第三十話【レインVSブラック・壱】
岩場での特訓を終えアラストル街に到着すると、空はもうすっかりオレンジ色になっていた。
確か裏闘技場の試合が始まるのは、夕暮れの鐘がなって少ししてからの為、丁度いい感じの時間帯になったな。
俺は商店街の途中で果物とパンを購入してもぐもぐと食べながら、スラム街へと向かう。
今度はちゃんと道を覚えていた為、普通に酒場周辺へ到着することが出来た。
壊れかけの建物や、至る所に落ちてある布やゴミなど、相変わらず不気味な所だぜ。
気が付くと辺りにはもうすっかり夜のとばりが落ちている。
それがまた雰囲気を引き出しているんだよな。
俺は怪しい酒場の中へ入りマスターに挨拶をすると、カウンターの裏にあるコンクリートの床を開けて地下へと降り、通路を歩いていく。
そして分かれ道を右に曲がり準備室のドアを開けて、中へと入った。
すると三人の男性たちがそれぞれ長椅子に座って目を閉じていたり、ロッカーの前に立って着替えをしたりしている。
めっちゃおるやん。
別にいいけどさ。
けど、どうせならこんな暑苦しいおっさんじゃなくて、綺麗な女性と一緒がよかったな~。
この広い部屋へと入って来た俺の姿を見て、三人は驚いたような表情をする。
子供だからびっくりしているのかね?
俺は「あ、どうも」と言ってロッカーの前に立ち、服を脱いでいく。
「なぁ君、新人かい?」
そんな声が聞こえて来たので、脱いだ服をロッカーに入れ上半身裸のまま振り向いてみると、長椅子に座っている男性がこちらを向いていた。
金髪で、片手に鉄の剣を持っている。
かなりいかつい顔だ。
「あ、はい。昨日から始めました」
「そうか。‥‥‥よく君みたいな子供が、あのマリシャス様に認めてもらえたもんだ」
「まあたまたまですよ」
「それでもすごいよ。‥‥‥あ、何か分からないことがあったら知っている範囲で教えるけど?」
男性は鉄の剣を長椅子に置き、そう言った。
おぉ、そりゃーありがたい。
話し方からしてこの人は見た目より大人しそうだから、遠慮なく聞けそうだ。
「えーっと、じゃあ今日の対戦相手とかってどうやって分かるんですか?」
「基本的には一日前に用紙へ名前を書いた選手の順位が近い同士で当てられるんだ。例外もあるにはあるけどね。‥‥‥それはすべてマリシャス様が決めて当日発表だ」
ふむふむ。
「なるほど、じゃあこの準備室で待っていればいいんですか?」
「そうだ。でも先に知りたい場合は正面入り口の扉に貼ってある紙を見るか、ちょっと入りずらいけどマリシャス様に会いに行けば教えてもらえるぞ?」
正面入り口の扉に貼ってあるんだ‥‥‥。
完全に見落としていたわ。
「あ、そうなんですか」
「そういえば、君の順位はどのくらいだ? まあ今日が二日目みたいだし、最下位の150位辺りだとは思うけど」
金髪の男性が椅子から立ち上がり、俺の近くに向かって来ながらそう言った。
「いえ、昨日は100位丁度で終わりましたよ? 今日の昼の間に変動している可能性があるんで詳しくは分からないですけど」
「「はっ!?」」
「えっ!? ‥‥‥早くない?」
この準備室にいる三人がみんな驚いた表情をして声を上げる。
「まあ運よく第50位の人と戦うことが出来たので‥‥‥。あ、じゃあちょっと対戦相手を確認して来ますね?」
「あ、‥‥‥ああ」
俺は鞄をロッカーの中にしまい鍵をかけると、準備室をあとにした。
今の試合場の様子も見ておきたいし、挨拶がてらおじいさんの部屋へ行くか。
てかなるべく高順位の人と戦いたいけど、さっきの人が同じような順位の選手同士で戦うって言ってたし、やっぱり確率は少ないだろうな。
そんなことを考えつつも、おじいさんの部屋へ入る。
「失礼します」
中へ入ると、ソファーに座って試合を見ていたおじいさんがこちらを向き、あっという表情をした。
「おお、期待の新人レインくんじゃないか。どうしたんじゃ?」
「あ、ちょっと対戦相手が知りたいのと、顔を出したくて」
「そうかそうか。それなら机の上にある紙を見てみなさい。今日の対戦メニューが書かれてあるぞ」
「はい。ありがとうございます」
俺はガラス越しに見える試合場の様子を確認しつつも机へと向かう。
因みに今試合場で戦っている二人はどちらも男性で、それぞれ剣と槍を使っている。
見たら分かる、どっちも弱い奴やん。
二人共ダメージを恐れているかのような戦い方だ。
そんなんじゃ自分の戦い方が出来んだろう。
やがて机に到着すると、紙を手に持ち目を通していく。
えーっと俺は‥‥‥ブラックって人か。
どんな選手なんだろう。
さっき準備室にいた三人の誰かか、隣の準備室の人なのかな?
まあ誰にせよ勝つ。
‥‥‥てか俺の試合は二回戦目みたいだし、もうそろそろだろうな。
よし、準備室に戻って心を落ち着かせておこう。
「あの、じゃあ俺行きますね」
「楽しみにしているから、面白いものを見せてくれよ?」
「はい頑張ります!」
このおじいさんは本当に対人戦を見るのが好きなんだな。目が輝いている。
俺はこの部屋を出て準備室に向かって歩き出す。
すると正面入り口の扉が開き、中から複数の人影が出て来た。
それぞれ、黄色の服を着た審判と、剣を持った男性と、数人の人に抱きかかえられて治療室へと運ばれていく槍使い。
どうやら剣を持っている男性の勝利で終わったらしい。
とにかく次は俺の出番だ。急ごう。
俺は審判と剣の男性を横切り、先程の準備室へと向かった。
広い準備室の中に入ると、さっきと同じ三人がいて、全員が俺を見て来ている。
そして最初に金髪の男性が口を開いた。
「君の対戦相手‥‥‥誰だった?」
俺はロッカーに向かいつつも答える。
「えーっと、ブラックと書かれていましたけど‥‥‥あなた方の誰かですか?」
「ブ、ブラックさん!? ということは君の名前は紙に書かれていたレインか」
「おいおい、まじかよ」
「俺たちじゃねぇよ。あの人は俺のような低順位と違い、ずっと約20位前後をキープしている方だ」
三人はそれぞれ同タイミングで驚きの声をあげ、そのうちの一人がそう教えてくれた。
えっ!? 約20位ってやばいやつやん。
俺まだ100位程度なんだけど?
‥‥‥いやー、楽しみだな~。
と、その時。
部屋のドアが開いた。
見てみると審判の方がいる。
「レイン選手、出番です」
「あ、はい。‥‥‥えーっとじゃあ俺行きますね?」
俺は審判に返事をしたあとで、口を大きく開けている三人の方を向きそう言いながら、ロッカーを開けて石の槍を手に取る。
そしてちゃんと鍵をしめて準備室をあとにした。
正面入り口の前には審判と、俺の対戦相手であろう人がいる。
‥‥‥ん?
あの人どこかで見たような気がする。
黒い服を着ている黒人。
体が大きく所々に傷跡がある‥‥‥てあれだ!
えーっと今日の午前中に行った服屋の店員だわ。
普通ではないと思っていたけど、まさか裏闘技場選手だったとは。
向こうもこちらの存在に気付いたらしく「あ~らぁ?」と声を上げて見つめて来る。
「どうも」
俺は正面の入り口に到着し、頭を下げてそう言った。
「あなたが服を買いに来た時、普通の子ではないって思ってたけど、あたしの勘は当たってたわね」
女性のような話し方だが、彼は完全に男である。
「それでは二人共準備は大丈夫ですか?」
「勿論よぉ~」
「はい」
審判は正面の門を開けると試合場の中へ進んで行く。
俺とブラックさんはその後ろについて砂に足を踏み入れ、一定の距離を取り開始を待つ。
やがて審判がはしごを登り終えると口を開いた。
「それではこれより第21選手ブラックと第101位選手レインの試合を開始します。相手が戦闘不能、もしくはギブアップした時点で終了です」
あら、俺101位に落ちていたんだ。
でもまあこの勝負に勝てば一気に上がるはず。
よ~し、頑張るぞ!!
「両者見合って‥‥‥始め!!」
読んでくださりありがとうございます。




