかよ。
じゃあ行こっと!
ダメージを与えてくれるなら大歓迎だ。
やがて足音が聞こえなくなると俺は何事もなかったように立ち上がり、ズボンについている砂を払う。
そして体育館の壁付近に置いてあった服と鞄を拾った。
流石に上半身裸で寮に戻ったら、出会う人たちに変な目で見られそうだよな?
かといってこの服も穴が空いているんだけど‥‥‥まあ着ないよりかはましだろう。
ということで黒色の服を着て、破れた部分を鞄で隠すと、体育館の横にある寮へと戻る。
少しして自分の部屋に到着した。
ドアを開けると、中には一人の男の子がいる。
黒色の髪に黒色の目。
黒色の眼鏡。
身長は俺と同じくらい小さく、机に座って本を読んでいる。
服装から見て彼は貴族だろう。
本の表紙の下辺りに『アラストル学園図書館』という紙が貼られている為、この学園のどこかにある図書館から借りて来たものだというのが分かる。
ほう。
図書館かぁ~。
俺も今度行ってみよう。
この世界には印刷技術がないので、本はすべて誰かが書いたものだ。
つまり貴族でも持っている人は少ないだろう。
実際結構なお金を持っている俺の家にも、絵本が数冊と親父の宝物がある程度だった。
そんな貴重な本がたくさん集まっている場所が、この学園にはあるということだ。
出来れば今日行ってみたいけど、昨日裏闘技場の紙に名前を書いちゃったし、もうそろそろここを出ないといけないんだよな。
‥‥‥てか俺のパートナー、めっちゃ大人しいやん。
実はさっき俺がドアを開けた時、一度チラッと向いて目を合わせて来たんだけど、無言で本に視線を戻しやがった。
まあ話しかけて来ないなら、それはそれでいいけど。
俺は無言でボロボロの服を脱ぐとごみ箱に捨て、机の引き出しにしまっていた黒色の服を取り出し着用する。
そして貴重品などの入った鞄を肩に下げ、この部屋をあとにした。
さてと、ここで一つ問題があるんだよな。
廊下を歩きながらそんなことを考える。
う~ん、この学園から外に出るのは簡単だ。
でも裏闘技場で戦い終わってアラストル学園に到着する頃、辺りはもう確実に真っ暗だろう。
つまり帰宅が夜中になるのである。
この学園は規則として夕暮れの鐘が鳴って少ししたら門が閉められてしまう。
となると、寮の部屋に帰って来られない。
壁を飛び越えることが出来れば戻って来られるのだろうが、この学園の周りを囲んでいる壁は結構高いし、正直言って届きそうにない。
‥‥‥。
まあ考えても無駄だし、とりあえず裏闘技場へ行こう。
で、どうやって入るかはまた帰って来てから考えればいいや。
ということで俺は寮を出て学園の門をくぐると、商店街方向へ歩き出した。
しばらくして‥‥‥。
裏闘技場での戦いを終え、学園の門の前に戻って来ていた。
今現在俺の目の前には、閉ざされている門が立ちはだかっていやがる。
読んでくださりありがとうございます。




