第三十七話 ヒロインの秘密
ゲームのヒロイン、ルリ視点です。
私の名前はルリ。前世が日本人でこの世界が乙女ゲームに酷似した世界だって事に気がついたのは小さい頃、階段から落ちて頭を強くぶつけた時。反動からかそれ以前の記憶がすっぽり抜け落ちてしまったけれど、後悔はしてない。だってここが乙女ゲームの世界だって一生かけても気がつけやしなかっただろうし。
それにしても、乙女ゲームに転生って、まさか本当にあるとは思わなかった。ましてや、ヒロインなんて!柄じゃないわよ人選ミスじゃないの神様!?
前世の私は大して変わった所もないごく普通の女子高生だったのに。電波ヒロインになんてなれっこないわよ、そうなれば精神的には楽だろうけど嫌よ!頭の中お花畑なんて一番嫌いな人種だわ!
あーあ、イケメンなんて正直あんまり興味ないのに………更にはこれ選択肢誤ると攻略対象全員ヤンデレキチガイになるとんだ病みゲーなのに!ヤンデレは二次元に限るわ!三次元にまで来ちゃったらただのサイコ野郎よ行くなら私の所じゃなくてお巡りさんの所に行け!!
まあ私も、前世であの人に出会ってなかったらヤンデレルート、通称ブラックルートにならないよう頑張って攻略しようとかは思うだろうけどね………あの方の魅力を知ってしまったからにはそこらのイケメンなんて有象無象にしか見えないわ。
あの方っていうのは、私の通っていた女子高のプリンス。ええ、女性よ、それが何か?
その方はもう、スポーツも成績も優秀な上に女の子には蕩けそうな程優しくしてくれて、流し目なんてされたら誰もが骨抜きにされちゃう。綺麗なアルトの声は艶っぽくて腰砕けになりそうで、もう非の打ち所なんてありはしないくらいの王子様だった。
きつい物言いで虐められてた時に、さっと助けてくれてから、もうずっと虜になってるの。
寮で同室になった女の子達に次々襲われて結局一人部屋になったって聞いた時は思わず目を見張ったわ。あの人の傍にいてこそ至上なのに棒に振るような真似して!信じらんない!
私はその人と同じクラスだってだけですごく嬉しくて、インフルエンザにかかっても無理矢理学校に行こうとしたくらいよ。
………まあインフルエンザで学校に行けなくなってた時うっかり死んじゃったのよね。もう熱も引いてたからちょっと近くのコンビニにでも行こうとしたら、交通事故で。
それらを思い出した時は悲しくて悲しくて。何でもっと一緒にいられなかったんだろうってひたすら嘆いてた。
………でも、私は出会ったの。その人とそっくりな方に!
名前は、レイラ・アクロイド。実はゲームの悪役で、ヒロイン……まあ私なんだけど、とにかく虐めて虐めて虐げて最後には酷い目に合うキャラクター。もうその人はバッドエンドしかないわ正直。しかもバリエーションが豊富。制作者、レイラに何か恨みがあったのかってくらい酷かったわ。
しかし、私が出会ったレイラは全然違うのよ。性格や、見た目までもが。
有力貴族の娘だけどそれを鼻にかけずに平民の私にもすごく気さくに接してくれるし何より、まるで王子様みたいに夢心地にさせてくれるような言葉をかけてくれるの!もう天にも上る心地だったわ!フワッと笑うと細まる琥珀色の瞳とか、柔らかそうな長い黒髪とか、ゲームではなかった彼女の魅力を最大に引き出してる。体型も、程よく引き締まってしなやか。ゲームとはまるで違うわ。
そして彼女と友達になった後、私は決めた。
絶対に乙女ゲームはしない!レイラを不幸にはさせないって!
何であのゲームはレイラを不幸にするの!?いや、確かにゲームの方はすっごい性悪女で正直ザマァって思ってたけれども!
正直レイラが虐めなくても他の人が虐めてきたりとか強制力は強いけど、だから何よ!私はゲームはしないわ、するとしても通称お一人様エンド、『世界一の光魔術師』を目指す!せっかくヒロイン補正持って生まれたんだもの有効活用出来る物は躊躇なくするわ!
前世で一緒にいれなかった分、今は頑張る!
という訳で、私は今日もレイラと一緒に行動している。
「ルリの髪はサラサラだね。思わず手を伸ばしたくなるよ」
「そっ!そんなこと……!レ、レイラの方が、ずっとずっと綺麗な髪だよ!」
「あはは、ありがとう」
ふ、ふわわわわわわ今絶対顔赤いよ!
どうしよう、変に思われてないかなぁ。
ああああレイラの手が私の髪に、髪に!
「ふふ、照れちゃって。可愛いなぁ」
「も、もうっ!」
「…………………………何をしているのですかレイラ様」
「あ、ウィル」
「!?」
え、ウィルって、攻略対象の!?
ど、どうしよう何かするべきかな!?
今のレイラじゃゲームみたいに冷え切った関係じゃないだろうけど、でも………。
「どしたのその口調……」
「レ・イ・ラ・さ・ま?」
「あ~……こほん。何してんのって、何が?」
「同性の同級生の方とまるで付き合いたての初々しいカップルみたいな雰囲気を醸し出している事についてですよ何をしているのです?」
「何って……見て分からない?」
「分からないから聞いているのですよ」
「新しく女性の友達が出来たので親睦を深めているんじゃないか、どう見ても」
「どう見てもそうは思いかねませんが」
う、うーん?関係は冷え切ってないとは思えるけどウィルの視線はすごい冷え切ってるわ……。
「あ、ごめんねルリ。彼は私の従者のウィルだよ」
「お初にお目にかかります、ウィルと申します。主人と親しくされていただいているようで私としても嬉しい限りでございます」
「……………あー、うん。ウィル、そんなに畏まらなくても君一応先輩なんだし少しくらい態度崩しても……あ、すみません」
えっと、レイラが主人なのよね?一瞬逆に思えるのは私がおかしいのかな?
って、黙ったままじゃ駄目だ、私も何か言わないと。
「あ、ルリ、です。こちらこそ、仲良くさせて頂いて………きゃっ!?」
「ルリ!?」
何かにぶつかってよろめいた私を、レイラが慌てて抱き留めてくれた。
う、わ、顔、近!?それに、何か良い匂い……じゃなくて!!誰!?
「あら、伝統あるこの学校にまさか平民風情なんかがいらっしゃるとは思わずぶつかってしまいましたわ」
「大丈夫ですか?平民の汚れが移ってはいませんこと?」
「…………」
今朝も絡んできた令嬢達だわ。
確か、ゲームでこんなシーンあった気がする。この人達じゃなくてレイラだったけど。確か、ルーカスの出会いイベントで私慰められるのよね………いらんわ!慰めとか!レイラで間に合ってるわ!
「図々しくも居座って、恥という物がないのかしらね」
「アクロイド様にそんなにくっついて、平民のくせに」
「……!あ、ご、ごめんなさい!」
「いや、いいよ、気にしなくて」
恥がないとか平民のくせにとかはムカつくけど、レイラにずっと寄り掛かったままだってのはさすがに恥ずかしい!
「………………」
……レイラ、難しい顔してる。そりゃそうだよね。レイラ優しいから、こういう事は良くないって思うよね。
私が言い返すことは出来るけど、それじゃあ波風立てるだけだし。
悔しいなぁ……レイラを守ろうって誓ったくせして、何も出来やしない。
黙ったまま何も行動しない私に構わず、令嬢達は好き勝手言ってくる。
「貴女と一緒にいたらアクロイド様の品位まで疑われてしまうわ」
「そうよ、さっさと離れなさいよ」
「……何よ、睨みつけたりして」
「いやだわ、これだから平民の女は野蛮なのよね」
五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い!
貴女達に何が分かるのよ!
あの人に会えないって落ち込んだままの私にレイラが優しくしてくれてどれだけ嬉しかったか知らないくせに!
平民平民って、結局は親の七光りじゃないのよ、じゃあ私に勝ってみなさいよ!
「………ねぇ、君達」
そう心の中で叫んでいた私の耳に、心地好いアルトの声が聞こえた。
「あっ!な、何でしょうか、アクロイド様」
レイラはただ無表情で令嬢達に近寄っていく。
その異様な迫力に、彼女達は顔を青ざめさせて黙る。
「レ、レイラ……?」
ただレイラが地を踏み締める音だけが辺りに響いた数秒。
そして、令嬢達の数歩前で立ち止まったレイラは、ただ彼女達を見据えた。
「あ、あの……!お気に触られたのであれば、申し訳ありません!」
「私達、アクロイド様の品位が損なわれるのではないかと、思って……」
彼女達の言い訳めいた弁明に、レイラは何の反応も見せず、ただスッと手を動かした。
「……っ!」
叩かれる、と思ったのだろうか、レイラの目の前にいた令嬢は目をきつく閉じる。
彼女は恐らく、アクロイド家には足元にも及ばぬくらいの貴族なのだろう。レイラがちょっと手を上げたくらいじゃ文句は言えない。
でも、レイラに対する悪評は広まるだろう。
「……っ!レイラッ」
そうしたら、彼女がゲームのレイラに近づいてしまう。
そうしたら、レイラは不幸になってしまう。
そんなの、そんなの……
「駄目……!」
──ポンッ!
「………え?」
予想とは裏腹に気の抜けるような音が辺りに響いた。
音の出所を探り辺りを見渡すと、一つの違和感。
レイラの手に、一輪の薔薇が握られていた。
レイラは徐に薔薇を持ち上げると、そっと令嬢の髪に挿した。
「へっ?あ、あの……?」
「……うん!やっぱり似合う。君の赤い髪には、大輪の薔薇が似合うと思ったんだ」
ニコッと、先程の無表情は何だったのかと思うような華やかな笑顔を見せるレイラ。
それを間近で受けた令嬢達は、若干頬を染める。
うん………あー、すごく気持ち分かる。
「この学校にいるかぎりは、皆等しく切磋琢磨出来るんだから、仲良くする方が有意義だと、私は思うよ?」
「そ、それは………」
気まずそうに俯く令嬢頬に、レイラは手を伸ばした。
そして俯いた顔を上げさせ目を合わせると目を細めて、フワリと笑った。
「それに……さっきの顔より、貴女の可愛い笑顔を見れた方が、嬉しいな」
──ぼぼぼぼっ!
うわぁぁぁあ!
ちょ、何今の、言われてない私まで顔赤くなるよ!?
これ並の男が言ったんじゃ引くだけだけど、レイラが言ったんならもう、もう……!
少し離れた私がこうなんだから、真正面から受けた令嬢はもう失神寸前だわ!
「ふわ、あ、あの……!」
「……ね、少しは、私のお願い、聞いてくれる気にならない?」
「ひゃ、ひゃい!聞きますわ!」
「………………またか」
「ふふ、ありがとう。嬉しいな」
「そ、そんなこと、ないです!お、お姉様!」
「………お姉様?」
「………うらやましいわ……」
「ホントですわ……もうちょっと場所が近かったら私も……」
わあ、レイラタラシこんでる………。
でも私も羨ましいわ………。
「……あれ、アクロイドさん、何かあったの?」
「ああ、シュナイダーさん。いえ、何もありませんよ。ただ、彼女達と仲良くしてただけですよ。ね?」
「は、はい……!」
「そうですわ!」
あ、ルーカス今来た!!
イベントの心配あったけど、もうレイラがバッチリ解決してくれたから大丈夫だよね……?レイラ信者は絶対増えたけれど……良いことなのかなぁ?
「……そう、ならよかった。そろそろ授業が始まる時間ですよ?」
「ああ、そうなんですね。皆さん、授業が始まるそうなので戻った方が良いのでは?」
「わ、分かりました!ご迷惑おかけして申し訳ありません!行きましょう!」
「ええ!では、失礼します!」
赤い顔でパタパタと走り去っていく令嬢達。
「じゃあ、僕も失礼させてもらうね」
「はい。教えて頂きありがとうございます」
「いえ、気にしないで」
そして、ルーカスも私と会話する事なく去って行った。
………イベント回避、成功?
「………レイラ様?」
「………はい」
「また、ですか?」
「……ごめんね?」
「………………………」
「も、申し訳ない」
………助けられちゃったな。守るって誓ったのに……。
「……あ、ルリ」
「え、あ、うん」
「大丈夫?ごめんね、すぐ庇ってあげられなくて」
「い、いや、そんなこと!むしろ、助けてもらってありがとう……!」
「そんなこと気にしないで。女の子を守るのは当然の事なんだから」
『気にしないで。女の子を守るのは当然の事だから』
…………あ。
今、何となくだけど、分かった気がする。
きっと、レイラは、優さんなんだ。
何の因果でレイラになっているのかは分からない。
だけどきっとこの人は優さんなんだ。
「………レイラ」
「ん?何?」
「次は、私がレイラを守るからね!」
「え?……ふふ、ありがとう」
前世も今世も守られちゃったんだもん。
今度こそ私が、レイラを幸せにしてみせる!
ゲームのシナリオ通りになんて、させないんだから!!
「……レイラ様ァ、ちょっと放課後話があるので待ってて下さいねェ…………今度すっぽかしたらただじゃおきませんよ」
「は、ははははははい!」
………あれ、今助けるべきかな……?
お、お久しぶりでございます。
更新停滞過去最長を更新してしまいました申し訳ありません……。
ちょっと今回難産でして………究極話を変えたのでこうなりました………ハイ。
なろう様がリニューアルして初めての投稿です。今更感!!
ちょっと使いやすくなっててテンション上がっています。勢いで次の連載作品投稿しそうで自分が怖いです。もし投稿してたら半目で見守っていて下さい……m(__)m
さて、初ヒロインルリちゃん視点です。
お花畑系電波ヒロインでもよかったのですが、やはりキャラクターは愛されてほしいな……と。そもそもこの作品自体がお花畑のアッパラパーな気がしなくもないのですが深くは追求しないで頂きとうございます。
ここまで読んで頂きありがとうございます。これからも温かく見守っていただければ幸いです。




